昔の猫様と今の猫様
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Q太郎は胃腸が弱いので魚を丸ごと食べられない。
骨が胃腸を刺激して吐いてしまうのだ。
それ以前に魚の食べ方が下手で、骨を喉に引っ掻けてしまうという危惧もあるが、胃腸が弱いとは云え食いしん坊であるので、消化の良いものを与えたとしても一気食いしてそれで吐いてしまう。
“食べる事が好きなのに食べるのが下手”なQ太郎であるが、これは成長期に食べやすいものばかりを与えていた私にも責任はある。
ふと、昔の猫様の食生活の事を思い出してみた。
昔の猫様は粗食であった。
いわゆる“猫まんま”“猫めし”と呼ばれる、御飯に味噌汁をかけたものを常食としていた。
米も味噌汁も肉食の猫様にとっては適切な食物では無いどころか、そんな動物性蛋白質が皆無の食事ばかり与えていたら栄養失調になってしまう。
勿論、たまに魚の骨や煮干などが“猫まんま”にのせられる事はあったが、本当にごくたまにだ。
それでも、そうして“猫まんま”で育てられた猫様はこれと云った病気もせず、長生きした。
人間でも“野菜を沢山食べる人は長生きする”と云われるし、確かに栄養面でも医学的に実証されている。
しかし、人間は“雑食動物”である。ぶっちゃけ、何を食っても生きて生ける。対して猫様は肉食動物だ。野菜や炭水化物ばかり与えるのは、ウサギや馬に生肉を与えるのと同義である。
そんな、本来食べるべきでないものばかり与えられた昔の猫様が、どうして健康で長生き出来たのか、私なりに考察してみようと思う。
この“本来食べるべきでない”食物というのがカギになっていると思うのだ。
つまり、それは消化吸収しにくいと云う事になる。
当然、胃腸にかなりの負担をかけている事になる。
その負担をほぼ離乳の頃から続けてきたとしたら、胃腸は鍛えられて丈夫になる。と云う事ではないか?と、私は思う。
人間でも、お金持ちのお嬢様が、ちょっと傷んだものなどを食べると体調を崩してしまうが、私のような筋金入りの貧乏人は少しくらい傷んだものを食べても何ともない。それと同じ理屈ではないかと思われる。
たまに出される魚の骨や、味噌汁に使用される煮干しや鰹節の出汁などの僅かな動物性蛋白質を余すことなく体に取り込み、それで栄養失調にならずに済んでいた。と云う事も考えられる。
更に、昔の猫様は殆んど外出自由であったから、外で野鳥やネズミや池の魚を捕まえてそれを食すのも自由であった。
つまり、毎日の食事に栄養が足りなくとも、それを自分で補うという能力があったのだ。
当然、こうした“狩り”は体力を使うので、自然と、体も鍛えられたのだろう。
生の獲物を皮や骨ごと食うわけだから益々胃腸や顎も鍛えられる。
こうして考えると、昔の猫様に人間が与える食事は単なる空腹をまぎらわせる為の“間食”であって、主食は自分で捕まえる小動物となる。
昔の猫様のなんとワイルドな事か。
人間と暮らしながらも、人間に依存しないクールなその生きざまは格好良すぎて目眩がする。
そして、これを書き終わろうとしている今、Q太郎が例の如く反射式ストーブの前でむくむくに太った体をだらんと横たえて爆睡している様を目にし、違う意味で目眩がしてきた私であった。




