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◆01 薄命男の残酷な記憶

※この章から短編以降のお話になります。


 視界は赤く染まっていた。暖かな光りだったと思う。


 穏やかな気持ちで、その歌を聴いていた。

さえずるかのようなそれは、気まぐれで、優しくて、心地の良い子守歌だった。

 時折、思い出したかのように頭を撫でられて、もう起きなくてはいけない時間とわかっていてもずっと寝たふりをした。叩かれて起こされたけど。


 ずっとこの時間が続くと信じて疑わなかった。よく使われる言い回しだけど、本当にあの頃はそう思えて仕方がなかった。

 あるいは、思い込もうとしていたのかも知れない。この時が無くなってしまったら、生きる理由が無くなってしまうから。

 自分は狂ってしまうから。




「……その歌」


 覚醒する境目で、オールトは呟いた。眠る前と変わらず、穏やかな波の音が部屋に響いている。


「あ、起きたか。……ごめん、うるさかった?」


 そう言って、部屋の主、茶髪の青い目をした青年がオールトの額に乗せられていた濡れ布巾を換える。

彼……ではなく、本当は彼女だ。日焼けた髪を首にも掛からないほど短くし、丸みのある体を隠して男の格好をしている。よく見れば顎は丸く、男にしては小柄だからわかりそうなものだが、その振る舞いから触れるまで気が付かなかった。同じ船で寝食共にしている船員達でさえ気が付いていないのだから、見事な変装ぶりだ。

 ここは海賊船、船長室。船長であるルージュはある財宝を探して、男装をしてまで海賊になったという。


 オールトが寝ているのはルージュのベッドだ。強引にオールトが奪った。


 海賊船には女人禁制。だからこそルージュは女を隠している。そして、オールトの身が危険だった。

 オールトの見目は人を引きつけて止まないらしく、特にその気はないというのに、男からの視線が熱かった。船長命令でオールトに船員達が触れることを禁止されているとはいえ、やはり安心できなかったのだ。

 オールトは自分の身がかわいい。

ということで、個室になっている船長室に、嫌がるルージュを無視して押し入った。

 今はずっとオールトがベッドを独占している。情けなくも、オールトは風邪を引いてしまったためだ。


「違う、聞いたことがあるような気がして」

「そうなのか? わたしの故郷で歌われていた子守歌なんだ。何か思い出した?」


 ルージュの問いに、オールトは首を振る。


「……こればっかりは、無理をして思い出そうとしても上手くいかないよな。一先ず風邪を治すことに専念して、ゆっくり休みなよ。熱は……まだあるなぁ」


 オールトの額に手を当てて、ルージュは困ったように呟いた。

オールトは記憶喪失だった。覚えていたのは自分の名前と、彼女、ルージュの名だけ。もしかしたらその名さえ、彼女を指すものでは無いのかもしれないと、心の内に秘している。


「手」

「……何だ?」

「布巾より、そっちの方が良い」


 ルージュの手は冷たく、火照った顔にはとても気持ちが良かった。常のオールトならそんな甘えたことは言わないが、すんなりと口に出た。


「…………構わないけど」

「硬いな」

「そりゃあ、あなたの手と比べたらね。わたしの考えでは、オールトは貴族なんだと思うよ。海賊とは縁も縁もなかったようなね。ここまでの付き合いだから、ちゃんとあなたを故郷に送り返すと約束する。安心していいよ」

「それは遠回しに船から下りろと言っているのか? 病人に対して鬼畜だな」

「そこまで言ってない! 体調が良くなってからに決まっているだろ。思い出したら帰りたくなるだろうから」

「どうだかな」

「……硬いのが嫌なら濡れ布巾に換えようか?」

「いや、これがいい」


「……」


 オールトが離れないようにと額の手に自分の手を重ねれば、ルージュは黙ってしまった。オールトの手にすっぽりと収まってしまう、小さくて、心地良い手だ。

 指で撫でれば、浅い海の色をした瞳はオールトに困惑を伝えてくる。


 そんな顔をしてほしくは無いんだけどな。


 どうせなら笑った顔が良い。怒った顔でも構わない。

ルージュは気づいていないだろう、迷子のような顔をしていることに。記憶が無いオールトの方が迷子だというのに。

 眠くなって目を閉じれば、しばらくして、また歌が聞こえた。知らない言葉で歌われるそれを聞いていると、真綿にくるまれているような安心感を覚える。   

 それと同時に、悲しくて切なくなって叫びたくもなる。


 オールトもルージュのように、自分の身分を考えていた。傷一つ無い体、細すぎる腕は、財力による保護でもなければ生きて来られなかったはずだ。


 忘れてしまったのは、とても大切なこと。


 崖から海に飛び込んだ後、オールトは何かを探す夢を見た。とても大切なことだったのに、探し当てたと思った瞬間に霧散して、オールトは目を覚ました。その時にオールトの手が触れていたのは、ルージュだった。

 あの時も彼女は心細そうな顔をしていたものだから、オールトは何を探していたのか忘れてしまったのだ。

 記憶を失う前のオールトは、こんな弱い体で何を探していたというのだろうか。


 切なくなる気持ちとは裏腹に、意識は歌に誘われるようにして落ちていった。

お読み頂き、ありがとうございます<(_ _)>


一章より二章の方が文量ががくっと少なくなりました。この先短く纏めていく感じになりそうです;

サブタイトルからして、暴力、残酷表現が間違いなく入ります。ご了承ください。痛い後書きもぽつぽつありますので、読み飛ばし推薦です。


……恋愛タグとは何だったのか。恋愛?になっているのか悩む日々。

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