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◆04 人魚と美男子の苦悩

※オールト視点

※同性愛描写有り

 中肉中背は絵心もあったらしく、海賊旗は見事な出来映えだった。鮮やかな発色は、遠目からでもよくわかることだろう。使われる事が無いのが惜しまれる。

もっとも、使われたときには血の雨が降るかもしれないのだから、この旗は日の目を見ない方が良いのだ。


 中肉中背は旗が完成した直後に、船員達に呼ばれてどこかへ行ってしまい、オールトは一人、赤毛の人魚が描かれた旗を鑑賞していた。

 ルージュのことは心配だが、一人で休みたいと言っていたのだから、ついていくわけにも行かなかった。


 しばらくしたら様子を見に行こうと考えていたら、オールトを呼びながら一人の船乗りが足音を立てて船員室に入ってきた。仮眠をとっていた船員が文句の声をあげるのもお構いなしだ。


「あぁー、にいさんみっけ!」


 オールトは条件反射で顔をしかめた。厳つい体で乙女走りをするこの船乗りが、オールトは苦手だった。やけに絡んでくるのだ。

先日、弱点が酒だと言うことを突き止めたが、手近に酒樽はない。

 辺りを見回すオールトに、乙女はごつい手で小さな瓶を(つま)んで振ってきた。見覚えのある形に、オールトはぎょっとする。


「どうですかあ、これ。ときにはにいさんが頑張るのも悪くないですよ! 体の弱いにいさんだからこそ、効果は抜群、失敗もありません」

「それどこで見つけた!? 船長室に入ったのか?」

「お二人の愛の巣に入るなんて無粋なこと、するわけありませんよう。そんな奴が居たら、僕が締め潰すので安心してください」


 そう言って、乙女は小瓶を持っている手とは反対の手で、立て掛けてあった(かい)を握り折った。見かけ通りの怪力だ。


「どうしてそんなのをお前が持っているんだよ」

「お頭が使おうとしていたみたいですよ? お頭ばかり頑張らせては駄目ですう。こういうのは、ぎぶあんどていくなのですから」


 オールトは乙女が小瓶を持っている理由を悟った。見つからないように、毛布の中に隠していたのが裏目に出てしまったのだ。その薬が乙女に渡ったことが厄介すぎる。


「……乙女。頼むから、勘違いせず頭を空っぽにして聞いてくれ。それは俺がルージュに貰った物だ。だけどな、あいつはそれが何なのか分かっていなかった。ただの栄養剤として、俺にくれたんだ。だから、それを俺に返してくれないか?」


 オールトは真顔で淡々と乙女に説明した。

乙女はオールトの言葉に頷きながらも、その目の光りを増やしていき、オールトが言い終わったときにはきらきらと輝かせていた。

オールトは頭を抱えたくなった。


「素敵! にいさん、これはお頭からのお誘いですよぉ! わかってない風を装ってにいさんを煽っているんです! お頭の愛がわからないのですか!?」

「違う、きもい。ルージュがそんな回りくどいことをするわけがないだろ」


 小瓶を握りつぶす勢いで鼻息荒く力説する乙女に、オールトは冷静に返した。罵倒するのは忘れない。

辛辣に返したオールトに、乙女は風船が萎むように意気消沈した。


「……それもそうですねえ。残念です。何だかドキドキして損しました」

「勝手に損してろ」

「でも、お頭はにいさんのためにこれを渡した。にいさんはそんなお頭のことをよくわかっているんですね……」


 乙女の言うとおり、効能はどうであれ、ルージュはオールトを心配してこの薬を用意してくれた。オールトもわかっていたからこそ、薬を捨てられなかった上、ルージュにあげることも出来なかった。

 そこに、乙女が期待しているような感情は無いとオールトは考えている。少なくとも、オールトにはそこまで進んだ気持ちはない。


 そう思いを巡らせて、オールトは胸苦(むなくる)しくなり手を胸に当てた。瞳を伏せて息を吐けば、膨らんだ気持ちが抜けていくように楽になった。驚きで興奮しすぎたせいだろうか。


ごくりと喉を鳴らす音がして、寒気に目を上げると、乙女が異様に輝く目でオールトを食い入るように見ていた。頬が紅潮し、太い首まで赤くしている。


「本当にお熱いですねえ。羨ましい限りです。……妬けてしまいますねえ」


「おい離せっ」


 乙女は上目遣いでオールトを見てきたと思えば、抱きついてきた。その怪力に、オールトは為す術がない。

船長命令があるのに、乙女だけは躊躇(ためら)いなくオールトに触れてきた。多くがどさくさ紛れだったので見逃してきたが、髭の生えた顎で頬ずりされては溜まらなかった。

急激に気分が悪くなり、オールトは声も出せなくなる。


「にいさんはかわいいなあ。これを使う気がないというのなら、ぼくが使っても良いですよねえ? 付き合ってくれますよね? ねえ?」


「はい、そこ離れてー!! ルール違反ですっ」

「ふくかいちょー、寝取りはだめでやしょう」

「……ブブー!」


 オールトの嘔吐感が頂点を迎えたとき、部屋の外から今朝会った三人組が現れた。その後から中肉中背が顔を出す。


「だって、にいさんがかわいらしすぎて。あ、ちょっとそんな所触らないでくださいってばあ」


 三人の内、腕で大きなばってんを作る船乗りを除いた二人が、オールトから乙女を引きはがして船員室の外へ引きずっていった。ばってんをしている船乗りは乙女の後頭部をその腕で叩いている。地味に痛そうだ。


「船長の嫌がらせ、楽しみですぜ」


 中肉中背が、引きずられていく乙女に宣告すると、乙女は抜け殻のように抵抗を止めて、板張りの床を滑っていった。


 助かったとオールトは脱力した。オールトの頬はやすりのような顎のせいで赤くなっているに違いない。気持ちが悪くて手で拭うようにさすった。

 そんな恐怖体験をしたオールトに、中肉中背はいつ取ったのか乙女が持っていた小瓶を渡してきた。


「浮気はだめですぜ」

「だから違うって言ってるだろ! 襲われたんだよ」

「情けないですぜ」


 中肉中背の言葉にオールトは言い返せない。力のないオールトは何も抵抗ができなかったのだから、惨めだ。悪いのは十割十二分乙女だが。


「その薬、使うつもりですか? お二人が思い合っているというのなら、おいらは偏見を持たずに見守りましょう。けれど、効能を知らないとはいえ、船長は望んでいるのでしょうか。薬に頼らず、船長の気持ちを手に入れて欲しいとは思いますが」

「……さては俺が襲われる前から傍観していたな?」

「おいらも非力なのでね」


 中肉中背は海賊旗を回収しながらあっけらかんとそう言って、行ってしまった。

ルージュが女だとは知らないだろうが、中肉中背はルージュとオールトが関係を持っていないと感づいているらしい。


「こんなの、使える訳がないだろ」


 船長とその愛人。言うまでもなく、それは体面的なものだ。

その実態は、海賊の少女と記憶喪失の非力な男。彼らが思うように互いに思い合ってもいない。男同士でさえない。

 もしオールトがルージュに思いを寄せたら、彼女は思いを返してくれるだろうか。


 答えは否だ。オールトはルージュに一線を引かれている。

次回で一区切りです。


※登場人物紹介(ネタバレ有り、キャラ崩壊、読み飛ばし推薦、以降追記有り)


*ルージュの嫌がらせ

尻尾巻きとからかってくる者達に問答無用で制裁を下してきた彼女の嫌がらせは、船乗り達を恐怖へと陥れたという。


シャンプーと脱色剤を入れ替えたとか。

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