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第21話 「享チー」はスイーツ店

「いらっしゃいませ! 本日は美味しい百盞花茶が……あれ?」


この店はとても雰囲気がいい。

古びた木の壁には様々な油絵が掛けられ、

琴の音を奏でる魔道具が店内にやわらかな音楽を流している。


私が店に入った瞬間、カウンターの奥から響いた大きな声に目を引かれた。


曾広は目を見開き、銀色の短髪の上でずり落ちた黒い小帽子を慌てて直している。

背後の壁には天舒羽の油絵が飾られていて、

白い葉が翼のように広がり、彼の上半身を包み込んでいた。


緑の瞳は、まるで厄介な生き物でも見つけたかのように揺れている。

彼は慌てて顔を逸らし、エメラルドの耳飾りが小さく揺れた。

その様子は、まるで警告灯のように彼の動揺を知らせている。


そして曾広の視線は、レジに立つ女性店員へと向けられていた。


その女性店員の背後の油絵には、大きな黒鉱樹が描かれ、

宝石のような豆がびっしりと実っている。

肩までの黒髪、白いフリンジの衣をまとった女性が木の下で目を閉じて座り、

周囲には数匹の剣狐が眠っている。

嘘と記憶を司る女神パデの物語を描いたものだろう。


その女性店員は、妙な空気に気づいたのか、

指先で愛らしい茶色のショートヘアをくるりと巻いた。

黒曜石のように澄んだ黒い瞳で、私をまっすぐに見つめてきた。


「私は店長の敏汀です。お客様、海梅花茶はいかがですか?

当店の看板商品で、店長の私がおすすめします。

それとも新しく入った百盞花茶もなかなか良いですよ。」


「隊長、どうしてここに? 皇城へ修練に行くんじゃなかったの?」


私は、顔を強張らせた元隊長の曾広を見て、できるだけ“聖職者らしい”笑顔を作った。


そして左へ視線を向けると、私に気づいた長松が固まっていた。

まるで店内の石像のようだ。


長松は手に提げていた袋をくるくると巻き、胸に押し当てたまま、横目で私を見ている。


その目は、少し潤んでいるように見えた。

まるで背後の油絵に描かれた魔物、洞窟の罠に触れてその場で転がるしかない菇盹鼠みたいだ。


「今日はいい日だね。こんなところで会うなんて。」


「ぐ……ぐうぜんだね、玉秀。」


泰勇があちこちふらつくのは分かるとして、長松まで標本店から五キロも離れたここに?

ここまでの情報量が多すぎて、頭が追いつかない。


出かける前に、光の精霊で長松と泰勇の様子を確認しておくべきだった?


泰勇は性格が少し素直すぎるし、長松は緊急時になると今みたいに固まる。

本当に、悪い人に絡まれていないか心配になる。

……いや、待って。


二人は“ただの一時的な同居人”だ。

それに、聖賢者が“勝手に”そんな尾行みたいなことをしていいわけないよね?


「玉秀! お……お誕生日おめでとう!

こ、これは……誕生日プレゼント! 玉秀が気に入ってくれたら嬉しい!」


店内で袋を差し出したあとも、長松の手は小さく震えていた。


「わあ! 

長松!ありがとう。」


その瞬間、長松はまるで動作停止したみたいに、ぽかんと立ち尽くしてしまう。


入口のすぐ近くだったから、私は手を伸ばして彼を席のほうへ連れていった。

なんだか、小学校の班分けで慌てている子を席に戻す班長みたいな気分だ。


私はシルクの羽織を壁の木製ラックに掛けようとする。

ここのフックは面白くて、いろいろなスイーツの形をしている。


チーズ型にはすでにマフラーが掛かっていたから、私はいちご型のフックに掛けた。


「長松、このケーキ屋さんどうやって知ったの?

ここって、村の通しか知らないお店だよ?」


「長松……バイトしてる! バイトに行く途中で見つけた!

長松、気になって試食した……すごく変わった味がいっぱいで……おいしかった!」


長松は席に座りながら、落ち着かない様子で両手を握り合っている。

何かを期待しているみたいだ。


私はてっきり、長松がよく外出するのは外が好きだからだと思っていた。



まさか、こっそりバイトしていたなんて。


私は笑って、すぐに袋を開けた。

中には、チョコレートブラウニーのような見た目のケーキが入っている。


この辺りには、カカオの木に似た植物がある。さっきの油絵に描かれていた黒鉱樹だ。


濃厚で少し苦みのある香りが鼻先をくすぐる。

まるで空気そのものがその匂いに染まったみたい。


私は本当は苦みのあるスイーツはあまり得意じゃない。

それでも、そっと長松の頭を撫でた。


「ありがとう、長松。本当に嬉しいよ。

このお店、雰囲気もいいし……ここで食べてもいい?」


長松はこくりと頷き、私の向かいに座ると、もう一つの袋を取り出した。

丁寧にテーブルに置き、中からマフィンのような小さなケーキを出す。


……あれは、私の好みに近そう。


私は少しのあいだじっと見つめてしまう。

すると長松が、ぱちっと目を大きく開いて、私を見ていた。


「飲み物を頼んでくるね。長松、ちょっと待ってて!」


店内に妙な間が流れているのを感じて、

私は慌てて笑顔を作り、そのままカウンターへ向かった。

まずは玉秀、お誕生日おめでとう。

10月10日、なかなか素敵な日だと思います。

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