第31話 厳選20種美味料理 蛟人編
太清君は満面の笑みで部屋の隅へ歩いていき、
赤赫色の木製の棚が一列に整然と並んでいる場所で立ち止まった。
中央の一番下の大きな引き出しを開け、
その中から金の縁取りが施された表紙の本を一冊取り出す。
「そうだ、為師は最近絶版書を手に入れてな。しかも豪華装丁の再版だ。
今日お前が何かを感じ取ったように訪ねてきたのを見て、
この本はきっとお前に合うと思った!だから贈ろう!」
私は本を読むのが大好きで、以前はギルドの図書室に丸二日こもった記録がある。
あの時は読み終わった直後、ギルドを出てすぐ食堂へ走って熱量補給した。
「厳選20種美味料理 蛟人編」
その書名を見た瞬間、私の表情は一気に複雑になった。
これって、ギルド図書室で見かけた、
表紙だけ見ると蛟人を料理する本に見えたあの本じゃない?
さっき分解の精霊でぶつかった人を処理しようかとは考えたけど、私は善良だと誓う!
まさか先生、私が相手を「食べたい」と誤解して、処理方法を教えようとしているの?
いや、確かに私は蛟人のイケメンのあの野性的で引き締まった肉体が好きで、
時々「食べたい」と妄想することはあるけど!
でも絶対にその意味の食べるじゃない!
「玉秀、開いてみるがいい!内容は為師もとても面白いと思ったぞ!」
太清君の穏やかな笑顔のせいで、その場には断れない妙な空気が漂っていた。
私は気まずそうに俯き、本の表紙をじっと見つめた。
な、なんてこと……!
表紙の、左眉の間に傷があって柴犬みたいに可愛い若い蛟人。
それって、今石板の上に横たわっている、若い頃の多義じゃない!?
まさか、この本の表紙モデルだったの!?
しかもさっき道でぶつかって、あんな一連の怪しい行動までしてしまったし、
先生は絶対に勘違いしている……!
私はぎこちない笑顔を作り、黙って一ページをめくった。
そこには湯麺の料理の紹介が載っていた。
「蛟人の腹部から太腿にかけては鱗に覆われており、股部は柔らかな皮膚である。
この部位は鮫人の汗腺が発達しているため、
放熱の際に海水のような香りを放ち、濃い塩味を帯びる」
最初の一文を見た瞬間、私は凍りついた。
それでも深く息を吸い、必死に耐えながら読み進める。
「この部位は汁気のある料理の配置に非常に適しており、
とくにあっさりした湯麺と相性が良い。
腹部と太腿は貝類のような塩味を提供し、股部は淡い海藻の旨味を持つ。
より深く体験したい読者は、この配置方法を試されたい」
解説の挿絵には、十八歳前後の多義が顔を紅潮させ、白い台の上に横たわっていた。
全身は何も身につけておらず、筋肉質な腕とややがっしりした脚を大きく広げている。
腹部から始まり、汁を含んだ様々な風味の麺が玉のように盛られ、
側腹から太腿へと並べられ、股部はびっしりと麺で覆われていた。
さらに横には「ソース風味指数」や「麺類タイプ推奨」などの情報まで添えられている。
私は本を閉じて、今見た内容を理解しようとした。
……なのに次の瞬間、
思わずまた挿絵だけ開いて確認してしまった。
私は、今まさに裸で静かに石板の上に横たわっている多義を見つめた。
胸はかすかに上下し、整った筋肉の線が規則正しく鼓動している。
胸の奥に、危険な好奇心がふわりと浮かぶ。
私は手に持ったプリンを見る。
……これって、汁気のある食べ物じゃない?
多義はしばらく目を覚ましそうにない。
少しくらい、実験してみてもいいのでは?
「は? 何が起きたんだ? 僕、なんでここにいる?」
三時間後。
多義は突然目を覚まし、勢いよく上体を起こした。
樺色の瞳はまだぼんやりしていたが、すぐに大きく見開かれ、周囲を見回す。
私は少し離れた籐椅子に座り、どこか懐かしむような表情で室内を眺めていた。
竹で編まれた机。
壁に掛けられた手描きの絵。
私が山を下りる前とまったく同じで、何一つ変わっていない。
壁に飾られたあの二枚の掛け軸でさえ、当時のままだった。
「道理不顛枉太清」
「亦聖亦魔年歲間」
相変わらず、ひどく古臭くてデザイン性のない室内だ。
まるで上古の仙人でも住んでいそうな内装である。
でも、あの冷え切ったオフィスよりはずっといい。
禿げ頭のマネージャーの部屋を思い出す。
壁に掛けられていた字は確か「構造改革」だったか。
パソコンのモニターに空調、コーヒーメーカーまで揃っていて、全体はやたら現代的だった。
けれど中にいる人間の思考が上古時代なら、意味なんてない。
壁の書画を眺めながら、ふと違和感に気づく。
前は海梅花のような青藍色じゃなかった?
今は墨のような黒に変わっていて、部屋がさらに古風に見える。
そして近づいてよく見た瞬間、思わず凍りついた。
字の上に、びっしりと蜜蟻が這い回っていたのだ。
花や果実の蜜を好んで舐める、蟻のように群れる昆虫。
食べ尽くすと、すぐ別の場所へ移動する厄介なやつ。
私は火炎の精霊を呼び出して焼き払おうとしたが、太清君が手を伸ばして止めた。
「早まるな。これは送客用だ。しつこく訪ねて来る者への対策でな」
扉を開けた相手が、にこやかに営業用の冊子を取り出して腕を振るおうとした瞬間、
この書画を投げつけられて悲鳴を上げる光景が頭に浮かぶ。
思わず、私は小さく笑ってしまった。
……ちゃんと管理しておけば、意外と実用的かもしれない。
私も、しつこい営業さんを軽やかに“お見送り”できる秘宝が欲しいです。
このお話を楽しんでいただけたら嬉しいです。




