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前世は総理でしたが、今世は王家の犬(フェンリル)として働いております。  作者: タツダノキイチ


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総理、王都に向かう04

「そこをなんとか魔獣に困る辺境の民のためにお力を貸していただきたいのですよ」

という辺境伯の言葉にはどこか切迫感がない。

(なるほど。大きな軍事力をただで手に入れ、自分の領地経営は楽にしてしまおうという算段か)

と一瞬で見抜き、

「物事というのは、まずは自助努力が肝要だ。そして、軍事同盟には信頼関係が必要だと知るがよい。なんの誠意もなく、ただ私を番犬扱いしたいのだったら、失礼極まりない話だ。少し考えを改めよ」

とピシャリはねつける。

そして、辺境伯を見ると、辺境伯は「ふっ」と鼻で笑い、

「さすが神獣様だ。犬にしてはお知恵が回られる」

と言ってのけた。

「無礼にもほどがあるぞ!」

王が珍しく激高したのを手で制す。

「よい。イクセリウス殿。外交とは誤解から始まることも多いからな。しかし、コーリアス。そなたの言いようはあまりに無礼なのもたしかだ。そのひと言で私の辺境に対する考えが悪い方に固定されたことは間違いないぞ」

そう言って軽く睨みを聞かせるが、辺境伯はニヤリと笑い、

「神獣様は王家の犬になられたか」

と言った。

「ふっ。言い得て妙だな。たしかに、私はしばらくの間王家に世話になることだろう。そういう意味では王家の犬だ。しかし、この国の犬になるつもりはない。この牙、いつ剥かれるかわからんものと思っておくがよい」

「おお。それは恐ろしいことですな。その時はこの辺境伯領の魔獣専門部隊をもってお相手いたしましょう」

「ははは。安い挑発だな。その程度で私が慄くとでも?」

「神獣と言えども所詮は魔獣、国家に仇なすのであれば討伐の対象となるのは必然でしょう」

「なるほど。では、私の実力の一端を見せよう。討伐うんぬんはそれから考えるんだな」

「ほう。それも安っぽい挑発ですな。見せていただきましょうか。ちなみにうちの部隊の準備はできておりますぞ」

「そうか。それは楽しみだ」

私はそういうと、すっくと立ちあがり、

本当に軽く力を入れ、「ふっ」と窓に向かって息を吐いた。

「ドカン!」「バリン!」と音がして壁が一面吹っ飛ぶ。

一同が悲鳴を上げる中、慌てた様子で辺境伯が、

「で、出会え!」

と叫んでワラワラと人が入ってきた。

私はそれを気にせずバルコニーに出ると、スーッと息を吸い込み、

(城壁だけを破壊しろ)

と軽く念じながら魔力であろう力を解き放った。

ものすごい風が吹き、城壁が音を立てて崩れていく。

背中からなにやら気配を感じたので振り返ってみると、騎士が私に剣や魔法で攻撃をしかけてきていた。

「無礼ものがっ!」

軽く一括して睨みを聞かせる。

すると、騎士がものの見事に倒れた。

(全員の安否を確かめろ)

そう念じて出てきた画面には、

「失神してるのが三十四人かな? 打撲とかの軽傷が七人いるよ。ああ、死者はなしだから安心してね」

と出てきた。

(こういう報告はわかりやすく数字を列挙するだけにしろよ)

と思いつつ、失神している辺境伯に近寄る。

軽くツンツンとつついてみたが、起き上がる様子はなかった。

震えあがる一同の中からローズ嬢が青い顔で立ち上がる。

(やはりそうとうな胆力だ)

と感心しつつ、ローズ嬢に、

「すまん。やりすぎたか?」

と聞くとローズ嬢はやや引きつってはいたものの、笑顔を作って、

「いえ。最近の辺境伯の増長には困ったものだと思っておりましたからちょうどよいかと。城壁修理にお金を使わせれば肥やした私腹も少しはすっきりするでしょうしね」

と言ってくれた。

「なるほどそうか。ということはもう少し壊して公共事業を増やしてやろう。そうすれば民に金が回り町の景気も良くなるだろうからな」

そういって軽くウィンクをし、外に飛び出す。

やはり魔法や剣で攻撃されてきたが、軽く気絶させ、城壁をじっくりと丁寧にやりすぎない程度を意識しながら壊して回った。

翌朝。

丸裸になった辺境伯の城に差し込んでくる朝日で目を覚ます。

防御の要になりそうな箇所はいちおう残してやりつつ慎重に壊して回ったので意外と時間を食ってしまった。

(夜中まで働くことは幾度もあったが、夜中まで肉体労働をしたのはいつ以来だろうか? ああ、若いころ災害対応の手伝いに行って荷運びをしたことがあったな)

と思いつつ、軽く伸びをする。

眩しい朝日に輝く城を見て、

(あの男にこの城はもったいないな)

と少しの嫌味を交えつつ、そう思った。

城の中に入り、辺境伯に面談を求める。

しかし、

「主人は体調が思わしくなく……」

と顔を青ざめさせながら執事がそう言ってきたので、

「それは大変だ。お大事になさるよう伝えてくれ」

と嫌味を言って、再び庭に出た。

朝の陽ざしを浴び、のんびりしていると、そこに王家のメイドがやって来て、

「出発の準備が整いましたので……」

とやや恐々と言った感じで言ってくる。

「ああ。わかった。安心しろ。もう怒っていないからな」

と冗談交じりにそう答えると、少しほっとしたような顔をしたメイドと一緒に庭を出て行った。

まるで逃げるようにその場を発とうとしている王に軽く謝罪の言葉を述べる。

王はなんとも言えない表情で笑う事しかできなかったようで、

「神獣様のお心のままに……」

とだけ言い、軽く頭を抱えていた。

(しかし、これで私の地位も安泰というものだろう)

そんなことを思いつつ、呑気に後をついて行く。

行きにはある程度の歓迎で迎えられたという雰囲気だった観衆がどこか恐ろしい物をみるような目で私を見てきている。

(うーん。やりすぎただろうか? いや、こういうのは最初にはっきりと見せておかねばならない。でないと今後もああいう輩に絡まれて面倒になってしまうからな。辺境伯には運が悪かったと思って諦めてもらおう。……事後処理は頼んだぞ、イクセリウス殿)

そんなことを思いながら、堂々と歩き、また堅牢そうな門をくぐって街道に出た。

街道を行く一行はどこか緊張しているように見える。

私はまた反省しつつ、昼の休憩の時、そっとローズ嬢に話しかけた。

「すまん。やりすぎたようだ。どうやったらこの重苦し雰囲気を変えられるだろうか?」

「うふふ。あれほどのことをおやりになったんですから、当分の間みんなから恐れられたままになりますよ」

「うーん。それは本意ではないな。なんとかしてみんなの信頼を取り戻さなくてはならないが、少し力を貸してもらえないだろうか?」

「あら。私にできることがありまして?」

「ああ。しばらくの間でいい馬車ではなく私に乗って移動してくれないだろうか?」

「まぁ、それは素晴らしいですわね。それを見ればきっとみんなも少しは安心してくれるでしょう」

「うむ。すまん」

「いいえ。また神獣様に乗れて光栄ですわ」

そんな話をして、ローズ嬢が私に乗って移動を始める。

それを見てみんなどこかほっとしたような表情を浮かべてくれた。

麦畑の間を通る長い街道を車列についてのんびり進む。

所々に浮かぶ雲がなんとも平和にたゆたっている。

「ソーリ様の背中ってなんだか日向の匂いがしますのね」

と言うローズ嬢に、

「干したての布団みたいな感じか?」

と聞くとローズ嬢は「うふふ」と笑い、

「ソーリ様ったらやたらと人間のことに詳しいのですね?」

と軽くツッコミをいれてきた。

「ははは。なにせ神獣だからな」

と誤魔化し、足どりも軽く進んでいく。

(さて、今回の一件でそれなりに敵もできただろうが、私の地位は示せた。となると、あとは王家とどの程度の距離感で付き合っていくか、だな。それなりに難しいかじ取りになりそうだ)

そんなことを思っていると、背中からローズ嬢が、

「ソーリ様はお茶目ですけど、けっこう豪胆でもいらっしゃいますし、本当に王のような威厳をお持ちですのね」

と声を掛けてきた。

そのあまりにも的を射た指摘に少しドキリとしながらも、

「ははは。なにせ神獣だからな」

とまた誤魔化すように冗談で返す。

「うふふ。そのうちもっとたくさんのお顔を見せてくださいましね」

ローズ嬢はそう言って、「うふふ」とどこか「おきゃん」な感じの微笑みを浮かべていた。

(面白い子だな。成長すればきっといい政治家になるぞ。それこそ閣内に置いておきたいような存在になるかもしれんが、この世界で女子はどう扱われているんだろうか)

と妙なことを心配する。

午後の陽に照らされた街道の脇には小さな白色の花が咲き、これから行く道の先を可憐に彩ってくれていた。

その道を見て、これからのことを、

(まぁ、なんとかなるさ)

と少し楽観的に考える。

私はローズ嬢を乗せて堂々と歩き、真っ直ぐに伸びる街道の先にある太陽を見てそっと目を細めた。


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