◆04 薄命男の残酷な記憶
※残酷な描写有り
やられた。
苦々しく思いながら、暴れるサメ達をよそに、ルージュは肩に負った傷に、海藻をきつく巻き付ける。
海に落ちた後、浅いものの出血したそこを察知して、どう猛なサメ達が襲ってきた。人魚の爪と牙で一匹を仕留めて放れば、集まってきたサメ達は同胞に群がってルージュには見向きもしなくなった。
肉を食いちぎり、海に血をまき散らす猛獣を眺めながら、ルージュは先程まで乗っていた船を底から見やった。
密航者の正体は、口ひげ海賊のアスターシだった。
ルージュによって右手を負傷したが、戦意を失わず、復讐に来たようだ。船を乗っ取るつもりだろう。
レオポルトの存在に安心していたのか、背後を取られるとは不覚だ。一発目は避け損ねて肩に食らったが、二発目は海に逃げて当たらずに済んだ。
一安心もつかの間、人食いサメが群がってきたのだから、そこまで計算されていたのかと思うと腹が立ってくる。
人魚は肉食だ。己よりも大きな獲物を仕留めるのは造作もない。鋭い爪を引っ込めて、ルージュは口についた血をなめ取った。
腹を満たしたサメ達が散らばった頃、船は進路を変えて進み始めた。行き先は、泊まる予定の無かった町だ。
彼らは大丈夫だろうか。
町まではそんなにかからないと、レオポルトは言っていた。ルージュは肩に巻いた若布をたなびかせながら追いかけ、海上に出ては船の様子を見ることにした。
発砲音は無く、時折アスターシの下品な笑い声と、幸運という単語が聞こえてくる。どうやら、船を乗っ取ったらしい。船員達も特に逆らうこともしていないようだ。
それもそのはず、彼らは元々同じ船に乗り、アスターシを船長として海賊行為をしてきたのだから、それが戻っただけだ。
戦いを好まないルージュに、船員達は面白く無さそうだった。やはり、彼らはアスターシの元にいることを望むのかと考えていたとき、船は町に着こうとしていた。
ルージュはそこで、船を追いかけるのをやめる。船はルージュをおいていく。
止めるべきか、けれど、人魚一人の身で海賊船一隻止めることなど出来ないし、すでに気づかれているに違いない。何が幸運だ。
町には海軍の船が泊まっていた。
海水が流れ込む岩穴で、ルージュは海に尾を浸しながら岩の上に座っていた。
岩穴は外よりも早く闇が降りてきている。
船は案の定海軍に見つかり、逃げることもできずに海賊達は捕まっていった。
ただ、アスターシ以外全員反抗していなかったのが不思議だ。観念するにしても、早すぎるし素直すぎる。他に不祥事でも起こったのだろうか。
船の連行は明日になるのか、船員達は船に縛られて放置されるらしかった。
アスターシと、何故かオールトが船から降ろされ、別々の建物へと連れて行かれるのをルージュは海から傍観した。
アスターシは首謀として船員の意思をくじくためと考えられるが、何故オールトが船から降ろされるのだろう。
この後、自分はどうするべきなのか、ルージュは悩んでいた。このまま彼らを放って、一人、以前のように他の海賊船に乗りつつ財宝を探す手もある。
その方が気楽だと思うのに、踏み切れない。
床に伏せっていたオールトは今、どうしているだろう。看病されているのか、アスターシと同じ扱いをされて、冷たい牢獄に閉じ込められていないだろうか。病状が悪化していないだろうか。
悪い想像を消そうと尾を揺らし、水を跳ね上げたとき、ルージュはオールトを心配している自分に気が付いた。
知らぬ間に彼の事を考えていた。
それに、船長としてこのまま船員達を見捨てることに、罪悪感を覚えている。様々な海賊達と会っては別れ、時には裏切ってもきたルージュにとって、初めての感情だった。
岩穴は完全に闇に覆われた。水底が、夕日を反射して下から僅かに岩穴を照らしたとき、ルージュは底に眠る多くの樽を見つけて、意を決した。
※登場人物紹介(ネタバレ有り、キャラ崩壊、読み飛ばし推薦、以降追記有り)
*人食いサメ
小さな港町周辺に生息している大型のサメ。血の臭いにピラニアのように集まってくる。
サメなのに。




