◆03 薄命男の残酷な記憶
※血の描写有り
「それにしても船長、“海の薔薇”ってそんなに価値があるものなんですかね? そりゃあ珊瑚は一財産稼げるほど値打ちがつきやすが」
眩しそうに地平線を眺めながら、レオポルトは不満げに言う。
ルージュが探している財宝は“海の薔薇”と言われているが、それがどのような形状や性質を持っているかは不明だ。
アスターシの財宝かと一時は思っていたが、ルージュの探しているものではなかった。
船を持ったルージュは赤い珊瑚を指すと考え、進路をとったが、果たしてルージュが探すものかは確証がない。名前からの推測を、根拠にするしかなかった。
「わたしにとってはね。実際に値がつくのかもわからない。もしわたしの探している財宝では無かったら、あなた達で山分けして好きにするといい」
「ありがたいですが、先が見えない宝探しですねえ。まあそれが海賊ってものなんでしょう。奴ら、略奪や戦闘が無いってだらけきっていますぜ」
「船が出航するときに言ったと思うが、わたしは戦わないよ。もし戦闘になったら、問答無用で逃げるからそのつもりで居て欲しい」
「つまらないですぜ。ああそうだ、報告することがもう一つありやした。最近奴らの間で、亡霊が出ると噂になってるんですがご存じで?」
「……亡霊? 知らなかった」
「まあご愛人の世話で、船長忙しそうでしたからね……」
「あいっ……!?」
オールトはルージュの愛人ということになっているが、言われるたびにルージュは否定の言葉を飲み込まなければならない。愛人ではないとばれたら、オールトに罵詈雑言を言われるだけでは済みそうにない。あの執念深い美男子に、一生呪われ続ける気がする。
ルージュは男として海賊をしている。オールトも紛れもなく男なのに、船員達は全く違和感なく二人の関係を認めてくるのだから、ルージュは胃が痛くなるばかりだ。
「何でも、食糧の減りが少しばかり早いそうですぜ。あと、夜中に見知らぬ人影を見たとか。先日は、船尾の物陰が動いたそうで」
「食糧の減り、ね。わかった、今から確認しに行ってみよう」
太陽が容赦なく照りつける甲板で、レオポルトを連れて船尾へ向かう。すれ違う船員達はルージュにあいさつをしてくれるが、一言多い。主に、オールトに関して。
「恋人の体調は大丈夫ですか?」
「毎日お熱いこって」
「……ちゅっ」
手でハート型を作って投げキッスしてきた奴には、後ろから小樽を転がしてやった。
あっさり決まったのか、頭と背中をぶつけて痛がる声を背後に、太陽から影になる船尾を見やる。船員達と話すのは無駄に精神力を使う気がする。
「暗い……隠れるのにはもってこいな場所だなあ……」
「亡霊とは思わないんですね。さすがと言うべきか」
「どうせわたしは、逃げてばかりいたからな」
嫌みったらしく言うレオポルトを横目に、ルージュは荷物を点検することにした。
この船の船尾には、大量に荷物が置いてある。食糧などは保存のために船内にあるが、それ以外は大体ここだ。小舟も数隻あった。
ルージュは逃げ専門だ。通り名は“尻尾巻きのルージュ”。戦いを避け続けていたら勝手に不名誉な名前をつけられていた。
その名は伊達ではなく、食糧が減っていると聞いてルージュはすぐに密航者の存在に気が付いた。ルージュもよく密航していたのもあって、相手の行動が予測できる。
レオポルトの話が真実なら、まだこの辺りに潜伏しているはず。物が多く、食料庫とは違い人もそんなに来ない。どんな理由で密航しているかは知らないが、潜むのならここだ。
ルージュは小舟を点検しようと身を乗り出したときだった。
カチャリと金属音が鳴り、発砲音に押されるようにしてルージュは船から落ちた。
瞬時、首をひねって見た背後には、見たことのある影が銃口をルージュに向けていた。照りつける太陽に、目がくらむ。
油断した。
二度目の発砲音と、ルージュが海に落ちたのはどちらが先だっただろうか。
***
海の香りに、前髪を払われる。この感覚を、オールトは覚えている。いたわるような、優しい手つき。あの頃は安らかだった。
長閑な空気を破った発砲音に、オールトは目を覚ました。
二発目の音に、重い体を起こして、引きつけられるように船長室の窓から海を見下ろす。
海は、静かに流れていた。そこに、大量の赤を混ぜながら。
※登場人物紹介(ネタバレ有り、キャラ崩壊、読み飛ばし推薦、以降追記有り)
*余文三兄弟
大体三人一緒で出てくる船乗り達。うち、一人は奇怪な身振りで会話をする。
船長と愛人を微笑ましく見守る会、会員。




