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前世は総理でしたが、今世は王家の犬(フェンリル)として働いております。  作者: タツダノキイチ


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総理、西に行く03

重厚な扉をくぐりやや広いホールに入る。

そこでローズ嬢がバンから正式な挨拶を受け、さっそく会談に移った。

主に軍事訓練の日程や視察の予定地の説明を受ける。

よく練られた案でローズ嬢も特に注文を付けることがなかったので、会談はすんなりと終わった。

軽く休憩を挟み晩餐となる。

晩餐の料理はどこか田舎風の味付けながらもそれはそれで美味しいと思いながらいただいた。

特にチーズの質がいいことに驚く。

いわゆるフレッシュチーズというやつで王都近郊では食べられないものだ。

私は、

(ここにトマトがあればカプレーゼができるな。それにワサビと醤油の組み合わせもいいだろう。ああ、しかし、ここの名産はワインだと言っていたなということは、オイルと塩だけという選択肢もあるか)

と考えながら食べていたが、バンはというと、どこか義務的に食事を進めているという印象を持った。

「大変けっこうなお味ですわね」

「ありがとう存じます。田舎料理ですが、お気に召されたのであれば幸いです」

という会話も義務的でどこにも華がない。

(ローズも普段はどちらかと言えば人見知りする方だし、バンは誰も寄せ付けない雰囲気を持っているからなぁ。この二人が仲良く会話をする姿が想像できん。しかし、ここは是非バンとローズ嬢に仲良くなってもらわなければ、さもないと王家が西の辺境に公共工事の支援をするという芽がつぶれてしまう)

そんなことを思いつつも、焦らずじっくり二人を見る。

しかし二人は当たり障りのない社交的な会話に終始し、残念ながらこの晩餐の場で打ち解けるということはなかった。

翌日。

視察に出掛ける。

ブドウ畑や小麦畑などの状況を見て回りつつ、小高い丘に登り、そこで地形の説明を受けた。

西の辺境の特徴として大きな川がない。

なだらかな丘が連なる地形は美しく、一見豊かに見えるが、背の低い草の多い草原が続くだけで、豊かとは程遠い土地だと率直に感じた。

(なるほど。これは大規模なため池が複数必要だな。それに灌漑設備も整えなければならない。近代国家でも大事業になるだろう。それをこの世界の技術で進めるとなると何年かかることやら)

と思って少し眉をしかめる。

そんな私の表情を読み取ったのか、バンが、

「雪が降らねば、この地は砂漠だったでしょうね」

と例のシニカルな表情でそう言った。

「森の開拓はやはり難しいのですか?」

というローズの質問に、バンが淡々とした口調で、

「先々代が一度挑戦しています。本格的な開発は魔獣の群れに阻まれたそうです。それでもわずかに開拓した土地に作物を植えてみたそうですが、全然ダメだったという記録があります。それに緩衝地帯を失ったが故に魔獣の被害が増え、結局その開拓村は十年と持たずに閉鎖に追い込まれました。おそらく魔獣というものがいる限り森の開発は現実的ではないでしょう」

と答える。

私も森林開発の難しさを散々外国の例も含めて見てきただけに、

(この世界の環境破壊は魔獣という存在がある以上、温暖化なんかより直接的な被害が出る可能性がある。安全策を取らねば人の命に関わるようなことになるだろうな)

と切実に思った。

その後、牧畜の様子や小規模河川の治水対策などの話を聞く。

話を聞けば聞くほど、辺境の苦労がしのばれた。

「数年に一度なぜか不作になる年があります。原因は不明で気候的な予兆もありません。伝承では森の奥で眠っている巨大な魔獣が目を覚ますからだとかなんとか言われていますが、私は信じておりません」

という話を聞き、

(それって土地の魔力が関係しているのでは?)

と推測を立てるが、こんなにも広大な土地に魔力的な影響を与えるなにかの存在を、自分を含めたこの世界の人間がどうこうできるわけもないと思い、その説をひっこめる。

そして、その代わり、

「やはり灌漑設備を整える以外に方法はなさそうだな」

と現実的な解決策を提示した。

その後、現在進んでいる灌漑設備の状況を見る。

この地域では井戸を掘れば水が出てくる地域があるそうだが、その範囲はだいたい決まっており、そういう地域にはすでに人が住んでいるらしく、地下水を利用した灌漑設備は厳しいらしい。

そこで、古典的だが一番効果的なため池を作る事業を進めているそうだ。

しかし、効率的に水を配る地域の選定や利水争いがあるおかげで交渉が難航したりする場合が多いらしく調整だけで数年かかることも珍しくないようだ。

先々代から続く事業がようやく一つ完成を見たらしいので見学させてもらったが、その規模は小さく、これではこの地域全体を潤すのにあと何十個作ればいいのだろうかと思われるほどの物だった。

「領地経営とはこんなにも難しいものなのですね」

とローズ嬢が改めてそんな言葉を口にする。

バンはまたシニカルに笑いながら、淡々とした口調で、

「ええ。しかし、そのことを直接知っていただけただけでも幸いです。どうか、これからも変わらずご支援ください」

と答えていた。

辺境伯屋敷に戻ってまた晩餐になる。

その日の話題は明日から行う予定の軍事訓練のことが中心で、またしても若い男女にしてはなんとも華のない会話に終始した。

あくる日。

生き生きとした様子で鎧に身を包み、部隊に訓示するローズ嬢の姿を見て、なんとなくほっとする。

意外だったのはバンも直接戦場に出て前線で戦うということだった。

バンは白髪の影響やそのどちらかと言えば細身の体のせいでどこかひ弱な印象を受ける。

しかし、本人曰く、

「前線で戦えない者に西の辺境伯は務まらないというのが我が家の伝統なので」

ということで、それなりの武芸は身に着けているということだった。

改めてこの世界の厳しさを目の当たりにしたところでさっそく森に入っていく。

バンの説明によると軍は普段冒険者が立ち入らない地域を中心に掃討作戦を展開しているようで、その活動はかなり厳しいものだということだった。

二日ほど歩き、そろそろ魔獣が出てもおかしくないという地域に入る。

そこで野営陣地の設置訓練や模擬戦を行ったが、西の辺境伯の騎士たちは王都の騎士たちに比べ、実戦慣れしているという印象を持った。

そんな訓練を重ね、明日は帰路に就こうかという日の夜。

突然鳴り響くラッパの音で目を覚ます。

どうやら魔獣の襲撃があったらしい。

私は慌てて飛び起き、鎧を身に着けるローズ嬢の横で耳を澄まし、そっとレーダーの魔法を使った。

「オークだね。中規模だけど群れてるよ。大変だ、こりゃ!」

というふざけた情報提示に「ちっ」と舌打ちしつつ、天幕の外に出る。

私は軽く飛び上がり、状況を確認した。

探知した通り、七匹ほどのオークが群れをなしてこちらに向かっている。

みれば後方にやや大きく丸太の様なものを持った個体がいるようだ。

(もしかして、指揮官か?)

と思い、私はどうしたものかと考えたが、ふと下をみると、辺境の騎士たちがすでに戦いの準備を整えていたので、とりあえず様子を見ることにした。

「全軍集結。第二陣形! 天幕を守れ!」

とバンが素早く指示を出し、陣形が整えられていく。

バンは順当に後方から指示を送り、全体を冷静に指揮しているように見えた。

(なるほど。実戦経験が豊富というわけだな)

と思いながら見ていると、慌てて天幕を出てきたローズ嬢が、

「私が先陣を切る! 遅れるな!」

という真逆の指示を出してしまった。

(バカッ!)

と思わず叫んでしまいそうになった私の代わりにバンが、

「殿下。おつつしみを!」

と声を掛けてくれる。

私はその指示にほっとしたが、ローズ嬢はそれで逆に燃えてしまったのか、

「オーク程度ならなんとでもなります! それより陣地と兵を守りなさい!」

と言って前線に飛び出していってしまった。

「ちっ」とバンが遠慮のない舌打ちをする。

そして、

「散開して殲滅隊形! この際陣地は放棄する! 王女殿下を守れ。傷ひとつつけさせるな!」

と素早く指示を出すと、驚いたことに自分が先頭を切って、ローズの後を追い始めた。

事の成り行きを見守る。

オークは先日のオークロードほどではないにしろどこか戦術的に動いているように見える。

(どことなく密集隊形に近いな。もしかして一点突破で陣形を崩そうとしてきている?)

と、私はなんとも嫌な予感を持ちつつ、いざという時のために備えた。

「やぁ!」

勇ましい掛け声とともにローズ嬢が先頭のオークに突っ込んでいく。

ローズ嬢の剣はオークの足を的確にとらえたが、やや浅いという印象を持った。

(まずいっ! 夜戦で目標を誤ったか?)

と思っているところにパッと閃光弾のような魔法が展開される。

どうやらバンが放ったようだ。

バンがローズ嬢に追いつき、

「下がれ!」

と遠慮なく指示を出す。

しかしローズ嬢はまた逆に奮起し、

「そっちこそ!」

と応じてしまった。


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