極寒の羞恥プレイ
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猫や犬の年齢を人間の年齢に換算する時は、最初の一年で二十才、その後は一年につき四才と計算すればいいそうだ。
この計算で行くとQ太郎は二十三才ぐらいの青年と言うことになる。しかし。
食後におやつをねだる二十三才の青年。
ネズミのオモチャや猫じゃらしで腕白に遊ぶ二十三才の青年。
いささかQ太郎は子供っぽすぎる。
いや、それだけなら「ウチの猫なんて三才だけど、猫じゃらし大好きですよ」「雄猫っていつまで経っても子供っぽいところがあるからね。まあ、そこがいいんだけど」と、仰りたい愛猫家の方々もいらっしゃる事だろう。
基本、Q太郎は家の猫トイレで用を足すのだが、それは“小”の方だけで、“大”の方はなるべく外で用を足したいらしい。
仕事を終え、帰宅すると、家で留守番しているQ太郎がなんだか落ち着かない。
Q太郎の食事や、自分の食事などを用意するのに忙しい私の足元を鳴きながらウロウロする。
腹が減ってると云うより、何か切羽詰まったようなその様子にやっと「あ、Q太、うんこしたいんだ? 」と気付き、玄関を開けてやるが、なかなか玄関から出ようとしない。
「今日はコワイ猫いないよ。早く行っておいで」と云っても、私と外を交互に見ながら困っている。
「まさか……Q太、ひとりでトイレ行くの怖いのか?」
冬の夕方はもう真っ暗だ。しかし、夜行性の猫が暗闇を怖がってるとは思えない。
「了さんゴハン作るのに忙しいんだからひとりでいっといで、Q太のマグロも煮なきゃいけないでしょ?」
いろいろとなだめすかしてみるが、それでも玄関から動けずにいる。
やがて、私が呆れて食事の仕度の続きをしようと台所に向かうとQ太郎は私の後を追ってきた……と、思いきや、なんと、台所の向かいの風呂場に行き、脱衣所のバスマットを前足で掻き始めた。それはつまり……
「だー! ダメだQ太! そこでするなああ!」
バスマットの上で用を足す気満々のQ太郎を抱え、煮立ちまくってる鍋などお構いなしに玄関へダッシュする私。仕事でもこんなにダッシュしたことなどない。
「わかったわかった、見ててやるからトイレしなさい」とうとう根負けして御猫様の脱糞シーンを見守る事となる。しかし、これで終わりではない。
「なーい」
冬の東北の土は氷点下で凍ってる。まるでコンクリートのようにカチカチだ。
「なーい」
ご存じの通り、猫は地面を掘り、そこに用を足して土を掛ける。しかし、地面が掘れないほど固いのだ。しかし、そんな事、私に文句を云われても困る。Q太郎はきっと、地面が凍っているのも郵便ポストが赤いのも全て私のせいだと思っているに違いない。
それでも何とか掘れる位柔らかい所を探しだし、至福のひとときを迎える。
子猫ならまだしも、もうすぐ二才になる青年猫が、こんな有り様では情けない。
もし、Q太郎が人間なら私は、“こいつはどっかオカシイに違いない”と、“そっち系”の病院に引き摺って行くだろう。
しかし、猫は“どっかオカシイ”ぐらいが可愛いのだ。迷惑掛けられるぐらいが猫と暮らす旨みになるのだ。
「はい、終わった? じゃ、ゴハンにしよう」
私の夕飯のおかずは焦げ付き、Q太郎のマグロは火を通し過ぎてパサパサだ。
……やっぱり、迷惑掛けられる旨みなんて無くてもいいかなあ……と、思った冬の夕方だった。