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◆06 薄命男の残酷な記憶

「すごいっ! こりゃあ良い酒だ。海底に貯蔵されていたとはなあ。あんちゃん、ここの漁師か? 良い値で買い取らせて貰うよ」

「ええ、偶然見つけまして。ありがとうございます」

「若いのに対したもんだ。母ちゃんによろしくな! がんばれよ少年」

「は、はい」


 大金をもらい、ルージュは戸惑いながらも商人を見送った。商人の行き先は、狙い通り、海軍の基地。ルージュの戸惑いを、大金を手にしたからと思っていればいいが。


「そんなに若く見えるのかなあ……」


ぼろ布を頭から被った青年のつぶやきは町行く人々の耳には入らない。ルージュを避けて通る人もいるくらいだ。


 泊まる予定が無かったここは、小さな島の町だ。歩き回った結果わかったのは、ここは時々海軍が物資の補給所として泊まりに来る港町らしいという事だった。レオポルトが渋っていた訳である。

 久々に来た海軍、そして海賊を捕まえたということで小さな町は賑わっていた。

 ぼろ布をまとっているルージュは明らかに不審人物だが、祭りの高揚で見逃して貰っているのか、つまみ出されることもなく、お陰で酒を海軍に送ることが出来た。


 海底から引き上げた酒はよく熟成されて、嗜まないルージュでさえ美味しそうと思えた程に、芳醇な香りを放っていた。

人を海から引き上げるのはよくやっていたとはいえ、つかみ所のない樽を運ぶのはさすがに疲れた。しかも中身は液体だ。

 徒労に終わったとしても構わない。少しでも海軍の動きを鈍らせることが出来れば、それでいい。

 ルージュはオールトと船員達を助けに行く。


 夜になるまでの短い時間、ついでにとルージュは薬屋に立ち寄った。

汚らしい格好のルージュに、客達は怪訝そうな表情をしながら店を出て行く。気にしないことにして、ルージュが品物を見ていると恰幅の良い女性が肩を怒らせながらやってきた。


「おいそこのあんた! 店から出て行ってくれないかい! こっちは商売あがったりだよ」

「ああ、ごめん。熱や滋養に良い薬を探してるんだ。すぐに出て行くよ」

「あんたみたいな見窄らしい子どもに売る薬なんてありゃあしないよ。そんな安物、うちでは扱ってないからね」


 やはりルージュは他人目に子どもに映るらしい。商人の言葉からして、母親のために苦労している小さな乞食と言ったところか。ぼろ布を纏っている点からして、大金を持っているとは思えないのだろう。


「じゃあ聞くけど、このお店で一番効く薬はどの位するの?」

「生意気ね。あんたはどうせわからないだろうが、この店は人魚の鱗まで扱っている。磨りつぶして飲めば滋養強壮に、持っていれば厄除けなる高級品さ。家が五軒建つほどの価値があるんだよ。あんたには一生縁がないだろうね」

「その鱗って本物なの?」

「う、うっさいね! さあ、あんたが買うような物はここには無いだろ。出て行ってくれ」


 本物かは置いておくとして、家五軒はさすがに払えないと、ルージュは得たばかりの大金を傷跡だらけの手で差し出した。

 ひっと店主は叫び声を漏らすが、渋々ルージュの要求通りの薬を売ってくれた。


「あ、あんた。若いのだから体は大事にしなさいよ」


 出がけに震える声で言われた。

虐待でもされていると思われただろうか。両腕に傷跡がある姿は堅気には見えないだろう。何にせよ、布を被っていて良かった。


 鱗の話は本当だろうか。

 それなら、お守り代わりに彼にあげても良い。あんなに苦しそうなのがよくなるのなら、鱗の一枚惜しくはなかった。

※登場人物紹介(ネタバレ有り、キャラ崩壊、読み飛ばし推薦、以降追記有り)


*薬屋の女主人

近頃の若い者は! が口癖の主婦。儲かっているらしい。近所では世話焼きおばさんとして有名。


ルージュの手を見て、両親が不仲だと思ったそうな。

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