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前世は総理でしたが、今世は王家の犬(フェンリル)として働いております。  作者: タツダノキイチ


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総理、西に行く02

相談の結果、今はその時ではないにしても将来的には北部に進出するのがよいのではないかという結論に達する。

西から北部へは狭く厳しいながらも街道があり、交易が全くないわけではないのだそうだ。

「見たところ北部の人達は純朴な人が多い。だから、今の派閥の領袖を裏切るという可能性は低いだろう。しかし、地道につながりを作っておくことだ。その派閥の領袖がなにかをしでかしたとき、一気にかっさらえる機会が生まれる。今はそれを信じて待つより他ないだろう」

「なるほど。しかし、収穫できるかどうかわからないが種を蒔けと?」

「ああ。政治にはそういうことも必要だ。というよりも蒔いた種の九割九分は収穫できないと覚悟しておいた方がいい。それでも種を蒔き、その時に備えるのも政治家として必要なことなのさ」

「いかにも含蓄のある言葉ですね。わかりました。少しずつ動いてみましょう」

そう言って政治の話が一段落ついたところで、ふと気になり、西の辺境の環境について話を振った。

「西部はどんな場所なんだ? 酒造りが盛んだということは穀倉地帯なんだろうが」

「そうですね。しかし、夏場は乾燥するので渇水対策に頭を悩ませることが多いのも事実ですね」

そんな話を聞きなんとなく気候を想像し、

「ということは冬場は逆に雨が降るのか?」

と聞く。

するとバンは苦笑いして、

「大雪ですよ」

と言ってきた。

それから治水対策の話をしたりしているとどうやら大規模なため池を作って渇水対策に乗り出そうとしているという話になる。

そこで私は公共投資と地元の利害、財政支出と税の均衡なんかの話をし、お茶会という名の会談はなかなか実のある形で終わった。

最後にバンが、

「秋の祭りに来てください。新種の樽開けもありますよ」

と言うので、

「もちろんだ。その時期に伺おう」

と約束して握手を交わす。

そしてすっかり夕日に包まれた王都の町を歩くが、そんな私の胸にはバンという青年の苦悩が深く刺さっていた。

(人が変われば町が変わる。その逆はどうだろうか? 町が変われば人も変わるということがあるのだろうか? 私に何ができるか知らんが、あのバンという青年のためにはなにかしてやりたいと思ってしまう)

と思いつつ王城の門をくぐる。

そして私は悩んだ時のいつもの癖で、資料室に行くと、そこで西の辺境に関する書物を読み漁り始めた。


フェンリルの便利なところで徹夜で資料を読み込んでもまったく疲れない体に礼を言いつつ資料室で朝を迎える。

西の辺境についての資料を読み込んだ結果わかったのは、わずかな地境争いが頻繁に起こっているという現状だった。

(こりゃ、利水問題だな。あとは耕しやすい農地の奪い合いとかか?)

と思いつつバンの苦労を想う。

おそらくバンもこの問題の本質には気が付いているのだろう。

しかし、ため池の工事となれば莫大な公共投資が必要になってくる。

それに王家は口を出していない。

いや、バンが一人でなんとかしようとして口を出させていないというのが現実だろう。

(頼れるものは頼ればいいものを……)

と思いつつも、

(若さゆえの過ちとその過ちを取り返そうとする段階で人は成長するものだ。もう少しバンの努力を見守ってやろうじゃないか)

という判断に落ち着く。

私は資料室を出て自室に向かうと、心配そうな顔をしているベルゴールに、

「心配をかけたか? すまんな。朝のお茶にしてくれ」

と優しく声を掛け、ゆっくりと朝のお茶を楽しんだ。

その日も台所に行き、ナポリタンで昼食を済ませる。

そして厨房係のメイドで西の辺境出身のメイという女性になんとなく故郷の話を聞いた。

「あー。農村部はけっこう地域対立があるってききますよ。なんていうか敵視してるっていうか、交わろうとしないっていうか」

「村社会的なことか?」

「いえ。閉鎖的っていうことはないです。なにしろ辺境ですからみんな開拓民あがりで、よそから来た人もすんなり受け入れますよ。でも、それが隣の村との関係ってなると微妙になるから面白いものですよねぇ」

そんな話を聞き、ますます利水と農地関係だろうという疑いを深めていく。

開拓民は土地に対する思い入れが強い。

それは良くも悪くもある傾向だ。

自分たちが苦労して作り上げてきた土地を奪われてなるものかという意識も働けば、もっといい土地が欲しいという欲もわくことだろう。

そうやって人々が競争することで社会が徐々に成熟していくのだから、それを悪だと決めつけるのはよくない。

しかし、バンの心中を想えばなにか抜本的な解決策を提示してやりたいと思ってしまうから不思議なものだ。

(あまり個人に肩入れするなよ。政治家として常に公平でいろ)

という理屈はわかっているのだが、私はどうしてもあの妙に達観した目を思い出して苦しく思ってしまった。

「いかん。歳か?」

と思って苦笑いする。

どうも孫のような世代が頑張っているのを見ているとつい応援したくなってしまう。

ローズ嬢もそうだ。

頑張る若者に幸せな未来が来て欲しいと思うのは人として当然のことだろう。

しかし、政治家、ましてや人知を超えたフェンリルとなってしまった私がどこかに肩入れすると必ず将来歪みを生じさせてしまう。

私はそのことを思って、

(どこが一番いい線だろうか)

と自分にできることというよりもしてやってよいことを探り始めた。

結局答えの出ないまま、バンが辺境に戻ったという報せを聞く。

報せを持ってきた執事が、

「秋祭りにはぜひいらしてほしいとのことでした」

というので、私はまた、

「必ず行こう」

と返事をし、その執事を見送った。

その後、アイスクリームやかき氷を作り王家の一同を驚愕させるという事件を挟んで、秋を迎える。

私はさっそく王に、

「西の辺境伯から秋祭りの誘いを受けている。是非行ってみたいと思っているがいいだろうか?」

と願い出た。

「ええ。それはぜひ。ついでにローズも連れていてやってください。西の辺境伯が抱えている軍と交流を図るいい機会です。こちらの騎士も同行させますから、合同訓練でも実施いたしましょう」

「ほう。それはいい。ローズ嬢には広い世界を見て、たくさんのことを学んでほしいと思っていたところだからな」

「私もです。それにそろそろ城から出してやらないとお転婆の鬱憤が爆発してしまうかもしれませんからね」

「はっはっは。そうだな。ローズ嬢にはいい気分転換になるだろう」

「くれぐれもよろしくお願いいたします」

「任せておいてくれ」

というような話ですんなり西の辺境行きが決まる。

さっそくそのことをローズに伝えると、ローズはまるで子供のように目を輝かせ、

「西の辺境には最近どんな魔獣が出ているのかしら? さっそく下調べしておきませんと」

と言い資料室へと向かっていった。

やがて時が過ぎ、西の辺境へと出発する日がくる。

いつもの豪奢だが実用的な鎧に身を包んだローズが随行の騎士一同に挨拶をする。

ローズの挨拶はなかなか堂に入ったもので、

「我ら王軍の実力をいかんなく発揮し、実のある交流につなげましょう!」

と締めてみんなの士気を高めていた。

やる気に満ちた一行が王都の門をくぐる。

私はこれから始まる旅を楽しみに思う一方で、

(さて。どの程度まで手を出すべきか……)

と例の迷いを心の中で繰り返した。


三日ほど進み、とある伯爵家で休息を取らせてもらう。

晩餐に招かれそこでローズ嬢と伯爵が話しているのを聞いたが、伯爵はまるで苦虫をかみつぶしたような顔で、

「西の辺境伯ですか。あれは何を考えているのかわからない男です。自分の都合のいいようにことを運ぼうと画策しているふしがあります。どうか、王女殿下もお気をつけください」

と言っていたから、きっと彼は対立する派閥に属しているのだろう。

ローズ嬢はその話をうわべは笑顔を見せて聞いていたが、後で、

「なんですの? あの言いよう。人を悪くいうのは構いませんが、陰口は慎むべきです。文句があるなら本人に堂々と言えばいいものを!」

と怒っていたから、私は、

(そう怒るな。そういう輩を上手くあしらってこその為政者だぞ?)

と心の中で軽くいさめるようなことを思いつつ、苦笑いを浮かべていた。


翌日からは少し厳しい道になる。

辺境と言うだけあって、何度か野営を挟まなければならない箇所があった。

それでも一応予定通り行程をこなし、西の辺境伯の屋敷に到着する。

パッと見た目の印象はやはり質素な豪邸といった感じで、いかにも質実剛健という家風が表れているように思えた。

王女の来訪とあってちゃんとした服装で出迎えるバンに、

「久しいな。約束通り来たぞ」

と挨拶をすると、バンもいかにも貴族的な笑みを浮かべ、

「またお話できるのを楽しみにしておりました」

と答えてくれた。

(さて。この若者の悩みにどれだけ答えられるだろうか?)

と思いつつ屋敷に入る。

私はその重厚な作りの屋敷になんとなく首相公邸の雰囲気を感じ、どこか懐かしい気持ちになった。


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