第20話 出発、雪蓮プリン店前の思わぬ騒動
「チリン──チリン──」
泰勇が私の近くまで来た時、村の報時鐘が鳴り響いた。
ちょうど午後二時。頭上の陽射しは少し強い。
それに気づいた瞬間、私は少し焦る。
雪蓮プリンの人気フレーバー、もう売り切れてないよね?
でも同時に、私は泰勇の友人にも少し興味があった。
梧慶は鐘の鳴る高楼を見上げ、どこか寂しそうな表情をしている。
「泰勇、今日は師匠役はダメだからね!」
泰勇の料理の腕は確かにすごい。
彼が立てば、きっと場を圧倒する味を出す。
でも今回は、客として一緒に楽しんでほしい。
だって私も店長の料理を味わいたいんだから。
「玉秀様、まさか……?」
灰色の瞳がきらりと光る。
普段は子供っぽいのに、観察力だけは妙に鋭い。
私たちが一緒に食事するって、もう分かったの?
食事といえば、正装も大事。
そういえば、私は彼の正装姿を見たことがない。
普段は白い綿の短パンだけ。
たまに白いノースリーブ。
これはいい機会かも。
一着くらい、ちゃんとした服を買ってあげてもいいよね?
あの白い肌と淡い青の短髪。
右衽の袍服、何色が似合うかな。
淡い黄色なら元気な感じ。
でもワインレッドなら落ち着きが出るかも?
私はじっと彼の体と顔を見つめ続ける。
泰勇は少し照れて、白い短パンを見下ろした。
「本個体を食卓に出すのか? 蛟人族の肉は確かに悪くないぞ!」
私は一瞬、
「今、何て言った?」
という顔になった。
私の頭はジェットコースターみたいに高速回転する。
そしてふと思い出した。客間の机に置きっぱなしの本。
公会図書館から借りた、
『玄離大陸各族生態と歴史百科』。
最近ちょうど蛟人族の章を読んでいた。
まさかあのページ、「蛟人族の食用価値」、見られた?
蛟人族はその歴史のせいで、生死にかなり達観していると書いてあった。
こんな言葉まで伝わっている。
――命を奪われたなら、因果も報いも憎しみも、すべて相手へ移る。
そして本人は天へ至る、と。
泰勇が言い終えた瞬間、梧慶が警戒の目で私を見る。
でも私は見た。
梧慶の手が、じわじわと荷車の木の棒に近づいている。
「違うよ!泰勇、長松と一緒にご飯を食べに行くの!」
泰勇はほっとした顔。
私の聖職者イメージ、確実に崩壊中。
「ちゃんとした服を着てほしいの。どれを買うか考えてて。あとで時間ある?」
「おお、そういうことか!」
泰勇はぱっと顔を明るくして何度も頷く。
梧慶はあきれたように手を引っ込め、口元を押さえて小さく笑った。
「泰勇、いい家族を持ったな。
四時には用事が終わる。それから合流するといい。」
泰勇はさらりとした青い髪をかき、梧慶のほうを向いて少し照れながら言う。
「梧慶!玉秀様は本個体の主人だぞ!」
「じゃあ五時に村の中央、『伊価値』服飾店でね。
私は六時に一度家に戻らないと。場所わかる?」
「本個体は知っている!」
甘い声でそう言って、元気よく手を上げる泰勇。
私は軽く手を振った。
「じゃあ後でね。私はちょっと用事を済ませてくる!」
そう言って私は振り返り、足早に歩き出す。
向かう先は、雪蓮プリンのメイハオ村支店だ。
分店に入ると、玉のように淡い長髪、
灰色の瞳の目尻に桃色の鱗がきらめく、明るい笑顔の女性店員が迎えてくれた。
上半身はなめらかな灰色の鱗に覆われ、
胸元には水色のシルクの上衣、淡い青緑の短裙を合わせている。
「いらっしゃいませ。店内のプリンは花の模様に意味がございます。
あちらの案内板をご覧くださいませ!」
やわらかな声は歌うようで、私は指差された紹介板へ視線を向けた。
丁寧に書かれた説明を読みながら、どれにするか考える。
仔魅花: 輝きに満ちた新しい一日
焰華草: 揺るがぬ友情
海梅花: 忘れない記憶
黒蝶蘭: 早く天国へ
天舒羽: 健康で強い身体
香桜麗: 美しい肉体
晴来菇: 不屈の意志
玫好好: 刺激と平安
銀百合: 純真との別れ
横には販売順位も貼られている。
一位は仔魅花。
でも二位の黒蝶蘭は、再会の場にはさすがに縁起が悪い。
黒ごまの香りは最高だけど。
やっぱり海梅花にしよう。
レモンにほのかな蘭を混ぜたような香り。夏の終わりの風を思い出す。
「忘れない記憶」。
しかも先生の家の近くには海梅花がたくさん咲いている。
購入する味を選び終え、私が自分用に食べる分は予約冷蔵で自宅へ配送。
花屋の割引券を布袋にしまい、私は満足した。
もうすぐ三時。
近くに評判のいい手作りケーキ店がある。
そこで少し休んで、四時半ごろに「伊価値」服飾店へ向かうつもりだ。
泰勇が来る前に、どの服が一番似合うか決めておきたい。
そう思いながら手作りケーキ店の入口まで来た時、
木製の立て看板「享チー」の横に、十二歳くらいの少女が立っているのが見えた。
……え?
あれ、長松じゃない?
今日は一日中、魔獣標本店にいるはずでは?
前にも見たことがある。
夢魅族の彼は、気を抜いていると小さな女の子の姿になる。
ショーケースにぴたりと張りつき、じっと中を見つめるその姿。
いくつかのケーキを見比べて、まるで人生を左右する決断をするような真剣な顔。
そして次の瞬間、
小さくぴょん、と跳ねるような足取りで店の中へ入っていった。
……完全におやつを選ぶ子供。
私もプリンと甘いものを山ほど食べたい……。
難波には何軒もあるんだよね。
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