第4話 いわゆる聖職者の責任
最近の一例は、ギルドに二十年も居座っていたモーリだ。
武僧である彼はギルド内で評判が悪く、任務中にサボったり、勝手に単独行動したりしていた。
「すみません!隊長、俺は契約を解除します!もう無理です!」
モーリは右手で茶色の短髪をかきむしり、左手を自分たちの隊長ドートンに振った。
そして違約金一万八千陽陰貨を机に叩きつける。
皆の前でパーティー契約書を引き裂き、そのまま二階のギルド長室へ向かった。
その後、退会の計画書を提出したが、ギルド長は特に引き止めなかった。
周囲には「やっと送れた」と言わんばかりの顔もあった。
冒険者に重大な過失や犯罪、ギルドに大きな損害がない限り、
皇城の院会に裁決を求め、証拠を揃えなければならない。
一方的な解雇はコストが高い。
下手をすれば評判にも響く。
だが補助金を受ける以上、ギルドは構成員の最低限の収入を保障しなければならない。
こういう少数の厄介者は、結局は厄介な荷物になる。
くじ引きで各チームに割り振り、我慢して任務に連れていくしかない。
私も、彼に消えてほしいと思っていた一人だ。
そして私は、くじ引き制度の穴を利用し、自分で手を打った。
「大丈夫?モーリ武僧」
目の前には、恐怖で失禁し気絶している彼。
これで五回目の任務だが、また単独行動して魔獣に殺されかけた。
私は入口にこっそり封印陣を張っておいた。
一般人には出入りしにくい。だから「迷った」と言って迷宮から抜けることもできない。
隊長のドートンは、汗に濡れた金色の長髪をかき上げ、何も言えずにその場に立ち尽くす。
やがて一肩でモーリを担ぎ上げ、運搬用の魔獣を呼んでギルドへ送り返した。
隊が解散した後、ドートンも退会の計画書を提出した。
私はようやく胸を撫で下ろす。
いくら格好よくて、仲間思いだと評判でも。
私が「しつけ」なければ、この規律で上級迷宮に挑めば全滅していただろう。
だからこそ。
聖職者って、本当に便利。
私は王岳を見つめ、さっきの不快な記憶を振り払おうとした。
治療院が閉まるまで居座り、追い出される直前になって、ようやく僕と名残惜しく別れる。
治療院を出たあと、私は一人で河川敷へ向かった。
砂利道の上で足を止め、川面に映る白い月を見上げる。
水面の向こうに、過去の自分が揺れて見えた。
この世界に来る前の私は、「お人好し」だった。
頼みを断れず、よく「自主的」に残業していた。
楽しみにしていたライブや、予約していたレストランも、何度も直前でキャンセル。
行きたくもない飲み会に引っ張り出され、会場でからかわれ、
酒の作法がなってないと文句を言われる。
翌日は重い体を引きずって出勤。
休日ですら会社のグループチャットが鳴り止まない。
呼吸するのも報告が必要なんじゃないかと思うほどだった。
あの頃の私は、あの世界を底なしの地獄だと思っていた。
そして、優しい王岳は、あの会社にいた一人の先輩によく似ている。
私が上司の尻拭いで残業させられていると、彼は缶コーヒーを差し出し、黙って体調を気にしてくれた。
上司や他の先輩に散々叱られたあとも、静かに愚痴を聞いてくれて、最後は笑って親指を立ててくれた。
あの小さな瞬間は、終わりの見えない闇の中の灯りだった。
私はその灯りで、何度も壊れかけた日々を耐えた。
けれど、ある日。
その優しい先輩は、突然オフィスから姿を消した。
どこへ行ったのか、誰も教えてくれない。
私を照らしていたあの灯りは、音もなく消えてしまった。
「私、あの人の名前を忘れてる……!」
私は小さく呟き、手にした青い水筒を見下ろす。
それは王岳と初めて街を歩いた日、雑貨屋で彼が笑いながら選んでくれたものだ。
「この色、きれいだね。君の緑の目に似合うよ」
そう言って、僕は本当に楽しそうに笑っていた。
思い出した瞬間、私は無意識に指先へ力を込める。
そして今、目の前にいる王岳は、まるで運命がくれた埋め合わせみたいだった。
少し離れた治療院へ視線を向けると、月光がその輪郭をやけに鮮明に浮かび上がらせている。
今度こそ、目の前に灯った火を、私はちゃんと掴むべきなのだろうか。
ふっと笑みがこぼれる。
曲がりくねった洗い出しの小道を進み、木造の家々の間を抜け、私は大理石の壁がある借家へと歩いていく。
少し積極的になってみようか。
ここでちゃんとお金を貯めて、静かに暮らせる場所に家を買う。
穏やかな生活が形になったその時、王岳に聞いてみよう。
僕は、私と一生を共にしてくれる?
時に運命は、こんなにも不思議で魅力的です。
次の章も、どうぞお楽しみに。




