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猫様の下僕日記  作者: 鮎川 了
黒猫様の下僕日記
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金目銀目の王様の玉座


 挿絵(By みてみん)


  

 昔書いたものを確認してみたらシロスケが初めて現れたのは五年前。

 その時、既に彼は老猫だと思っていたのだが、その時撮った写真を見ると若猫の風貌をしている。

 と云うことはどんなに多く見積もっても七才以下なのだろう。

 家猫と違ってノラ猫の寿命は二年とも五年とも云われている。

 それを考えれば長生きの方なのだろう。

 今まで、もうダメだろうと思うような怪我を負ってもいつの間にか治っていたし、もしかしてコイツは不死身の猫なのかと本気で思ったりもした。


 しかし、今冬になってシロスケはかなり弱って来た。

 食欲はあったのだが、食べにくそうなので最近は食べやすいようにと、カリカリに水やぬるま湯をかけたものを与えていたのだ。これを私はカリカリ茶漬けと呼んでいる。

 好きな柔らかさになってから食べられるし、水分も一緒に摂れるので画期的だと思う。


 ある日、シロスケがいつもの如く我が家に忍び込み、台所のテーブルセットの椅子に乗ってくしゃみをした。

 あまりにも見事なくしゃみだったので、中年親父かと思う程だ。

 風邪など引いたら冬を越せまい。


 そんな事を思っていたらシロスケは姿を見せなくなった。

 前日、何かバタバタと忙しく、朝も夜も食事を与えないでいたので、少しばかり後悔した。

 風邪を引いた上に空腹で死んだとしたら、いくら愛猫の仇とは云え気の毒である。


 実はシロスケが憎くて食べ物を一切やらない時期もあったのだが、それでもシロスケは来た。何年も何年も、我が家のガレージで雨や風をしのいで、積み上げられたタイヤに乗せた座布団を玉座として其処に居た。


 ぷー太郎が死んだはアイツのせいだ。

 Q太郎の病気もアイツが移したんじゃないか?

 だからアイツは疫病神だ。

 そう思っていたのだが、やがて

 アイツは、この家を守ってくれているのではないか?


 そんな気さえしてきた。


 ……と、そんな事を考え数日経った日、仕事から帰って来ると勝手口の前にシロスケが居た。


 目と鼻と口が真っ黒に汚れて、ガリガリに痩せた、猫と云うよりは妖怪のような風体になったシロスケが其処に居た。

 要するに今まで何処かで“おこもり”していたのだ。

 猫は病気になったり、怪我をした時、人気の無い静かな場所で何も食べずに何日も過ごす。

 これを“おこもり”と云う。

 驚くべき事に、骨折なども“おこもり”する事によって治ってしまうらしい。 

 そうして具合が良くなると、家に帰って来るが、運悪く、そのまま天国に旅立ってしまう猫も居る。

 

 シロスケは天国ではなくウチに帰って来た。しかし、どう見ても“良くなった”とは言い難い。

 空腹であろうシロスケに、いつものカリカリ茶漬けを出してみたが食べない。

 黒く汚れている目は開いていないようだし、いつにもまして体の動きが鈍い。

 いつかのように、そのうち回復して熊吾郎の食事を盗み食いしたり、ゴミ箱を漁ったりするようには見えなかった。


 帰って来る場所を間違えてるだろう?

 散々意地悪をした人間の処に最後の挨拶をしに来たのか?なんて馬鹿な猫だ。


 ボス猫の座におさまり、妙齢の雌猫には全て手を付け、自分の遺伝子をばらまきまくったシロスケ。

 最後には自分と血の繋がらない雌猫は居なくなってしまったが(どれも自分の娘だったり孫だったりするので)

 それはそれで本望なのだろう。

 オス猫としてはかなり理想の猫生だったのではないかと思う。

 シロスケをふん捕まえて、去勢手術を受けさせようと何度思った事か。

 

 しかし、シロスケが居なかったら、私はQ太郎にも熊吾郎にも会えなかったのも事実だ。

 心中複雑だ。ヤツは仇でも恩猫でもある。


 再びシロスケが姿を消し、タイヤの上の座布団が落ちているのを見て、

 ……ああ、逝ってしまったのだな。と、何故だか判らないがそう思った。








挿絵(By みてみん)

【写真】

上:プレイボーイとして浮き名を流していた頃のシロスケ。


下:現れて間もない頃のシロスケ。

若猫特有のあどけない顔をしている。



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