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前世は総理でしたが、今世は王家の犬(フェンリル)として働いております。  作者: タツダノキイチ


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総理、国賓(ペット)になる01

辺境伯領を出て、順調に旅を進めていく。

帰りは一か所、侯爵家に立ち寄ったが、そこでは静かなもてなしを受けた。

(触らぬ神に祟りなし、か)

と苦笑いで思いつつ、ゆったりと過ごさせてもらう。

そして、また二日ほど進み、いよいよ王都の町に入った。

石造りで堅牢そうだが、装飾が施されているせいでどこか壮麗さを感じる門をくぐる。

するとそこには町の人たちの活気にあふれた姿があった。

物売りの売り声に、往来を行く荷馬車、なにやら肉を焼くいい匂いがしてくるのに気付いてみれば、そこには屋台が並び、人々の笑顔がある。

そんな町を見て、私は何となく平和な活気あふれる江戸の町を想像し、

(ああ、ここには太平の世の日常が溢れているんだな)

と感じた。

そんな人たちが王の車列を見て道を開ける。

私も当然注目されたが、また堂々とローズ嬢を乗せたまま広い石畳の道をゆっくりと進んでいった。

大きな堀にかけられた大きな石橋を通りところどころ金で装飾された華麗な城門をくぐる。

広い庭を通り、現れたのは見事なまでの宮殿だった。

左右対称の石造りで、緑色の屋根がどことなく可愛らしくも見える。

庭の中心には大きな噴水もあり、綺麗に整えられた植栽が青々と輝いていた。

「美しい庭だな」

と素直に感想を述べる。

すると背中のローズ嬢が、

「王族の住まいがある裏庭は少し趣が違いましてよ。もっと野趣に溢れた感じですからそれはそれで美しいですわよ」

と嬉しそうな声でそう言ってきた。

「ほうそれは是非見てみたいものだ」

「ええ。ぜひともご招待させていただきます」

と話し、馬車止めに馬車がつけられる。

素早くやってきた執事が馬車の扉を開けると、メイドたちがさっと大きな扉を開いた。

「ようこそおいでくださいました。神獣様」

と居並ぶメイドたちから声を掛けられ、その間を軽く手を上げながら通る。

するとその先に若草色で花の刺繍が施された清楚な印象のドレスを着た夫人と黒地に小さく金の刺繍が入った軍服のようなものを着た青年が頭を下げていた。

「ようこそおいでくださいました。神獣様。イクセリウスの妻、エリザベスと愚息ノルディアスにございます。王家一同神獣様のご降臨を心から喜び歓迎させていただきます」

そう言うエリザベス王妃に、

「ソーリだ。縁あって、しばらくの間世話になることになった。突然で申し訳ないが、よろしく頼む」

と挨拶を交わし手を差し出す。

エリザベス王妃が少しきょとんとしていたので、

「この国に握手という習慣はなかったかな?」

と尋ねると、エリザベス王妃は、やや慌てて、

「いえ。そのようなことはございません。こちらこそよろしくお願いいたします」

と言って私のごつい手を両手でしっかりと握ってくれた。

隣にいたノルディアスという青年にも手を差し出す。

「王太子のノルディアスでございます」

と言って私の手を握ってくれたその青年は、見た感じ二十五、六のように見えた。

美しい紺碧の髪の青年を見て、

「なるほど、どこかイクセリウス殿の面差しが似ておるな。将来はさぞかしいい王になられるだろう」

と社交辞令を言い、にこっと笑って見せる。

その微笑みを見てノルディアスは少しほっとしたような笑みを見せつつ、

「どうか王城の城壁は壊さないでください」

と冗談を言ってきた。

「はっはっは。それは安心して欲しい。しかし、くしゃみで窓を割るくらいのことはあるかもしれんから、そこはご容赦願おう」

と笑いながら少しチクリとした言葉を返す。

その言葉にノルディアスが、

「メイドには掃除を徹底するよう伝えましょう」

とまた冗談を返してきたので、

(ほう。父とは違い、ずいぶんと胆力があるようだな。いや、若さゆえの冒険心か?)

などと思いながらにこやかに挨拶を終えた。

「長旅でさぞお疲れでしょう。まずはお部屋でお休みくださいませ」

とエリザベス殿に言われ軽く礼を言ってから用意された部屋に入る。

そこは広々とした空間でおそらく普通なら会談かなにかに使用されるであろう所に家具や調度品が備え付けられていた。

「お部屋の広さは十分だったようですわね。安心したしました」

「かたじけない。お心遣いいたみいる」

と話しているところに、執事らしき男性とメイドが二人やってくる。

「ご紹介いたしましょう。執事のベルゴールとメイドのアンナ、セリナですわ。三人にはソーリ様の専属として仕えてもらいます。もちろん不手際がありましたらいつでも交代させますので、どうぞ、ご存分にお使いください」

そう紹介された、執事のベルゴールが、

「我ら一同、誠心誠意お仕えいたしますので、どうぞよろしくお願いいたします」

と言い三人が深々と頭を下げてきた。

「うむ。よろしく頼む。さっそくで悪いがお茶を淹れてくれるか? 少々喉が渇いてしまってな」

と軽く嘘を吐く。

この嘘はエリザベス殿に下がるきっかけを与えるためのものだったが、エリザベス殿はその意をきちんと汲んで、

「お邪魔いたしました。では夕飯の時間までごゆるりとお休みください」

と言ってすんなりと下がってくれた。


◇王家の一同 ローゼリア視点

「はぁ……。死ぬかと思いましたわ」

母のエリザベスがため息を吐きながらそう言い、ソファにどっかりと腰を下ろす。

兄のノルディアスはわりとけろっとしたもので、

「なかなかよい御仁ではありませんか?」

と言っていたが、そんな兄に母が、

「あなたねぇ……。あんな冗談よく言えたものだわ。本当に肝が冷えたんだから!」

と噛みつくようにそう言った。

「すみません。怖いもの見たさについ」

「全く冗談じゃないわよ」

と言い合う母と兄に、

「ははは。とにかく無事でよかったよ」

と父が力なく声を掛けている。

父はソーリの力を見て以来、さらに恐れを抱くようになってしまっていた。

母もどちらかというと心配性だから、きっと過度に心配しているのだろう。

兄はどちらかというと楽天的な性格をしているが、時々計算を間違うことがある。

私はそんな家族を見て、内心、

(あのソーリってそんなに恐ろしい存在じゃないわよ。付き合い方さえ間違わなければね)

と思いながらゆっくりとお茶を飲んだ。

「ともあれ、第一関門はなんとか通過できたようだね。さて、今後の身の振り方をどうするか……」

「あなた。ここはいっそのこと臣従の意を示してお怒りを沈めていただきましょう」

「ああ。その手も考えたが、どうも違う気がする。ソーリ様は過度に敬われるのを嫌うような素振りを見せることがあるからね」

「となると、友好協定ですか?」

「それが一番手っ取り早いだろう。最悪の場合でもなんとか不可侵協定くらいは結びたい」

そう言う父に、

「それは悪手よ、お父様。そうすればソーリ様が他国へ行く可能性もあるでしょ? あの力が他国の手に渡ってしまう状況を考えたらぞっとするわ。あの力はおそらく持っているだけで十分な外交カードになるんじゃなくって?」

「それはわかるよ。でも、あれは危険すぎる。側に置きすぎるのは危険なんじゃないかい?」

「危険だからこそ持つのよ。不使用を前提にね」

「でも、そんなことをして他国に目を付けられれば問題になりかねないよ」

「あら。他国に目を付けられる程度で済むなら御の字じゃない。この際、同盟か最悪でも防衛連携条約でも結んで相互協力の約束を取り付ける方がいいわ。王家が続く限り賓客としてもてなすことを条件にすれば、きっとソーリ様はしばらくの間この国をねぐらにしてくれるはずよ」

「そんな。いくら神獣様とはいえ、同盟というのはちょっと……」

「あの力、見たでしょ? あれはもはやひとつの国家としてとらえた方がいいわ。いいじゃない。強力な番犬がただで手に入るんだから」

「ローズ、その言い方は……」

「大丈夫よ、お父様。おそらくソーリ様はその程度じゃ動じないから。辺境伯のように手順を間違えなければね。国家級の尊厳を持った相手に国家として同等に付き合う。ここはそれが一番よ」

「いや、しかし、それは……」

「大丈夫よ、お父様。ここは私に任せておいて」

「いや、それはなんでも……」

「今、一番ソーリ様と仲がいいのは私よ? 安心して。国家のためになるよう動くわ」

「お話をするだけだよ?」

「もう、あなたは結局ローズに甘いんだから」

「ははは。頼もしい妹を持って僕は嬉しいよ。どうです。父上、ここはローズに任せては?」

「……ははは。しかたないなぁ」

そんな話で家族がほっと息を吐き、またゆっくりお茶を飲み始める。

私は心の中で、

(大丈夫。あの妙に人間臭くて、人の出来たわんちゃんはきっと最高のお友達になってくれるわよ)

と思いながら、「ふっ」と小さく微笑んだ。


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