下僕の過酷にして恐ろしい仕事
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猫様の下僕というものは実に忙しい。
猫様の食事の世話や、下の世話は云うまでもなく、狩りの練習にも付き合わされるし、グルーミングで毛並みを整えてやらなきゃならないし、昼寝用の心地好い寝床を用意しなきゃならないし、体調管理も大切だ。
その中でも一番、過酷な業務がある。
過酷過ぎて今まで一体何人の下僕が脱落していったか分からない程である。
それは
“猫様の添い寝係”である。
ご存じの通り猫様は大変寒がりで、いくら暖かい蒲団や毛布を用意しても満足しない場合がある。
特に夜などはほったらかしにしておくと、翌朝、物凄く恨みがましい目をして、下僕に呪いの言葉を浴びせかける。
ならば、自分から下僕の寝床に潜り込んでくればいいじゃないか?と、思うのだが、相手は猫様である。
この世で最も気位の高い、高貴なる生き物である。そのような事はプライドが許さないらしい。
どうすれば猫様の機嫌を損ねる事無くこの業務を遂行出来るのか?というと、全て自分の寝仕度を整えた後、ソファーなどに寝ている猫様を抱っこして寝床へお連れするのだ。
当然猫様は寝ている所を起こされたのだから機嫌悪気にぶつぶつ云っているが、喉を鳴らしたりしてまんざらでもない様子である。
嫌なのか良いのかハッキリして欲しい所だが、これは例えて云うなら“ツンデレ”であろう。
「し……仕方ないから一緒に寝てあげるんだからねっ! 別に私が寂しい訳じゃないんだからねっ!」
みたいな。
さて、寝床へ行ったら、猫様を抱いたまま、やおら倒れ込む。そして猫様の負担にならないように掛け布団を片手で引き上げて掛けるのだ。
倒れる時に、読みかけのハードカバーの本や目覚まし時計や無駄にデカイ硝子の灰皿などが寝床に散乱していないように予め片付けておく事が必要だ。
倒れ方も重要で、倒れた際に壁に頭を打ち付けたりすると、下手をすればそのまま永遠に眠る事になってしまう。
頭が枕に着地するよう、綿密に計算せねばならない。
そうなのだ。この業務は熟練の技が必要なのだ。
しかも、これで終わりではない。
下僕の日常は忙しい。
「Q太郎を寝かしつけてから残った仕事を片付けよう」とか、
「ちょっと本読みたいなあ」とか思っていると、猫様の毛のモフモフと体温のじんわりしたなんとも言えない暖かさと心地好さで、下僕もそのまま朝まで爆睡する事となる。
なんと過酷で恐ろしい業務であろう。
“いつか猫様の下僕になりたい”などと思っている読者諸君は、この恐ろしい仕事の存在をよーく考慮して頂きたく思う次第である。
ああ、恐ろしい恐ろしい……ぐうぐう。




