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前世は総理でしたが、今世は王家の犬(フェンリル)として働いております。  作者: タツダノキイチ


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総理、西に行く04

(あちゃぁ……)

と思って止めに入ろうかどうしようかと迷う。

しかし、バンの動きを見ていると、ローズ嬢を囲もうと動くオークの足を狙って確実に止めているのが分かったので、いったんその場は任せてみることにした。

バンの剣はローズ嬢に負けず劣らず鋭い。

おそらく倒し方を知っている剣だ。

私はそう思いながら全体を把握する。

そして、バンがローズ嬢を上手くかばう位置を取り続けているのを見て、少しほっと胸を撫で下ろした。

ローズ嬢は相変わらず無鉄砲に突っ込み、オークに斬りつけている。

その剣筋は鋭く、見事だと思ったが、行動に一貫性がないので、すぐオークに囲まれるような隙を作りだしているように見えた。

「ちっ!」

バンがまた舌打ちをして魔法を展開する。

十本ほどの光の矢がバンの頭上に浮かびローズの背後から迫ろうとしていたオークの背中にめがけて飛んでいった。

見事にオークを仕留め、バンがローズ嬢の背中につく。

「背中は任せましたわよ!」

と見当違いの指示を出すローズにバンが少しため息を吐きつつ、

「かしこまりました」

と応じた。

そこからは乱戦になる。

騎士たちはなんとかオークを足止めしていたが、結局陣地の中まで踏み込まれてしまった。

陣地の中での混戦を制し、三匹のオークが無事仕留められる。

しかし、天幕は完全に破壊され、幾人かのけが人も出ているようだ。

ローズ嬢とバンもなんとかオークの拳を凌ぎ切り、勝利を収めていた。

(なんとも危ない戦いだったな)

という印象を持つ。

私はどこか清々しい表情で勝利の余韻に浸っているローズのもとに降り立つと、ほんの少しの力を込めて、

「このバカもんが!」

と軽くしかりつけた。

ローズ嬢の体がびくっとなる。

私はまだ少し厳しい口調で、

「なぜあんな無謀な真似をした?」

と問いただした。

「……兵を守るのは私の務めだと……」

と消え入りそうな声でいうローズ嬢に、

「なるほどな。しかし、守り方が違う。ローズ。おまえは強い。しかし、その強さを使う方向をはき違えている。お前の真の強さはみんなを鼓舞し、戦う勇気を与えることだ。自分の強さに驕り、冒険ごっこをしていい立場じゃないことをそろそろ自覚しないさい」

と厳しく現実を指摘した。

「そんな……っ!」

と言ったローズの目から涙がこぼれる。

私はその涙を見て、声のトーンを一つ落とすと、

「ローズが頑張っているのはみんな知っているよ。だから、これからは少し大人になる勉強をしなさい」

と優しく諭した。

「う、うぅ……」

泣きながらローズが私にしがみついてくる。

その様子はまるで子供のようだった。

「うぅ……、ごめんなさい。ごめんなさい」

と謝るローズの頭に軽く手を置き、

「うむ。ちゃんと謝れて偉いぞ」

と慰めの言葉をかける。

ローズはしばらく泣いていたが、やがて恥ずかしそうに私を見上げ、

「……申し訳ございませんでした」

と再度謝ってきた。

「謝る相手は私じゃないぞ?」

と言ってバンの方を見る。

するとローズはそれこそ顔を真っ赤にし、なんとも恥ずかしそうにしながらも、バンに向かって、

「申し訳ございませんでした」

と謝った。

「とんでもございません。ご無事でなによりです」

と言うバンの顔に一瞬年相応のほっとした笑顔が浮かぶ。

私はそれを見て、安心し、

「なに。私からみれば二人ともまだまだだ。これからも民のために励むがいいぞ」

とどこか時代劇の主人公にでもなったような気分でいい、

「はっはっは!」

と高笑いをした。

その後、本格的な被害調査が始まる。

どうやら天幕が一つ全壊し、軽症者が五名ほど出たようだ。

あの被害の中軽症者五名だけで済んだのはきっと騎士たちの日頃の訓練の賜物というやつだろう。

もしローズが飛び出していなければバンは無傷で乗り切ったのかもしれない。

そう思うと、改めてバンという青年の有能さが分かったような気がした。

翌朝。

後始末をして帰路に就く。

ローズは終始沈んだような顔をしていたが、私が時折励ましたおかげで夕方ごろにはなんとなく明るさを取り戻してくれた。

日が暮れ始めたところで野営になる。

私は調理係のところに行くと、

「パンはたんまりあるか? 今夜は特別にカレーを作ってやろう」

と言い調理を交代した。

魔法鞄から取り出した牛肉と野菜を炒め、水とブイヨンもどきを入れる。

そこに王宮の料理長特製のカレールーを合わせるとあっと言う間に大量のカレーができ上がった。

軽く味を見て、隠し味に醤油を足す。

「みんな。できたぞ!」

と声を掛けると、そこには皿を持って整列している騎士たちの姿があった。

「はっはっは。たっぷりあるからたんまり食え。今夜は勝利のお祝いだ」

と宣言して、ローズと自分の分を取り分け、後を調理係に任せる。

私はローズのもとにカレーを運ぶと、

「さぁ。温かいうちに一緒に食べよう」

と言ってさっそくカレーを口にした。

「お優しいんですのね」

「ははは。なにせ神獣だからな」

「そうですね。でも、それだけじゃないような気がします」

「まるでじいさんと話しているような感じか?」

「ええ。おじい様は小さい頃お亡くなりになりましたが、わずかに残っている記憶にそんな面影があります」

「そうか。ということはさぞかし立派なおじい様だったんだろうな」

「うふふ。ご自分でおっしゃいます?」

「はっはっは。自分で言わねば誰も言ってくれんからな」

「そんなことありませんわよ」

と話しているところに、

「うっめー!」

「なんだこれ。たまらんぞ!」

「ははは。これが王都名物カレー様よ!」

というような騎士たちの明るい声が聞こえてくる。

「かないませんわ」

とつぶやくローズに、

「ははは。そのうちローズもできるようになるさ」

と優しく声を掛け、またカレーをひと口頬張った。

無事訓練を終え、辺境伯屋敷に戻る。

そこで、視察と訓練の総括を話し合い、今後の開発計画や支援のあり方が検討された。

検討の成果は利害関係の調整が終わった計画から随時実行し、王家が間接的に資金援助をするということに落ち着く。

王家としては新規開拓民として各地からの移民を受け入れることと、増産分の税を通常の貴族家同様の水準まで引き上げることで十分な利益を確保でき、辺境伯領も開発に必要な人手を得られるというなかなか実のある成果だと思った。

そんな会談が落ち着き、バンとローズが今後の事務手続きを進めるというので、席を外し、庭に出る。

よく日の当たる場所を選んで寝そべっていると、植え込みの陰から小さな女の子がひょっこり顔を出し、こちらをジーッと見ているのに気が付いた。

「こんにちはお嬢さん」

とにこやかに声をかける。

「わんわ……」

とつぶやいて目を見開いているから、きっと私はしゃべって驚いたのだろう。

「しゃべるわんわんじゃよ」

と言ってさらに微笑みかける。

すると女の子はトテトテとした足取りで私の方に近寄ってきた。

そばまで来ると、バフっと思いっきり私に抱き着いてくる。

「わんわ! わんわ!」

と言っているから、きっと嬉しいのだろう。

そう思って私は、

「ああ、わんわんだよ」

と言い女の子の背中を優しくトントンしてあげた。

「きゃっきゃっ!」

と女の子が嬉しそうな声を上げる。

私はすっと立ち上がると、女の子を抱き、「たかい、たかい」をしてあげた。

また女の子が、「きゃっきゃ」と声を上げる。

そこへ慌てた様子でメイドがやって来て、

「大変申し訳ございません!」

と跪いてきた。

「いや。何事もなくてよかった。子供はなにをするかわからん。これからはなるべく目を離さないようにしなさい」

と優しく言って女の子をメイドに預ける。

女の子は少しぐずったが、メイドが少し困ったような顔で、

「さぁ、マーガレット様。あちらでおやつを食べましょう」

と言うと、

「あーい!」

とうれしそうな声を上げ、私に手を振ってきた。

「ああ。ばいばい」

とこちらも手を振り返す。

私は、

(きっとローズにもあんな頃があったんだろう。じいさんはさぞ可愛がったんだろうな)

と思いそっと目を細めた。


翌日。

待望の新酒の樽開けに立ち会う。

若い酒はまだ酸味が強く、お世辞にも美味しいとは言えなかったが、私はその若い時にしか出せない味というものを微笑ましく思いながら飲んだ。

辺境の踊りが披露され、楽しい時間を過ごす。

そしてその踊りを見ているバンとローズに目を移すと、どうやら少しは打ち解けた様子でなにやら踊りの感想を言い合っていた。

(若いっていいねぇ)

と思いつつ、甘酸っぱい新酒を飲む。

辺境の空に浮かんだ白い雲がどこか悠然と流れていく。

(明日もきっと晴れるな)

となんの根拠もなく思いながら、私は長閑な秋の日と酒を堪能した。


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