第7話 神も壊れることがある
私の沈黙に、ヘフィスは気まずく、それでいて必死な声で言った。
「私、前にちょっとした悪戯心で、
呪いと和解の女神テュポネが酔って失態を晒した写真をこっそり撮って、
あちこちにばら撒いちゃったの。
うっかり残した証拠が、自由と幸福のタイジーラのところにあってね。
今回彼女を手伝えば、内緒にしてくれて、証拠も処分してくれるって!」
ヘフィスはぺろっと舌を出し、無邪気な笑みを浮かべた。
「私だって迷宮に突入して、あのごちゃごちゃを全部片付けたいのよ!
いろいろ実験した結果、『夢幻泡影』の迷宮は転生者を即座に外へ弾き出さないって、
もう確信してるし!
まったく、私の休暇を潰すなんて……あ、違うわよ?
信徒の願いを処理する時間が削られるって意味だからね。
とにかく、これ以上面倒を増やしたくないの。だから……お願い! お願いだから手伝って!」
私が聞いた内容に呆然としていると、ヘフィスは枷が外れたかのようにさらに白状し続けた。
「プリーモスはね、酔って公共の場で全裸のままぐっすり寝ちゃったところを撮られてて、
その写真もタイジーラのところにあるの。
しかも代理には神が二柱必要だから、彼も手伝うことになるわ!
お礼として、特別な能力か道具をあげるから、欲しいものを言ってちょうだい!」
私が聞いた内容に衝撃を受けていると、ヘフィスは枷が外れたかのように続けて白状した。
「プリーモスはね、酔って公共の場で全裸のままぐっすり寝てるところを撮られちゃって、
その写真もタイジーラのところにあるの。
それに代理には神が二柱必要だから、彼も手伝うことになるわ!
お礼として、特別な能力か道具をあげるから、欲しいものを言ってちょうだい!」
ヘフィスの説明が終わり、私は悲しくも気づいてしまった。
長年社会で生き抜いてきた私の中の“ブラック上司警報”が、けたたましく鳴り響いている。
けれど、ヘフィスの視線は今すぐ答えを求めているようだった。
早く即興で何か言わないと、頭が整理できない……。
なら、私の脳の奥にある直感に従うしかない!!
「じゃあ……イケメンを撮影して、裸の写真集を生成できるカメラが欲しい!」
ヘフィスの微笑みはわずかに揺らぎ、彼は顔を上げて深く息を吸った。
そして私の笑顔も同時に揺らぐ。今の私の即興対応に点数をつけるなら――
……あ、終わってる。
その時、彼の隣に、粗野だが非常に整った顔立ちの男が突然現れた。
短く荒々しい赤髪は燃える炎のようで、信じられないという表情で私を見ている。
「狂った女……今、今なんて言った?」
プリーモスの声は低く磁気を帯びていたが、今はさらに重く沈み、怒りを押し殺しているようだった。
「俺たちが渡すのは、玄離大陸で生き延びるためのものだ。
そんな物を、何に使うつもりなんだ?」
プリーモスは苛立たしげに手のひらを広げ、まるで強烈な精神的衝撃を受けたかのように固まっていた。
「プリーモス、来客を正式に迎えるなら正装をすべきよ。
どうしてここに来てまで訓練用の戦闘服なの?」
ヘフィスは軽く眉をひそめ、粗布の腰布と六尺褌しか身に着けていない男へ視線を向けた。
だがプリーモスはまったく気にした様子もなく、むしろ逞しい両腕をぐるりと動かしている。
「俺は訓練の最中だったんだが、冒険者が召喚された気配を感じてな。
タイジーラに約束してる以上、急いで来て仕事を片付けるしかねえだろ!
そしたら来て早々、こんなとんでもない要求を聞かされるとはな!」
その澄んだ樺色の瞳で、俺をじっと睨みつけてくる。
今、異端審問でもされているのだろうか。
ヘフィスに指摘されて、私はようやく目の前の男の服装があまりにも露出過多だと気づいた。
駄目だ。
「役に立つ」能力を考えないと。もう直感で即興回答するのはやめる。
今こそ、十数年!
アニメを見てきた知識を総動員して能力を考えるんだ……。
そうだ、目!
目の能力は一番応用が利くし、想像もしやすい。
長年の職場で鍛えた臨機応変力、ここで発揮する時!
……そう思った瞬間、私はふと気づいてしまった。
特に、プリーモスが着ている粗布の腰布の中央にある六尺褌。
生地が薄いせいか、いくつかの部位の輪郭が妙にはっきりしている。
思わず何度か視線が滑り、心臓がどくんと速くなる。
「じゃあ……透けて見え――!」
「駄目だ!!」
プリーモスは即座に遮り、固く拳を握りしめた。
「俺が能力を申請する際の原則は一つだ。犯罪に繋がるものは不可だ!
もう少し有用なものを考えられないのか!」
彼は言い終えると、まるで世界が崩れ落ちそうな表情を浮かべた。
額の青筋がぴくりと跳ね、どう見てもこの件に関わりたくない様子だ。
……ごめんなさい。
また直感に思考を支配された。
本当に、私もう駄目かもしれない。
羞恥と悲しみが、一気に胸の奥へ押し寄せてきた。
でも、どこにも隠れる場所がない。
「でも私、本当にちょっとした動力が必要なのよ!
あんなに苦労して生きて、死んだと思ったら今度は人のために働かされて。
世界を救う冒険者だなんて!
どうして私ばっかりこんなに運が悪いのよ!
ああ......ああ。」
私は大きくため息をつき、顔を覆ってすすり泣きながら、
苛立ちと混乱のまま中央の絨毯の上まで歩いていった。
ふと、私は思った。
もしかして、私って自分に対して不親切すぎるのだろうか。
この要求は……そんなに過分なものなの?
少なくとも、恋愛したいから優しくて気遣いのできるイケメンを彼氏にしてほしい、
なんて言ったわけじゃないし。
……帰りたい。
元いた場所に、帰りたい。
視界が少しぼやけて、目尻がじんわりと湿っていた。
自我懷疑に沈みかけたその時、不意に温かい力に包まれた気がした。
顔を上げると、プリーモスがゆっくりと私を抱き寄せ、私の頭を広い胸に預けていた。
さっきまで訓練していたと言っていたのに、不思議なことに汗の匂いはまったくしない。
それどころか、どこか懐かしい、ほのかに甘い香りがする。
……チーズケーキ?
驚いて彼の厚い胸に顔を埋め、こっそりもう一度息を吸う。やっぱり間違いない。
私の大好きなあの甘いデザートの香りだ。
「悪かったな。俺、さっきはきつく言い過ぎた。お前……大丈夫か?」
プリーモスの大人びた顔がふいに近づき、私は少し戸惑う。
彼は照れくさそうに視線を遠くへ逸らした。
「情報が多すぎて、すぐに頭が整理できねえなら、時間をやる。ゆっくり受け止めればいい。
先に最低限の生活面は俺たちが整えてやる。
必要なものがあれば、遠慮なく言え」
そう言って右手で私の頭を撫で、改めて私の顔を見つめる。
「だがな。能力や道具の付与は、上位の天神が特別に俺たちに開放している権限だ。
かなり貴重なものだ。だから、要求は本当に慎重に考えてからにしろ」
その言葉を聞いた瞬間、私の瞳に少し光が戻った。
私はふと理解する。もう元の世界にはいない。
しかも、この世界の神たちは何らかの理由で私の協力を必要としている。
……ということは。
少しくらい要求を増やしても、もしかしたら叶うのでは?
私はゆっくりと顔を上げ、プリーモスを見つめた。
「最低限の生活面な要求なら……全部手伝ってくれるの?」
困惑した私の顔を見て、プリーモスは少しだけ茶目っ気を含みつつも誠実な笑みを浮かべた。
磨かれた琥珀のような瞳で、力強く頷く。
「もちろんだ。」
「じゃあ、私があなたたちに会う時は、
毎回……服を着ないでくれる?」
次の瞬間、私は無言のままプリーモスにひょいと抱き上げられ、そのままソファへ戻された。
彼は立ち上がり、私から二メートルほど離れた位置まで歩くと、
背を向けたままゆっくり振り返る。
樺色の瞳は砂を被った琥珀のように冷え、
表情はまるで目の前に厄介な物でも見ているかのようだった。
「狂った女! 俺はお前の人間魅力値を0に、魔獣嫌悪値を80に設定してやる。
玄離大陸に着いた瞬間、魔獣に噛み殺されてもおかしくねえ状態にな。
しかも誰一人助けようとも思わなくなる」
そう言いながら、プリーモスの右手がゆっくり握られる。
指先の先端に、小さな光の粒が浮かび上がった。
最低限の生活面な要求なら……全部手伝ってくれるの?
本当に、さすがに笑いが止まりませんでした。




