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猫様の下僕日記  作者: 鮎川 了
黒猫様の下僕日記
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永遠の美少女猫




 熊吾郎の外出中、ふと勝手口を見ると戸の隙間から虎縞の猫が顔を出していた。

 逃げるかも知れないと思い恐る恐る近付いたが、警戒している顔をしている割りには逃げる様子が無い。

 シロスケが死んで以来初めての猫の来客である。顔を見る限りメス猫のようだし懐いてしまっても熊吾郎を追い出すことなんてないだろう。

 抱っこするとすんなり身をまかせてくれる割りには、控え目に「シャー」と威嚇の声を出す。

 ……あれ?

 誰かに似ている。誰だっけ。

 居間に連れて行ってカリカリを振る舞い、食べてる間、彼女の毛色や体型を見ていたらやっと思い出した。

 「チビ?」

まさかそんな。


 “チビ”は近所のTさん宅の飼い猫で、八~九年前ぐらい前に初めて見た。

 その頃、ウチでは“きいろ”と“しろ”という猫が居て、特に“しろ”はチビの事が大好きで、よく後を付け回しては彼女の逆鱗に触れていたのでよく覚えているのだ。

 人に良く慣れてる割りには短気でよく怒る猫だった。

 不思議な事に、チビは仔猫を産んだ事が無い。

 気が強いとはいえ、可愛らしい顔立ちをしているのでモテない訳はないのだが、チビのお腹や乳が大きくなっている所をついぞ見たことが無かった。

 避妊手術をしたのだろうと思ったが、手術の痕が見当たらない。傷痕もすっかり消える程、術後の年月が経っていると言う事なのか、そうすると、チビは私が初めて見た時既に結構な大人だった事になる。 

 そうすると、現在どんなに少なく見積もっても十才以上。

 かれこれ5~6年見掛けなかったので、てっきり亡くなってしまったものと勝手に思っていた。


 思わぬ再会に一人テンションの上がる私だったが、しかし、小気味良い音をさせてカリカリを食べている彼女の顔は十才超の老猫にはとても見えない。

 体型も毛並みも昔通りだし、何よりとても元気そうだ。

 

 しかし、姿を見せなかった数年間、どうしていたのだろう?

 彼女が姿を見せなかった間に、色々な事があったのた。


 彼女の事が大好きだったシロはもう居ない。

 シロの弟分のクロももう居ない。

 ぶっちーの一族ももう居ない。

 チビのライバルになりそうだった美猫のナナ嬢ももう居ない。

 シロにそっくりなQ太郎も、やんちゃなクロぶっちゃんももう居ない。

 そして、長老と化していたシロスケも今年の春を待たずに居なくなった。


 ちらりと思い出してみただけでも、こんなに沢山の猫と出会って別れて来た事に驚いた。

 そしてその間、チビが生き抜いて来た事に驚きと嬉しさと少々ばかりの恐怖を感じ、もう一度聞いてみた。


「ねえ……チビだよね?」


「しつこいね、この下僕は。最近色々あって落ち込んでいるだろうから様子を見に来てやったのさ」


 仔猫のような風貌の長老猫はこの辺の猫達の事を全て知っているのだろう。

 彼女が軽快にするりと去っていった後、暫くして熊吾郎が帰って来た。


 



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