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前世は総理でしたが、今世は王家の犬(フェンリル)として働いております。  作者: タツダノキイチ


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総理、王都に向かう03

村人たちの熱烈な感謝を受け、村を発った翌日。

少し大きな宿場町に入る。

石造りの堅牢そうな門をくぐって入った町の中ではかなりの注目を集めた。

(そりゃそうだ。こんだけデカい犬がしかも王と一緒にいればそうなるだろうな)

と思いつつも、そこは職業柄なれたもので、軽く微笑み、時々沿道に手を振ってやりながら宿に入っていった。

宿は思ったより広く、ヨーロッパの老舗ホテルに来たような感じを覚える。

(多少、古さは感じるが、それもまた趣があっていい。調度類も意外にしっかりしているな)

という印象の広間に通され、そこでゆっくりくつろがせてもらった。

その日の夕食の時間。

王と軽く日程についての会話を交わす。

「明日は辺境伯の屋敷に泊まります。道中の貴族屋敷訪問は行きにあらかたすませておりますが、辺境伯の所にはどうしてもよる必要があり、そこで二日ほど滞在せねばならないでしょう。ソーリ様には少し退屈かもしれませんが、どうぞご容赦ください」

「なに。かまわん。わたしとしては急ぐ旅でもなんでもないからな。物見遊山気分でいさせてもらおう。もし相手方の了承が得られるなら町を散策してみたいが、それは難しいだろうな」

「かしこまりました。相談してみましょう」

そういうことで、辺境伯とやらの屋敷に泊まることが決まり、私はもしかしたら町を散策できるかもしれないということになった。

翌日も晴天の中旅路を行く。

どうやらこの国では今、春先で最も晴天に恵まれやすい時期なのだそうだ。

休憩中、側にいたメイドからほんの少し肌寒いがいかがかと尋ねられるも、なんの寒さも感じないので、

「この毛があるからな。心配ない。ありがとう」

と答えにこやかに微笑んでおいた。

長閑な田園風景の中を進んでいると大きな町が見えてくる。

昨日の町よりずいぶんと大きいようで、かなりしっかりした「城門」といった感じの門だった。

その門をくぐり、また観衆に手を上げてやりながらゆったり進んでいく。

やがていかにも中世の城といった感じでなかなか堅牢そうな城が見えてきた。

深い堀を渡り何度か折れ曲がる道を通って庭のようなところに出る。

(ほう。いかにも強そうな城だな。ということはやはりこの地域は軍事色が強いと思ってまちがいないだろう)

と、その高い城壁や各所に付けられた見張り台の上にしっかりと兵が配置されているのを見てそんなことを思っていると、やがて車列が馬車止めに止まり、やたらと大きい玄関扉がメイドたちの手によって開けられた。

中から金の刺繍がされた豪奢な軍服らしいものを着た中年の男性が出てくる。

見た目の印象はやや小太りで髭が妙に似合っていないという感じだった。

「ようこそおいでくださった。王よ。まさか神獣殿をお連れになるとは思ってもみませんでしたな」

「また寄らせてもらったぞ、コーリアス卿。話の続きをさせてもらいにきたが、ご準備はよろしいだろうか?」

「ええ。その件は後ほどじっくり。まずはお入りくだされ」

「うむ」

という会話にどことなく温度の低さを感じ、

(なるほどいわゆる政敵というやつなのかもしれんな。関係の悪い国の元首と会う時はたいていこんな感じになっていたものだ)

と思いながら私も王たちに続いて城の中へと入っていった。

壮麗な天井画や整えられた壁紙、柱に施された細工やところどころに置かれた調度品などを見て、

(少なくとも明治、大正の技術力はありそうだ。多少前時代のものと考えると、やはり昭和初期くらいの技術力がある国家と思っておいて間違いないようだな。のんびり暮らすにはちょうどいい文明の発展具合かもしれん)

と思いながら広い廊下を悠々と歩いていく。

やがて大きな扉が開かれ、広いホールのような場所に入った。

(まさしく謁見の間だな)

と思っていると、王が玉座らしき所に向かっていく。

私も執事に促され、その玉座の隣に着座した。

そこに先ほどコーリアスと呼ばれた男が跪き、

「辺境伯の地位を賜っております、コーリアス・エル・リッツにございます。王と神獣様のご来訪をこころより歓迎申し上げます」

と名を名乗った。

王がこちらをチラリとみたので、

「フェンリルのソーリである。よしなに頼むぞ」

と答えると、辺境伯はうやうやしく頭を下げ、

「恐悦至極に存じます」

と言ってきた。

「おつかれでしょうからまずはお休みください。正式な会談は明日にでも」

辺境伯がそう言って謁見は短く終わる。

案内された部屋は広く、私でもなんとか眠れるような大きな天蓋付きのベッドが用意されていた。

さっそくお茶をもらい一服させてもらう。

辺境伯家のメイドが私が器用にお茶を飲むのを見て少し驚いているようだったので、

「器用なものだろ?」

と冗談を言って少し微笑みかけてやった。

やがて、

「今宵の晩餐にはぜひ神獣様もご招待いたしたいと主人が申しております」

と執事に告げられ晩餐会の会場に向かう。

そこはまるで宮中晩餐会を開くような会場だったが、人は少なく王とローズ嬢と私の他には、辺境伯とその妻と思しき女性、そしてその息子らしい人物しかいなかった。

それぞれから自己紹介を受け、晩餐が始まる。

辺境伯の息子はまだ十五歳だそうで、今年成人する予定だと聞かされた。

(なるほど。この世界の成人は十五歳か。早いな)

と思いながら出された料理を食べる。

料理の味はそれなりによかったが、どこか田舎風で朴訥な料理が多いという印象を持った。

(おそくら辺境ということだから、香辛料などは手に入りづらいのだろう。海外視察でも田舎の伝統料理はこんな感じだからな)

と思いながら食べる。

「お味はいかがですかな? 神獣様」

「ああ。実に素朴でいい料理だ。私のことはソーリでよいぞ」

「ありがとうございます。なにしろ辺境の地ゆえ、この程度のおもてなししかできず申し訳ございません」

「いや。心尽くしはどれもありがたいものだ。気にしなくてよい」

「ほう。寛大なお心をお持ちのようですな。感謝いたしますぞ」

そんな当たり障りのない会話から入り、辺境伯が王にも、

「辺境ゆえ、私どもは厳しい生活を強いられております」

と同じような言葉を投げかけた。

「苦労は知っておる。しかし、それとこれとは別問題だ」

「そこをなんとかなりませんかな?」

「辺境の兵は最低でも現在の態勢を維持、できれば増強して欲しいと思っている。そちらの要求は飲めないところが多い」

「税の減免があれば、そのぶん兵力に回せるのですが」

「辺境には特別な税制が敷かれ、他の領より優遇されておるではないか」

「それでも厳しいのが現実でございます」

そんな会話を聞き、

(同盟国とのやり取りを思い出すなぁ)

と思っていると、辺境伯が、

「ソーリ様のお力を貸していただければその分軍備の増強は必要なくなるのでは? 神獣様というからにはさぞかしお強いのでしょうから」

と言いこちらにチラリと視線を送ってくる。

私は少々呆れつつ、

「私は国賓だぞ?」

と苦笑いでそう言った。


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