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虐げられた元奴隷、土の精霊ともふもふスローライフ!不毛の辺境を巨大野菜が実る土地に変え、飢餓の王都を救う領主になりました  作者: 黒崎隼人


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番外編「精霊の見た温かな食卓」

 大地の奥深く、冷たい岩盤と硬い土の層を通り抜けた先にある、柔らかな土のゆりかごの中。

 そこは陽だまりのように温かく、雨上がりの森のような心地よい匂いに満ちていた。

 コロの意識は、その温かい土の奥底からゆっくりと地表に向かって浮上していく。

 長い毛に覆われた四つの足を動かし、土の粒子をすり抜けて地上へと顔を出すと、冷たく新鮮な朝の空気が鼻先をくすぐった。

 大きく身震いをして体についた余分な土を払い落とすと、全身の豊かな毛並みが朝日に透けて黄金色に輝く。

 コロの目の前には、粗末な木組みのベッドで静かな寝息を立てるアレンの姿があった。

 その横顔は穏やかで、かつてこの土地にやってきたばかりの頃の氷のように張り詰めていた冷たさはもうどこにもない。

 コロは音を立てずにアレンの足元に近づき、冷えかけた彼の足首に自分の豊かな毛並みをそっと押し付けた。

 コロの体から放たれる大地の熱が、アレンの皮膚を通してその体内へとゆっくりと流れ込んでいく。

 アレンの寝息が少しだけ深くなり、表情がさらに柔らかくほどけるのを確認すると、コロは満足げに短い尾を揺らし、開け放たれた扉から外へと飛び出した。

 外の世界はコロにとって極上の遊び場であり、守るべき大切な庭だった。

 肉球が土に触れるたび、そこから目に見えない波紋が広がり、土の下で眠る種や根に活力の束を送り届けていく。

 コロの目に映る世界は、人間たちが見ているものとは少し違っていた。

 土の乾き具合は色の濃淡として見え、植物たちが水を吸い上げる音は楽しげな歌声のように聞こえる。

 人間たちの感情も、温かい空気の塊や冷たい風のように肌で感じ取ることができた。

 村の中心部に向かって小走りで進んでいくと、広場にはすでに何人かの村人たちが集まり、朝の準備に取り掛かっている。

 石組みの竈からはオレンジ色の炎が上がり、薪が爆ぜる小気味よい音が響いていた。

 コロの姿は、アレン以外の人間には見えない。

 しかし村人たちはこの不思議な豊穣をもたらした何者かが、常に足元に寄り添ってくれていることを感覚的に理解していた。


 「今日も、土がふかふかで温かいね」


 村の老人が、鍬を入れる前に足元の土を優しく踏みしめながらつぶやいた。

 コロはその老人の足にすり寄り、分厚い布のズボン越しに自分の体温を押し付ける。

 老人は目を見開き、ふっと顔をほころばせた。


 「おお、精霊さま。今日も村をお守りくださって、ありがとうございます」


 老人の心からあふれ出す感謝の念は春の陽気のように温かく、コロの全身を心地よく包み込んだ。

 コロは嬉しくなり、老人の周りをくるくると三周回ってから美味しそうな匂いが漂ってくる竈の方へと向かった。

 竈の前ではセリアが大きな鍋をかき混ぜていた。

 鍋の中では巨大なキャベツの葉と細かく刻まれたニンジンがぐつぐつと煮え、野菜の甘い匂いが湯気とともに立ち昇っている。

 コロは小走りでセリアの足元に駆け寄り、前足を彼女のエプロンの裾に軽く乗せて立ち上がった。

 見えないはずのコロの重みと温もりに気づいたのか、セリアは鍋から手を離し、足元に向かって優しい微笑みを向ける。


 「おはようございます、精霊さま。お腹が空きましたか?」


 彼女の言葉は、まるで本当にコロの姿が見えているかのように自然だった。

 セリアは木のお皿を手に取ると、鍋の中から特別に柔らかく煮えたカボチャの切れ端と甘みの強いニンジンの中心部分をすくい出し、少し冷ましてから竈の隅の土の上にそっと置いた。


 「いつも美味しいお野菜を育ててくれて、ありがとうございます。これは私たちからのおすそ分けです」


 コロは鼻をひくひくさせ、木のお皿に盛られたご馳走に顔を近づけた。

 人間が火を通して調理した野菜は、土の中でそのまま成長している状態とはまた違う複雑で奥深い甘みを持っている。

 コロは夢中になってカボチャにかぶりついた。

 口の中でほろりと崩れる柔らかな食感と、濃厚な甘みが舌の上に広がる。

 ニンジンは噛むたびにみずみずしい果汁があふれ出し、土の香りと太陽の恵みが一体となってコロの身体を満たしていった。

 あっという間にお皿を空っぽにすると、コロは満腹のお腹を揺らしながら短く吠え、セリアの足首に顔を擦り付けた。

 セリアはふふっと笑い、コロがいるであろう空間を優しく撫でるように手を動かす。

 彼女の手のひらから伝わってくる体温はアレンのものとはまた違う、柔らかくて包み込むような優しさに満ちていた。

 朝の食事が終わると、コロの日課である村のパトロールが始まる。

 畑に向かえば巨大なトマトが重そうに茎を曲げているのを見つけ、コロが下から軽く鼻先で支えてやると、茎は再び真っ直ぐな活力を取り戻す。

 子供たちが広場で駆け回っていれば、彼らの足元の土を少しだけ柔らかくしてやり、転んでも痛くないようにクッションを作ってやる。

 子供たちは土の感触が急に変わったことに気づき、きゃあきゃあと声を上げてさらに楽しそうに跳ね回る。

 コロにとって、この村全体が大きな家族のようなものだった。

 彼らが笑い、美味しいものを食べ、互いに思いやりを持って暮らしている空間は、コロに無限の力を与えてくれる。

 かつてのひび割れて冷たかった灰色の土地は、もうどこにも存在しない。

 夕暮れ時、空が茜色に染まり家々の窓から温かな灯りが漏れ始める頃。

 コロは村の外れの畑で、土にまみれながら作物の状態を確かめているアレンの背中を見つけた。

 そのたくましい背中からは大地への深い愛情と、村人たちを守るという強い決意が、静かな熱となって立ち昇っている。

 コロは全速力でアレンに向かって駆け出し、その足元に勢いよく飛び込んだ。

 アレンは驚くことなくしゃがみ込み、コロの柔らかな身体を両手でしっかりと抱き止める。


 「今日も一日、ご苦労だったな。コロ」


 アレンの大きく無骨な手が、コロの背中をゆっくりと撫でる。

 その手のひらから伝わってくる確かな温もりと、土の匂い。

 コロは気持ちよさそうに目を細め、アレンの腕の中で丸く身を縮めた。

 満ち足りた静かな時間が、茜色の空の下でゆっくりと流れていく。

 精霊にとっての至福の日常は明日も明後日も、この温かな村で永遠に続いていくのだ。

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