◆11 薄命男の残酷な記憶
人の気配を感じて、ルージュはぼんやりと目を開けた。闇に浮かぶ赤色は、オールトのものだ。
一人暗躍したルージュは疲れ果て、酒宴を早めに切り上げて休むことにした。オールトも抜け出してきたのか、上からはまだ笑い声が聞こえてくる。たくましい体つきの船員に酒をついでいたが、もう良いのだろうか。
「鍵かけろって言っただろ」
「……それじゃあオールトが入れない」
長いすに寝ているルージュを、まあそうかとつぶやいて、オールトは見下ろす。
艶やかだった黒髪は、潮風に煽られたのか乱れてしまっていた。屋敷にいたオールトを思い出し、連れ出してきたのは間違いじゃなかったかと思えてくる。
見上げるルージュに、オールトは容赦なく額を指で弾いてきた。
「いたっ」
「人の顔見てしょげるな。俺を連れ出した事を後悔するなら、あと百発見舞ってやるぞ」
オールトはまた額を弾こうとするものだから、すかさずルージュは頭まで布を被って防御した。
顔に出る方と言われたことは無いのに、オールトにはいつも考えを読まれている気がする。
「起こして悪かった。ついでに聞きたいんだが、俺が乗った船に薬品と薄っぺらい貝みたいなのがあった。これは何だ?」
そういえば、酒を売った金で解熱剤と栄養剤を買い、小舟に積み込んでいた。
「……熱冷ましはわかるが、これ、……栄養剤、か?」
「ああ、そうらしい。一番効く物を出して貰った。必要無いならわたしが貰おうかな」
「あ、うん。……そうか。いや、…………俺が持っておきます……」
布を被っているルージュからは、オールトの表情は見えないが、彼は珍しく狼狽えた様だった。
彼が敬語を使うと似合わなすぎてちょっと笑えてくる。
忍び笑いしたルージュに気が付いたのか、オールトはむっとしたらしい。
「じゃあこの貝みたいなのは?」
「……厄除け……かな。お金が余ったから、土産に」
「土産って。こんな時に何してたんだよ……」
「あはは、そうだね。気に入らなかったら捨ててくれ」
「……」
薄っぺらい貝――人魚の鱗だ。正体を知らない者が見れば、貝に見えないこともないだろう。
幼子の拳くらいのそれは、しばらくすれば新しく生えてくるが、剥がれると跡が海水に染みて痛いのだ。剥がれて嬉しい物ではない。
オールトは鱗を眺めているのか、何も言わない。気に入らなかっただろうか。
しばしの沈黙の後、衣擦れの音がした。
「いや、貰っておく。綺麗だな」
「……」
次はルージュが黙る番だった。
贈った鱗はルージュのもの。ルージュ自身を形容されたみたいで、恥ずかしくなってしまった。
だから、オールトの行動に対する反応が遅れてしまった。
布越しに、額に柔らかくて暖かな物が落ちた。
「ありがとう。おやすみ、俺の船長」
遠ざかる足音と、鍵をかける金属音。大きく布がまくられる音。
宴も終わったのか、船内が静かになって、彼の寝息が聞こえてもルージュは寝付くことが出来なかった。
夜が更けていく。
そうして、人魚を船長とする海賊船は穏やかに船旅を続けるのだった。
二章終了です。お付き合いくださり、ありがとうございました<(_ _)>
予告! 何とヒーローはこの先どんどん病んでいきます! もう彼がヒロインで良いんじゃないかな。ホモと病人を乗せた薔薇を巡る旅!
……ふざけても、あながち間違っていないのが恐ろしいところです。
ほんと、すみません;こんな後書きまで読んでくださり、ありがとうございました。




