◆08 海賊の人魚と記憶喪失の美男子
「荷物が積み終われば、いつでも俺と共に財宝探しの航海に出られるな」
「…………わたしは一言もお前を連れて行くと言った覚えは無いんだが……」
ルージュは集まった海賊達がせっせと航海の準備をはじめているのを見ながら、がっくりと肩を落とした。
巣に帰っていくカモメ達がルージュ達の頭上を過ぎていく。
肩に糞を落とされた。それを拭こうともしないルージュを見て、隣のオールトは言う。
「うんがついてるなルージュ」
「わたしの望んでいない方向になっ! 探している財宝を見つけられた方が何百倍も嬉しかったよ! 勝手に話が進んでいるが、わたしは船長になるつもりはないし、オールトを連れて行く気もない」
「じゃあ誰が船長になるんですぜ? 多分ここにいるやつら全員、あなた以外認めないと思いますが」
物を運びながらルージュ達の会話を盗み聞いていたのか、顔を腫らした男が問いかけてきた。
ルージュが水袋を投げつけた中肉中背の男だ。元副船長だったが、ルージュはこの男と話をしたことがなかった。
「……わたしはあなた達からすれば、裏切り者になるんだが。また裏切るかも知れないわたしを船長にしたいのか?」
「何言ってるんですぜルージュ……おっと、船長。わかっていると思いやすが、おいら達海賊は、楽しめればそれで良いんですよ。効率が良いから、集まるだけなんですぜ」
「そうだな。わたしも同じだった。けれど、あなたは水袋を投げつけられて怒っていないのか?」
「いえいえ。副船長とは名ばかりで、おいらはアスターシと船員の緩衝役でしたから、あんなので怒る気になれませんぜ」
男はやれやれと首を振る。思い返せばこの男が副船長として命令していた姿を見たことが無い。いつもアスターシの側に、文字通り影のように居た。えたいの知れない男だ。
「船長はおいら達に恨まれていると思ってるんですね? 何を恨むって言うのです? 仲間意識なんてありません。船長はその逃げ足で名前が知られていますが、おいらのような腰巾着は違います。他の奴らもそうですぜ。互いに自己紹介しない限り、知り合うことは無いんですから。海賊ってそういうものでしょう? 嫌になったら船を下りればいい」
「けっこう乾いた関係だな」
静かに聞いていたオールトが、ルージュの肩の糞を拭いながら言った。拭っている布は、いつの間に取ったのか副船長だった男が腰に巻いていた布だ。
男はそれを見て、自分の腰を確認しながら続けた。
「ええ。掟なんてあってないようなものですよ。だから船長も寝首を掻かれないように注意した方が良いですぜ。まーあんなの見せつけたんですから、要らない注意かも知れませんが。ちなみに、おいらのことは好きに呼んでくだせい」
ルージュが渡り歩いてきた海賊達は色々な人間関係を作って居たが、アスターシの手下達は本当に烏合の衆らしい。それをまとめるのがルージュだと、彼らは一致しているという。
「ほらな。中肉中背が言うように、もうあんたが船長って決まりきっているぞ?」
「……じゃあわたしは今から船を下りる」
「……それは早過ぎやしませんか?」
何食わぬ顔で汚れた布を返すオールトに、その布をつまんで受け取る中肉中背。
オールトの言ったとおり、船長になればルージュの思い通りに身の危険が少ない航海ができるだろう。
うまい話だと思うが、大勢の手下達を持つのはルージュにとって、とても煩わしいことだった。オールトについてもそうなのだ。
ルージュは必ず彼らを裏切ることになる。何故ならルージュは他人のために命をかけられないから。言うなれば、財宝さえ見つかれば後はどうでも良いのだ。
「どうしてもと言うなら止めやしませんけど。ではその別嬪さんはどうするんですぜ? おいらは興味ないですが、船長だから従う奴もいるんです。船を下りるとなれば別嬪さんの身の保証は無いですね」
「げっ」
オールトの声に、ルージュも気が付く。船を下りたら、オールトを安全な所まで送り届けなければ行けない。空はもう暗くなっていた。
次で一区切りになります。
※登場人物紹介(ネタバレ有り、キャラ崩壊、読み飛ばし推薦、以降追記有り)
*鳥の糞を拭いた布
腰に物を差したり色々便利です! 飾りにもなって、注目度が増すでしょう!
おーるとはおやじにしんかした。