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虐げられた元奴隷、土の精霊ともふもふスローライフ!不毛の辺境を巨大野菜が実る土地に変え、飢餓の王都を救う領主になりました  作者: 黒崎隼人


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第11話「荷馬車の列と絶望の都」

 出発の朝、開拓村は夜明け前から慌ただしい活気に包まれていた。

 村の男たちは総出で、アレンが育て上げた巨大な野菜を荷馬車に積み込む作業に追われている。

 大人の胴体ほどもあるキャベツや、岩のように重いジャガイモは、数人がかりでようやく持ち上げられるほどの質量を誇っていた。

 一つ積み込まれるたびに、荷台の分厚い木板が重みに耐えかねて悲鳴のようなきしみを上げる。

 野菜の表面からは朝露がこぼれ落ち、新鮮な土の匂いと濃密な青葉の香りが周囲の空気を満たしていた。

 アレンは荷馬車の横に立ち、積載のバランスを慎重に確認している。

 彼の手のひらが野菜に触れるたび、内部に蓄えられた圧倒的な生命力が心地よい反発となって返ってきた。


 「アレンさん、こちらの準備も整いました」


 セリアが複数の麻袋を抱えてアレンのもとへ駆け寄ってきた。

 袋の中には、村の女たちが徹夜で焼き上げた大量の麦パンが詰め込まれている。

 表面がこんがりと焼け、香ばしい匂いを漂わせるパンもまた、大地の恵みの結晶だった。

 アレンは無言で頷き、彼女から麻袋を受け取って荷馬車の隙間に丁寧に押し込んだ。

 足元ではコロが荷馬車の車輪の周りを飛び跳ね、時折立ち上がって荷台の中の野菜に鼻をこすりつけている。

 コロは自分が育てた作物たちが旅立つことを、どこか誇らしげに見送っているようだった。

 すべての積み込みが完了し、五台の荷馬車が村の広場に連なった。

 使者の乗ってきた豪華な馬車が先頭に立ち、アレンたちを導くようにゆっくりと車輪を回し始める。

 アレンは御者台に腰を下ろし、手綱を軽く握った。

 村人たちが見守る中、巨大な命を乗せた車列は、荒野の彼方にある王都へと向けて出発した。




 村を離れ、王都へと続く街道を進むにつれて、窓から見える風景は次第に生気を失っていった。

 かつては豊かな緑に覆われていたはずの平原は極度の乾燥によって赤茶色にひび割れ、無数の亀裂が走っている。

 川の跡らしき窪みは完全に干上がり、丸みを帯びた石だけが白い骸骨のように連なっていた。

 街道沿いには枯れ果てた大樹が幾本も立ち並び、葉を一枚も残していない枝が助けを求めるように空へと突き出されている。

 アレンの足元から御者台の木材を通して伝わってくる大地の気配は、開拓村の温かい脈動とは対極にあるものだった。

 土の奥深くで水脈は途絶え、無数の微小な命が息絶えていく冷たい沈黙だけが重苦しくアレンの感覚にのしかかってくる。

 コロの力が行き届かないこの広大な世界がどれほど深く病んでいるかを、アレンは肌で感じ取っていた。

 数日の過酷な旅路を経て、やがて地平線の向こうに巨大な石造りの城壁が姿を現した。

 王都を囲むその防壁はかつての栄華を象徴するかのように高くそびえ立っていたが、今やその足元には目を覆いたくなるような惨状が広がっている。

 城壁の外側には粗末な布や木の枝で作られた無数のテントがひしめき合い、国中から逃れてきた難民たちの巨大なスラムを形成していた。

 排泄物と病気、そして死の匂いが混ざり合った異臭が、風に乗って容赦なくアレンの鼻腔を打ち据える。

 道端には骨と皮だけになった人々が力なく横たわり、虚ろな目で荷馬車の列を追っていた。

 助けを求める声を上げる力すら残っていない彼らの姿は、アレンの記憶にある鉱山の最下層の光景と完全に重なり合う。


 『これが、王国の真の姿か』


 アレンは手綱を握る手に力を込め、歯を食いしばった。

 先頭を進む使者の馬車が、重厚な鉄の門の前で停車する。

 門番の兵士たちもまた、兜の下の顔はひどくやつれ、槍を支える手は小刻みに震えていた。

 使者が窓から顔を出し通行の許可を告げると、重い鉄の扉が苦しげな金属音を立ててゆっくりと開かれた。

 王都の内部は、外壁周辺の難民キャンプよりもさらに深刻な絶望に包まれていた。

 かつては華やかな商店が立ち並んでいたはずの大通りは完全に機能が停止し、建物の窓は木の板で打ち付けられている。

 広場には炊き出しを待つ人々の長い列ができていたが、彼らの手に握られた器を満たすものは何もない。

 空っぽの大鍋の前に座り込む役人の顔には、深い疲労と諦めが刻み込まれていた。

 アレンたちの荷馬車が広場に進入すると、虚ろな目をしていた群衆の視線が一斉にこちらに向けられた。

 最初は無関心だった彼らの目に、荷台に積まれた巨大な緑や赤の塊が映り込んだ瞬間、劇的な変化が起きる。

 信じられないものを見るような驚愕と本能的な飢えが結びつき、群衆の間にざわめきが広がっていった。


 「食べ物だ……」「野菜が積んであるぞ……」


 かすれた声が重なり合い、次第にそれはうねりのような大きな波となって広場全体を包み込んだ。

 飢えた人々が本能のままに荷馬車に殺到しようとする気配を感じ取り、アレンは御者台から立ち上がった。

 暴動が起きれば、食べ物を届けるどころかさらなる死傷者を生み出すことになる。

 アレンは深く息を吸い込み、足の裏から大地の奥深くへと自身の意識を鋭く突き立てた。

 広場の石畳の下に眠る土の層に波長を合わせ、静かだが圧倒的な威圧感を伴う振動を周囲の地面に発生させる。

 足元から伝わる微細な揺れに驚いた人々は、前へ踏み出そうとしていた足を止め、その場に立ちすくんだ。

 アレンは静まり返った群衆を見渡し、静かで、しかし広場の隅々にまで届くよく通る声で告げた。


 「順番に配る。暴れた者には、一切の食事を与えない」


 その言葉には、かつて奴隷として底辺を生き抜いてきた者だけが持つ、命の重みを知る者特有の絶対的な説得力が宿っていた。

 群衆はアレンの瞳の奥にある冷たい炎のような意志に圧倒され、誰一人として列を乱すことなく、おとなしくその場に座り込んだ。

 アレンは荷馬車から飛び降り、巨大な命を彼らに分け与えるための準備に取り掛かった。

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