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前世は総理でしたが、今世は王家の犬(フェンリル)として働いております。  作者: タツダノキイチ


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総理、王都に向かう01

王と面会した夜。

私の寝床が問題となる。

部屋はあったが、どの扉も玄関よりずいぶん小さく、私の体が通らなかったからだ。

私は外でかまわないと言ったが、それがあちらには大問題だったらしく、慌てて先ほどの食堂のような広間に絨毯を敷いてもらうことになった。

「すまんな。手数をかける」

王に軽く謝罪と感謝の気持ちを伝え、ゆっくりと横にならせてもらう。

側にはメイドが控えていたが、まさか不寝番をさせるわけにもいかないし、むしろ気になって眠れんと思い、

「用があったら呼ぶから下がってくれてかまわんぞ」

と言い下がってもらうことにした。

翌朝。

さわやかな朝日で目を覚ます。

(ああ、こんなに爽やかな朝を迎えたのはいつぶりだろうか? ひょっとしたら中学生の時以来かもしれんな。村の神童と言われ高校からは東京に出たからな。毎日が戦争だった。あの当時は勝手にここで負ければ人生が終わると思っていたものだ。なぜ、そんなに必死だったんだろうか? 今思えばばかばかしいことでせっかくの青春を無駄にしたもんだ)

そんなことを思いながら呑気にあくびをしていると、そこに王がやってきた。

「おはようございます。ソーリ様。昨晩はゆっくりお休みになれましたでしょうか?」

「ああ。ゆっくりさせてもらった。逆に気を遣わせてしまって申し訳なかったな。イクセリウス殿もよく眠れたかな?」

「ええ、それはまぁ……、ああ、そうでした。朝食はいかがいたしましょう」

「うむ。普通のものでかまわん。なんならなくても大丈夫だ。そういう体らしいからな」

「さようでございますか。では私どもと同じものを用意させましょう。しかし、残念ながらここは辺境の地でございますので、そこまでしっかりしたものはご用意できません。あらかじめご了承ください」

「いや。本当に気にしないでくれ。同じものを食って同じ感想を持つことが友好の第一歩だったりするからな」

「そのようにおっしゃっていただき感謝申し上げます」

「なに。かまわんさ。さっそくいただこう」

「かしこまりました。すぐに用意させます」

まるで、相手国の応接役の人間と話すような感覚で王と話し、さっそくその場に朝食の席が設けられる。

どうやら、食堂のような広間だと思っていたところは本当に食堂だったらしい。

メイドたちが大急ぎで支度を整えるのを少し申し訳ないような気持ちで見ているとそこに第三王女がやってきた。

「おはようございます。ソーリ様」

「おはよう。ローゼリア殿だったな」

「どうぞ、ローズとお呼びください」

「そうか。ではそうしよう。私のことも様は付けんでいいぞ」

「そうはまいりません。神獣様を呼び捨てなどとてもできませんわ」

「なるほど。仲良くなるにはまだ時間が必要ということかな?」

「そうですわね。しかし、いつかそんな仲になれることを望んでおりますわ」

「ああ。私もだ」

そんなにこやかな挨拶を交わし朝食の席につく。

しかしそこで、また問題が生じた。

「あの、食器はこれでよいのでしょうか……?」

メイドが困ったような顔で言ってくるのに、

「ああ、そうだったな……」

と困ったような返事をする。

(えっと、どうしたらいいんだ? まさか本当に犬のように直接食うのだろうか? それは外交儀礼としてどうだろう? いや、いいのか? 所詮、犬だし)

そう思いつつ、目の前に置かれたカトラリーに手を添えてみる。

当然ながら握れない。

困ったことになったと思いながら、

(なんとかしてくれ)

と念じると、手というか前脚にすっとナイフがくっついた。

「おぉ……」

少し驚いて声を漏らしてしまう。

しかし、そこは落ち着いてメイドに微笑むと、

「なんとかなったようだ」

と言い安心させてやった。

運ばれてきた食事を見て、

(ほう。普通のホテルのモーニングとさして変わらんな)

という印象を持つ。

いわゆる高級ホテルには及びもつかなかったが、そこには焼き立てらしいパンとベーコン、スクランブルエッグにサラダといったいわゆる定番の朝食が並んでいた。

小さいナイフとフォークをなんとか使い、大きな口に小さな食事を運ぶ。

最初に口に運んだベーコンは、わりと美味しく、私は、

(ああ、ちゃんと美味い。よかった。犬の舌がどれほど味を感知できるのかわからなかったが、どうやらそこは人間と同じ感覚だったようだ)

と安心しながら、美味しく朝食をいただいた。

食事を進めながら王と会談する。

昨日は頭を下げていたので、よくわからなかったが、王はなかなかの偉丈夫らしく、細身ではあるもののわりとがっしりとした体をしていた。

それに少し白髪は混じっているいわゆるロマンスグレーのような髪の毛でなかなか渋い大人の男性という印象を持った。

(王家に生まれてこの見た目だったらさぞかし持てただろうな)

とどうでもいいことを思いつつ、これからのことを話す。

「私どもといたしましては神獣であらせられるソーリ様を心より歓迎し、出来る限りのことをしたいと思っておりますが、ソーリ様はいかがでしょうか?」

「うむ。私は人の社会のことがよくわからん。しばらくの間は世話になりたいと思っておるが、あまり崇められるのも逆に気障りだ。普通に外国の使節をもてなす程度に接してもらえればそれでかまわんぞ」

「寛大なお言葉いたみいります。では国賓として王都にお迎えいたしましょう」

「それはかたじけない。急に現れたのに無理をさせてすまんな」

「とんでもございません。神獣様のご降臨は国家の慶事。このような僥倖に立ち会えたことを幸せに思いはすれ、無理などと思うはずがございません」

「そうか。それはよかった。なに、私は所詮ただの犬だ。そこまで気を遣わずもっとフランクに接してくれ」

「そんな! それはさすがに……」

「はっはっは。いずれ時が経てば、このギクシャクした関係も少しは柔らかくなるだろう。そのことを期待しておるぞ」

「はっ。ありがたき幸せ」

というような会話で私の王都行きが決まった。

私は、

(さて。王都と言うくらいだから、ここよりきっと進んだ町なのだろう。実に楽しみだ。それに旅をするなら、この世界の文明がどの程度のものか見て回るのにもちょうどいい機会になる。今後私はどんな場所でどんな生活をすることになるのか、じっくり見聞するのもいいな)

と思いつつ、どこか修学旅行にでもいくような気分でウキウキと朝食を食べ進めていく。

その様子を王はどことなくほっとしたような顔で見ていた。

食事が終わり、さっそく出発の準備が整えられる。

場所が辺境と言うことで、今日はどうしても一日野営を挟まなければいけないのだそうだ。

(それはそれで林間学校気分が味わえて楽しそうだ)

と思いつつ、私は王が乗り込む馬車の後をついてゆっくりと歩き始めた。

しばらく進み、昼食の時間となる。

野外のことでたいしたものは出てこなかったが、それでもメイドが用意してくれたスープとパンをありがたくいただいた。

(やはり心尽くしの物は美味しくいただかなければ、相手方に失礼にあたるからな)

などと外交儀礼を思い出しつつにこやかに食事を終える。

そしてまたしばらく進むと草原の中央にあるちょっとした広場のようなところで野営となった。

野営の準備中、草原を吹き抜ける気持ちいい風と爽やかな若草の匂いを嗅ぎながらのんびり寝そべっていると、そこにローズ嬢がやってきた。

「お疲れではございませんか、ソーリ様」

「気遣ってくれてありがとう。だが心配はいらない。どうやらものすごい体力の持ち主らしいからな」

「うふふ。さすが神獣様ですこと」

「ああ。立派な体に生まれたことに感謝しているよ」

「神獣様はどうやってお生まれになるのです?」

「あー……、それはわからん。なにしろ気が付いたら森にいたからな」

「そうなんですの? それは不思議なことですわね。さすが神獣様です」

「ははは。ところでローズ嬢は私を恐れないのか? 噂でちょっとお転婆だと聞いたんだが」

「あら。それはお恥ずかしい噂ですわね。正直申しますと、まったくそうではないというと嘘になりますが、ソーリ様は見た目よりもずっとお茶目な方だという印象をもっておりますの。違いまして?」

「いや。だいたいあっている。私は元来堅苦しいのが苦手だ」

「うふふ。やっぱり。そんな感じがしておりましたのよ」

「ふっ。ローズ嬢とは王より早くに打ち解けられそうだ」

「あら。嬉しゅうございますわ。私ももっと仲良くなりたいと思っておりますのよ」

「ふっ。いつか噂のお転婆ぶりを存分に見せてもらおう」

「あら。いやですわ。ちょっと剣を振ったりするのが好きな程度ですのよ?」

「ほう。それは楽しみだ」

「うふふ。では王都に戻ったらお見せいたしますわね」

「ああ。よろしく頼む」

そんな会話をしているうちに辺りが薄暗くなってきているのに気付く。

橙色から浅葱色、そして紺碧に変わっていく美しい空を眺め、

(この世界の空も美しいのだな)

と改めて思った。

遠く輝く一番星を見て、

(あれが地球という可能性はあるのだろうか? いや、地球は恒星じゃないから見えんかもしれんよな?ここに天文台の人間がいればあの星を見てどう思ったんだろうか?)

と少しセンチメンタルなようでいてどうでもいいことを思う。

私はまた草原を吹き抜けてくる心地よい風を感じ、少し目を細めると、

(この世界があの世界とは違い、この夕景のように美しければいいが……)

と少しの憂いを交えてそう思った。


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