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第16話 復讐と支配の神、セイントデーモン太清君

「そういえば、玉秀。

賢者の術を教えたあの方、復讐と支配の神、セイントデーモン太清君!

今ちょうどお住まいで妳を待っているらしいよ。珍しいね、

術でわざわざ私たちに弟子の様子を聞いてくるなんて。


海梅山への道、覚えているよね?」


ヘフィスのその一言を聞いた瞬間、私は背中に冷たい汗が流れた。

ここ最近の任務中、戦闘の最中に何度か、

先生の「見守る」ような視線を感じた気がする。

あれ、本当に気のせいじゃなかったの?


修行を終えて山を下りた日のことを、私は今でも覚えている。


先生は何も別れの言葉を言わなかった。

ただ、水の流れのような玉色の立ち襟の常服を整え、

袖口の墨緑の縁取りが陽光の中で静かに揺れていた。


私は石段をいくつか下りたところで振り返った。


先生は出発点に立ったまま、静かに私を見ていた。


「為師は、私がどう『効率よく術を使うか』、ちゃんと見ているよ。

特別に破例で迎えた弟子だからね。」


感情の色がほとんどない声でそう言うと、先生は紫紅色の海梅の木へ視線を向けた。

その瞬間、少年のような顔に、ほんのわずかな寂しさがよぎった。


長い銀髪は金のリボンで束ねられ、海梅山の風に揺れる。


淡い米色の海梅の花びらが肩に落ちても、先生は払わなかった。

引き止めもせず、急かしもせず、少しその場に立ったまま。


やがて朱玉を連ねた腕輪をつけた左手を上げ、

彩羽の扇で花びらを払うと、幾何学の鳥獣文様が彫られた木造二階建ての家へと静かに戻っていった。

あれはただの忠告だったはず。


……でも正直、もうずいぶん顔を出していない。

珍しいね、


術の文で連絡はしていたけれど、たぶん私は何度も適当に流していた。


「私も帰ってゆっくりしたいんだけど、最近ほんとに忙しくて!」


とか。


「今度ね!時間ができたら必ず手土産を持って伺います!」


とか。


結局、ずっと先延ばし。

もしかして、最近私が全然忙しくないって、もう気づいている?

やっぱり一度、様子を見に行ったほうが安全かも。


私の知っている太清君先生は、何事も自然の流れに任せる人だ。


わざわざ自分から山を下りてくるような人じゃ……ないよね?

……本当に、下りてこないよね?

やめて。


お願い。


私が目を覚ますと、小さくあくびをしてから衣装棚の前へ向かった。


まず白雲みたいに柔らかな斜め襟の短衫を着る。

それから、仔魅花の刺繍が入った淡い桃色の束裙を履いた。


仔魅花は、私の知っている百合にそっくりで、香りもほとんど同じ。

ただ色だけが、やさしい桃色だ。


何度か結び直したけれど、うまく固定できず、束裙はするりと床へ落ちる。

私は慌てて拾い上げ、絹のような腰紐を丁寧に締め直した。


最後に、新しく買った、艶やかな紅の焰華草が全面に刺繍された絹の罩衫を羽織る。


こんなにきちんと身支度をするのは久しぶりだ。

全身鏡の前に立ち、薄化粧を整えた私は、鏡の中の自分を見つめる。


少しずつ、自信が胸に戻ってくる。


「玉秀、出かけるのか?」


家を出ようとした瞬間、背後から聞き慣れた青年の声。


私はびくっと肩を震わせた。

同居中の長松が、まるで黒猫みたいに音もなく立っている。


黒いモヒカンの短髪を掴みながら、大きな目でじっと私を見ていた。


「うん。先生に持っていく手土産を買いに行くの。すぐ戻るよ!」


「玉秀、今日は十四日だぞ。長松もこのあと出かける。」




「十四日?」




私は一瞬固まった。

どうしてわざわざ日付を強調するんだろう。


豊穣祭は今月だけど、二十五日のはずだ。


「ありがとう、長松。


魔獣の標本店に行くんでしょ?


ちょっと遠いから、道中気をつけてね!」

長松はまた魔獣の知識を学びに行くらしい。


標本店なら実物の姿を安全に観察できるし、討伐経験のある冒険者とも話せる。


野外の強力な魔獣はたいてい攻撃的だ。


標本で行動や特徴を知るのは、賢い方法だと思う。

私はうなずきながら、心の中で予定を組み立てる。


まずはギルドでお金を受け取って、それから先生への手土産。

雪蓮プリンにしようかな。


「うん、長松は自分で気をつける!」


一瞬きょとんとしてから、長松は元気よく返事をした。


自信満々の顔を見ていると、ふと思い出す。

角の焼き肉店「世ン点神店」でもらった肉の割引券。


しかも明日が最終日。


「ねえ、長松。今日いっしょに焼き肉行く?」


「焼き肉って何?」


黒い大きな目がくるくる動く。

揺れる紐を見つめる黒猫みたいだ。


「タレをつけて焼いて食べるの。すごくおいしいよ。」


「長松、行きたい!でも泰勇は?」


にこっと笑った直後、首をかしげる。


「そういえば、泰勇どこ行ったんだろ。見かけたら伝えておくね。」


長松は小さくうなずいた。


迷わないように、午後六時半に家で合流する約束をする。

私はすぐに思考を切り替え、今日の流れを整理する。


先生は、雪のようにとろける花模様の雪蓮プリン、気に入るかな。

真面目に計算すると、まとめ買いのほうが安い。


急に誰かに渡すことになっても困らないし、節約にもなる。


……べ、別に。

おいしすぎて私も多めに欲しいとか、そういう理由じゃないから。

心斎橋のあの美味しい焼肉店、また行きたくなってきた。

網の上でじゅっと鳴る音、甘辛いタレの匂い、煙に包まれるあの幸福感。

予約、取っちゃおうかな。

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