猫様兄弟仁義
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さて以前、故Q太郎の異母兄弟として登場したクロちゃんだが、クロちゃんだと“クロぶっちゃん”と名前が被って紛らわしいので以後“黒Q”と表記する事にしよう。
その黒Qだが、最近とんと姿を見せないので縄張り争いに負けて旅にでも出たのかと思ったが、つい先日見かけた。
すっかり縦にも横にも大きくなって、“おっさん猫”の貫禄を身に付けている。しかも真っ黒いのでのそのそと歩く姿はまるで月ノ輪熊だ。
Q太郎を揶揄すると“白ダヌキ”だったのに。全く同じ体型でも白と黒とじゃこんなにも違うのか。一体誰だ? Q太郎の事を白ダヌキなどと呼んだのは? けしからん……って、私か。
しかし黒Qは本当に色と尻尾の形以外はQ太郎にそっくりだ。
きっとマグロが大好きに違いない。否、マグロが嫌いな猫なんて見た事が無いが。
駆け寄ってモフモフしたい衝動を必死で抑え、暫く黒Qを観察していると、何やら威嚇のポーズをとり出した。
視線の先を見てみると、シロスケが居て、やはり威嚇している。
ううむ、父と子の戦いが始まるのか? と思っていたら、黒Qは時々振り返って威嚇しながら逃げた。
逃げているのに容赦なく追いかけるシロスケ。
黒Qとシロスケでは、シロスケの方が強いらしい。
……シロスケ前歯無いのに。
犬歯さえあれば喧嘩は勝てると云う事か。
黒Qが姿を見せるようになったのは、きっと、Q太郎が居なくなったので、この辺の猫達のパワーバランスが崩れたからだ。
Q太郎はその鈍感な性格と動きが鈍そうな体型とは裏腹に、この辺りでは結構強い猫だった。
いや、鈍感だからこそ敵の攻撃にも怯まずに立ち向かって行けたのかもしれない。
私が把握している限りQ太郎はこの辺りの猫の“ナンバー1”だった。
そして“ナンバー2”はシロスケ(歯がないのに)
黒Qの誤算は“ナンバー2”が健在だったことなのだろう。
「ふっふっふ……コレでこの辺りのナンバー1は俺様に……」
「考えが甘いな、若造」
「お、親父!? まだ生きていたのか?」
「まだまだオマエのようなハナ垂れ小僧には負けぬ。くらえ、必殺スペシャルサンダーエクストリームアイア……」
「ひいい! き、今日のところは勘弁しといてやらあ!」
「まてぃ! 逃げるとは猫の風上にも置けぬ!」
……みたいな感じだったのだ。きっと。




