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前世は総理でしたが、今世は王家の犬(フェンリル)として働いております。  作者: タツダノキイチ


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総理、国賓(ペット)になる02

ゆっくりお茶を飲みながらメイドと執事に目をやる。

アンナと紹介されたメイドはいわゆる中年女性で四十半ばと言ったところだろうか。

それに対してセリナはまだ二十歳を少し過ぎたくらいに見えた。

(なんとなく面差しが似ているから親子か?)

と思っていると、執事のベルゴールが、

「お味はいかがですか?」

と尋ねてくる。

老年の執事でニコニコとした笑みを絶やさない好々爺といった佇まいのベルゴールを見ていると、なんだか地方視察で農家のおっちゃんと話しているような気分になり、ついつい微笑んでしまい、

「美味いよ。ありがとう」

と気軽に答えてしまった。

「お気に召したようでなによりでございます。他にお申し付けはございませんか?」

「ああ。今のところは大丈夫だ。もうすぐ夕食ということだったから甘い物を食べる時間でもないだろうしな」

「ソーリ様は甘い物がお好きでらっしゃいますか?」

「ああ。嫌いではない。酒も甘い物もどちらも嗜む方だ」

「さようでございますか。では明日のお茶の時間はケーキでもお持ちしましょう。ケニッヒをたっぷり染み込ませたケーキなどいかがでしょうか?」

「ケニッヒとは?」

「はい。この国自慢の酒でございます。酒精は強いですが、琥珀色で甘く濃厚な香りがいたしますよ」

「ほう。そいつは美味そうだ。是非、いただこう」

「かしこまりました」

その後もこの国の話を聞いていく。

どうやら話によると、この国は大陸南部にあり、南端の町では海路を使った貿易が盛んなのだそうだ。

中央部は農業が盛んでブドウからワインを作っているらしい。

北部では畜産業や林業が盛んで、西と東には大きな森があるとのこと。

その森に魔獣が多く住みつき、時々被害をもたらしているのだそうだ。

どうやら私がいたのはその東の森で、東の辺境伯が管轄している地域だったらしく、私は、

(王に会わなければ、まずあのコーリアス辺境伯と対峙しなければならなかったのか。となると、私はまっさきにこの国を出て他の国に行っていただろうな。運命というのはどこでどうなるかわからんもんだ)

と思い、ゆっくりとお茶を飲んだ。

やがて、西日が差してきたところで、メイドのセリナが、

「お食事の準備が整いました。王族のみなさまが、ぜひご一緒にと申しておりますが、いかがでしょうか?」

と尋ねてくる。

私はもちろん、いいと答え、夕食の席に向かった。

しっとりとした内装の落ち着いた部屋に案内される。

開口一番ローズ嬢が、

「ここは家族専用の食堂なんですのよ。我が家の食堂へようこそ」

と微笑みながら言ってくれたのを聞いて、

(なるほど。一気に距離を詰めてきたな)

と微笑ましく思う。

おそらくローズ嬢の狙いは、こちらと親密な関係を築くことで、この作戦も彼女一番に口を開いたということは彼女が考えたものだろう。

いかにも胸襟を開いたような歓迎をし、お互いの腹を探り合うのはよくあることだ。

そう思って私は微笑みながら、

「温かい歓迎に感謝する」

と言い用意された場所に腰を下ろした。

運ばれてきた料理を食べながら会談に移る。

「ソーリ様はどのような食べ物がお好きなんですか?」

「好き嫌いはないな。なんでもよく食べる。しかし、やっぱり一番好きなのは魚だろうか? 焼き魚で米を食っている時が一番腹にしっくりくるものだからな」

「あら。ソーリ様はお米を食べられるのですね。この国では北部の地方でしか食べませんが」

「そうか。米があるのか。それは是非食してみたいものだな」

「茶色くて硬いので、あまり美味しいものではありませんよ?」

「うーん。それはきっと精米技術に問題があるんだろうな」

「せいまい?」

「ああ。米のぬか、要するに周りについた余分な部分を取り除く技術のことだ。しっかり精米して白くなった米は美味いからな」

「なるほど。それはよいことをお聞きしました。さっそく農業大臣に申し伝えましょう」

「ああ。役に立てたようでなによりだ」

「ところで、ソーリ様はどこでお米の存在を? それも調理法まで。お米を食べない南部でしか食べられないお魚と合わせるというのは、聞いたこともありませんわ」

「ははは。そこは神獣の不思議な力と理解していただきたい」

「まぁ。上手く誤魔化されましたわね」

と和やかに会話をしていると、そのうちメインの料理が出てきた。

「ん? 子羊か。これは美味いな」

「ええ。このソースは王家の秘伝なんですのよ」

「ほろほろと口の中で溶けていく子羊の柔らかい肉とほんの少し苦みの効いた甘口のソースがよく合う。この国にはケニッヒという酒があるそうだが、もしかしてそれを?」

「まぁ! さすが神獣様ですわね」

「なに。当てずっぽうだ」

そう話してにこやかに笑って見せる。

すると、ローズ嬢がほんの少し間を置き、カトラリーを皿の上に置くと、

「ソーリ様」

と声を掛けてきた。

(来たな)

と思いつつ、

「なにかな?」

と平然として受ける。

「単刀直入に申します。この国にしばらく御身を置いていただけませんか?」

「うむ。かまわんというよりも、むしろこちらから厄介になっておる身だから、世話になるとしか言いようがないが」

「ええ。それはこちらが賓客としてお迎えしておりますので。私が言っているのはその後のことですわ」

「なるほど。この国にしばらく属せとでも?」

「まさか。ソーリ様は国賓です。私どもとしてはできるだけ長い期間、国賓でいて欲しいと思っているのですわ」

「ほう。具体的には?」

「この国がこの国である限り」

「はっはっは。それは長い。しかし、この国が正しさを忘れないようだったら考えてもみよう」

「少なくとも当世はそのようにいたしますわ」

「なれば、当世はそうしてもよいぞ。しかし、見返りになにを求められるかな?」

「安寧を」

「それはまた抽象的な話だ。具体的には?」

「同盟を結んでくださいませ」

「ははは。それはいきなりだな。しかし、まったくない話ではないというのも実感だ」

「では、よろしいので?」

「いやいや。いきなりが過ぎる。同盟というのはお互いの信頼関係と利害関係がきっちりかみ合わなければならないからな」

「それでは相互防衛に関する条約から始めるというのはいかがでしょう?」

「ほう。番犬になれと?」

「いえ。ただ他の国の犬になって欲しくないだけですわ」

「はっはっは。それはまた正直に言ったな」

「ソーリ様は率直な物言いを好まれるかと思いまして」

「間違ってはおらぬな。しかし、率直過ぎる言葉は時に誤解を生むから気を付けた方がいいぞ?」

「失礼いたしました。ソーリ様には我が国にあって、見えない盾となって欲しいのです」

そう言われて私は、世界で一番嫌な物を思い出した。

総理時代さんざん頭を悩ませてきた「核の傘」というやつだ。

おそらく抑止力というやつを欲しがっているのだろう。

(下手をすれば利用される。しかし、こちらもこの世界での安寧が欲しい。というよりもこの世界で安寧に暮らす情報源が欲しいというべきだろうか。どの程度この国を利用するかによってある程度利用されてやってもかまわんが、さてどうしたものか……)

そう思ってローズ嬢に視線を送る。

ローズ嬢はまっすぐに私を見てにっこりと微笑んでみせた。

(はっはっは。やはり肝が据わっている。なるほど、このお嬢ちゃんが大きくなるまで見守ってやるのも面白いかもしれん。ならば、ここは……)

そう思って、

「防衛というのは少し肩書がきつすぎる。他国への配慮というやつも必要だろう。いきなりこんなとんでもない戦力を抱えたと宣言してしまっては、他国も黙ってはおるまい。私はそれでも一向にかまわんが、この国の将来が心配だ。ここは情報連携協定ということにしよう」

と提案する。

するとローズ嬢はさも意外という顔で、

「情報ですか?」

と聞いてきた。

「ああ。先ほどの米がいい例だ。私は私の知っている知識を時折話す。その代わり、この世界の情報を与えてくれ。最初はその程度の連携がいいだろう。そして、お互いの信頼と利益が合致した時は条約でもなんでも結べばいい」

「それでは、少し安心材料が足りませんわ」

「まぁ、そう焦るな。ローズ嬢が賢いのはわかる。肝も据わっておるし、なかなかたいしたものだと思っておるよ。しかし、急いては事を仕損じるということも少しはわかっておいた方がいいな。物事には順序と秩序というものがあるのだよ」

「金言痛み入ります」

「では情報連携協定ということで」

「かしこまりました。いつか、同盟を結べるその時までお互いにお互いを利する関係を続けましょう」

「話が早くて助かる」

「いえ。こちらこそ失礼いたしました」

「ふっ。ローズ嬢はまだ若い。これから学ぶとよいぞ」

「はい。この度は貴重な学びの機会を与えていただきありがとうございます」

そんな会話で話がまとまる。

そして、デザートに出されたキイチゴのタルトの甘酸っぱい味を堪能しながら、ケニッヒという酒を飲んだ。

(ほう。まんまブランデーだな。しかもかなりの上物だぞ)

と思いながら、ニコリと笑う。

それを見たローズ嬢が、

「私がもう少し大人になったら、是非お酒を共にいたしましょう」

と声を掛けてきた。

「ああ。楽しみにしているよ」

と答えて微笑む。

その日の夜は静かに更けていき、私はローズ嬢と握手を交わして寝所に戻っていった。

部屋に戻り、窓に映る自分の姿を見て、

(まったく。不思議なもんだなぁ)

と今さらながらに思う。

青白く輝く月灯りに照らされキラキラと輝く銀色の巨大な犬を見て、

(よくもまぁ、こんな姿になったものだ)

と思った。

月灯りに負けないほど輝く夜空の星を見て、なんとなくこの世界のことを思う。

(この世界にもこの星よりもっと多くの人がいて、それぞれに輝いていることだろう。その人々の安寧を脅かすような存在になってはいけない。しかし、おもねってばかりもいられないから、その辺りのバランス感覚が必要になってくるだろう。さて、明日からどうやってこの世界を乗り切ってやろうか)

と思うと、なんだか胸がわくわくしてくるのを感じた。

(おいおい。人生は遊びじゃないぞ?)

と思ったところで、ふと気付く。

(いや。私はもっと人生を楽しんだ方がいい。せっかく総理から犬になれたんだからな。そうだ。私はもっとこの世界を楽しませてもらおう。ふっ。ついつい真面目に考えてしまうのはよくない癖だな。そうだ。私はもう総理じゃない。ただのペットだ。そのくらいの心構えでいこう)

そう思うと、なんだか先ほど見ていたよりも星々がキラキラと輝いて見えるようになっていた。

(人の気持ちというのは現金なものだ)

と思って苦笑いを浮かべる。

そして私はそっとベッドに横になり、

(明日は何をして遊ぼうか)

と小学生以来考えたことのなかったことを思い、静かに目を閉じた。


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