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◆05 海賊の人魚と記憶喪失の美男子

※暴力表現有り

「オールト!」


 ルージュが叫んだのと同時に、波の音に混ざって水音がした。この先は崖だ。

急いで海をのぞき込めば、押し寄せる波間から赤い光りが煌めいた。

海賊達の驚く声を後ろに聞いて、ルージュは躊躇せず崖から海に飛び込んだのだった。




 落とされていた食糧を目印に、攫われたオールトを追えば、その道中で元仲間達に出会った。


彼らは生き延びたことを幸運だと自慢し、そして宝石を返せと言って襲いかかってきた。

 ルージュが船中で徹底的に喧嘩を避けてきたからか、手下達は油断しきっていて昏倒させるのは簡単だった。


 恩に着せるつもりはないが、海賊船が沈められても水死する者が少なかったのは、ルージュが海から拾い上げたからだ。

それなりの時間を寝食共にしたのだから、という気持ちから助けたのだが、ルージュと同じ船に乗っていたという意味で彼らは幸運と言えるかも知れない。


 手下達を地に沈めた後、突然響いた銃声にルージュは足を速めた。

そして、海賊達が集まる丘の上につけば、オールトに絡む口ひげの海賊、アスターシが居た。


 男だらけの船に長いこと乗っていると、段々と彼らの趣向が傾いているのが知れたものだ。驚きはしないのだが、そっち系じゃない者からすると進んで見たくはない。人前で睦み合うのはいかがなものかと思う。

 やはりというか、不幸にもオールトはそのために捕まっていたのかと、オールトに対してもルージュはちょっと引いた。


 嫌そうにアスターシから体を反るオールトは、ルージュに怒りの視線をよこしてきた。遅いと言いたいのかと、ルージュは謝るが余計に睨まれた。

助けに来たというのに嫌な男だ。


 船長のアスターシも、手下達同様ルージュは戦うことが出来ないために逃げているのだと思っているらしい。半分当たっていて、半分はずれている。

 ルージュを軽く見ているアスターシは、一対一に持ち込んでくれたとはいえ、丸腰の相手に銃を向けるのだから対等ではない。ルージュは元より望んで居なかったが。

 海で敏捷さを誇る種族は、地上でもその速さは衰える事は無かった。



 銃弾を避ければ、周囲は呆然とした。


今が逃げる好機かも知れないのに、オールトでさえ呆気にとられて固まっている。

 下手に行動するよりは賢明な判断だと思うが、体つきからしてオールトに体力があるとは思えないので、ルージュ自ら助け出すしか無いようだった。


 ルージュは戦いが嫌いなだけで、戦わずして生きてきてはいない。海賊として甘いのは自覚しているが、命のやりとりはしたくないのだ。

 戦いを避けるには、必然的に逃げる道をとるわけで、逃げて逃げ続けていたら嬉しくない通り名をつけられていた。

戦う者達にとっては不名誉なその名でからかわれること幾百。いい加減鬱陶しいので隠密に嫌がらせして止めさせてきた。

 だからルージュの力量は知れ渡らず、わからないために、海賊達はルージュに手を出して来ない。

船で共に過ごす内にアスターシ達は勝手に誤解したらしかった。


 それが悪い方向に働いいた。

プライドの高いアスターシはオールトを人質にとった。その腕がオールトを窒息死させようとしているのにも気づかないほどに、ルージュの力量に狼狽えている。

 早く決着をつけなければとルージュは焦って、宝石と交換にしようと取引を持ちかけた。


 ……オールトが宝石を奪って逃げ出すなど、誰が予想できたのか。

出し抜かれたのかとルージュは思ったが、アスターシが懐から出した細く短い剣を見て、その行動の意味を理解した。

 追いかけようとしたルージュに隙を見たのか、アスターシはオールトを手下に追わせて剣を突き出してくる。


「死ねえぇ!」


 刺し貫こうとする刃を寸前でかわす。服の上部が裂けたが、ルージュの身に刃が触れることはなかった。

ルージュは避けた勢いを殺さずに、アスターシが投げ捨てた舶刀を手に取り、剣を握る野太い腕に体重をかけて振り下ろした。

 決着は一瞬。

 ルージュの重さでは骨までとはいかない。だが、傷つけられた腕はしばらく使い物にならないだろう。


 ルージュは痛みの怒声をあげるアスターシに飛びかかり、素早く止めの手刀を加えて昏倒させる。

倒れた体を下敷きに立ち上がれば、残っていた手下達は恐怖を目に浮かべていた。アスターシに駆け寄る者は一人もいない。

日頃から船長の所行を見てきたルージュはそれも当たり前かと目を伏せた。

 手下達が何を考えたのかはルージュにはわからなかったが、追いかけてくる様子もないので気にせずにルージュはオールトを追ったのだった。




「どこだ? 居るなら返事をしてくれオールト!」


 海上に顔を出して叫ぶが、沈んでしまったのか返事はない。


 人は海で息が出来ない。

 魚が陸で窒息するのと同じ様に。

 人魚であるルージュと違って。


 急がなければと、ルージュは深く潜る。人魚の大きな尾ひれは、崖によって発生する激流をものともしない。

長く伸びる海藻達を引きちぎる勢いで泳いでいけば、赤い光りが人の手から煌めいた。

オールトだ。意識はないが、剥き出しの胸に耳を当てれば弱い心音が聞こえた。まだ生きている。

 ルージュは脇の下に手を入れてオールトを抱えると、尾ひれを振って海上へとのぼった。

※登場人物紹介(ネタバレ有り、キャラ崩壊、読み飛ばし推薦、以降追記有り)


*“海の薔薇”

ルージュが探している財宝。形も性質も、どこにあるかもわかっていない。


砂漠の薔薇みたいな名前になってしまった、悲しいキーワード。

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