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前世は総理でしたが、今世は王家の犬(フェンリル)として働いております。  作者: タツダノキイチ


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23/28

総理、ダンスに苦労する

晩餐会の翌日。

舞踏会の日がやってくる。

私はいるだけでいいと言われていたが、内心では、

(ふっ。踊りなら任せておけというものだ。若いころはそれでかなり鳴らしたほうだからな)

とけっこうな余裕を持っていた。

昼間、ローズ嬢とノルディアスが、

「……あれって、どうにかならないのかしら?」

「しかたないさ。あれも貴族のたしなみのひとつだからね。やっぱり苦手かい?」

「ええ。だって、どうでもいいお世辞ばかり言われるんですもの。……まぁ、でも、体を動かしていればいい分、お茶会や晩餐会よりいいわ」

「ははは。そうだね。今日を乗り越えればあとは下りの道だから、がんばって乗り切ろう」

と話していたのを思い出しつつ、

(ほう。ノルディアスの方はそれなりに得意というわけか。でローズ嬢はお世辞が苦手。となるとダンスの腕前はそれなりなのだろうな。まぁ、ひとつここは実力を見せてもうおうか)

という気持ちで会場に向かう。

会場となるホールのような場所にはそれぞれ着飾った男女がおり、なんともにぎやかな雰囲気で談笑している姿が見られた。

どうやらここに集まっているのは若者が中心らしい。

それを見て、

(なるほど。出会いの場も兼ねているといったところか?)

と想像した。

王女と王太子の入場に拍手が巻き起こる。

そして、ノルディアスとローズ嬢はまずホールの中央に立つと、ゆったりとした曲に合わせ、華麗に踊り始めた。

(ほう。やるではないか。うむ。あれなら心配ないどころか、放っておいても大丈夫だろう)

と思い安心する。

そして、それに続いてどうやら高位貴族と思われる人たちがどんどん踊りに参加し始め、会場全体が華麗な踊りで埋め尽くされていった。

(こうしてみると壮観だな)

と思いつつも壁際でじっとしている面々を見る。

どうやら、下位貴族は踊りの輪に入っていくのが難しそうだ。

私はちょっとしたいたずら心と親切心を足して二で割ったような心持ちで、そちらの方に歩み寄ると、北部代表として挨拶をしてくれた、令嬢の前に立った。

「お嬢さん、踊りませんかな?」

気さくに声を掛け手を差し出す。

声を掛けられた令嬢はかなり驚いた顔をしていたが、私がにこやかにしているのを見て、なんとなく、手を取ってくれた。

「あの、踊りはその、なんとも無作法でして……」

と縮こまる令嬢に、

「任せておけ。これでも踊りは慣れたものだからな」

と言ってウィンクまでして見せる。

そして、会場の隅に出ると、そこで注目が集まってくるのを感じた。

(ふっ。見て驚くなよ)

という気持ちで一歩を踏み出すが、すぐに、

「きゃっ」

という小さな悲鳴が聞こえてくる。

「ん?」

と思って足元を見ると、私は思いっきり令嬢の足を踏んでしまっていた。

「あ、いや。失礼。自分の体格をよく理解していなかった」

と咄嗟に弁解し、また踊り始める。

しかし、令嬢の体が軽すぎるのか、はたまた私の力が強すぎるのか、私が令嬢を振り回すような形になってしまった。

(これはまずい)

と思ってなんとかしようとするが、こけそうになる令嬢をうっかり抱きとめてしまったり、挙句に尻尾で軽く叩いてしまったりと、どうにもうまくいかない。

私はそこで初めて、

(人間の体で覚えたことを犬の体で再現できるわけないということか)

と気付き、素直に令嬢に対して頭を下げた。

「すまん。もう少し上手くできると思っていたのだが……」

とシュンとする私に令嬢は優しく、

「フェンリル様と踊れたことは末代までの語り草といたしましょう」

と言ってくれる。

私はそれがなんとも情けなく、さらにシュンとしてしまった。

どうしていいかわからない様子で令嬢が慰めの言葉を掛けてくる。

するとそこへローズ嬢が助け舟を出しにやってきてくれた。

「ソーリ様のお力には身体強化を使わないとついていけないでしょう。普通の人が苦労するのは当たり前ですわ」

と即席で嘘をついてくれるローズに感謝しつつ、

「そうだな。力を絞るのが想像以上に難しかった。許してくれよ」

と乗っかって令嬢に改めて謝罪する。

令嬢は、

「まぁ、そういうことだったのですね」

となんとか理解してくれたようで、ほっとして一礼するとまた壁際に去っていってしまった。

「淑女に恥をかかせるなんて、なにをやっているんですの?」

「いや。もうちょっとできると思ったんだが……」

そんなやり取りでまたシュンとしていると、ローズ嬢が少しため息交じりに手を差し出してくる。

「私と踊りましょう。ちょうど口説き文句に飽き飽きしていたところですから」

その言葉に、私は、

(気をつかわれてしまったな)

と思いまた情けないような気持ちになりつつ、苦笑いでその申し出を受けることにした。

ホールの中央に向かいそこで手を取り合う。

その瞬間ローズ嬢からなんらかの魔力らしい波動を感じた。

「?」と思っている私に、

「軽く身体強化を使いましてよ」

とローズ嬢が説明してくる。

(なるほど。それなら多少力を入れてもかまわんということだな)

と思って、ニコリと微笑むと私も多少体に力を行き渡らせ、ダンスが始まった。

しかしここでまた予想外のことが起こる。

二人とも身体強化を使ったものだから、互いの動きが早すぎて読めなくなってしまったのだ。

「息を合わせてくださいまし!」

「おう。しかし……」

と苦労しながら高速でステップを踏み続けるが、どうにもうまくいかない。

挙句の果てには私の尻尾をローズ嬢が踏み、転びかけたところを救おうとしてローズ嬢を抱えたまま空中で一回転してしまうという、軽業師もびっくりの状況になってしまった。

一応最後のキメポーズらしき形で止まった踊りに、周りからぱらぱらと拍手が送られてくる。

みんなぽかんとしていたり、苦笑いをしていたりするから、きっと失敗してしまったに違いない。

そう思いローズ嬢と見つめ合いながら、私たちは、

「ダンスは楽しく優雅に踊るのが一番ですわね」

「ああ。下手は下手なりにゆっくり踊りを楽しむとしよう」

と言い合うと、なんとも言えない微妙な笑顔を浮かべ、いったん壁際に向かった。

そこで飲み物をもらいひと息吐く。

どうやらあの踊りを見せてしまったせいで場が少し白けてしまったようだ。

みんな踊りをやめ思い思いに休憩をしている。

私はどうしたものかと思い手近にいた令嬢に声を掛けた。

「君は踊らないのか?」

「え、あ、はい。踊りはあまり……」

「得意ではないと?」

「はい。村祭りではよく踊るんですが……」

「ほう。村祭りか。どんな踊りを?」

「みんなで輪を作って足をこうやって動かす簡単な踊りなんですよ」

そう言ってその令嬢は軽く足を動かし見本を見せてくれる。

私はなんとなくそれを真似しながら、足をちょこちょこ動かしてみた。

「そうです。お上手ですわ」

そう褒められて少し調子に乗り、さらに足を動かす。

すると、横にいた男性が足を動かしつつ、

「男性はこのようにするんです。男女が交互に輪を作って足を動かすんですよ」

と男性の方の作法を教えてくれた。

「こうか?」

見様見真似で足を動かす。

そうこうしているうちに、周りにいた北部の子女らが集まって楽しく足を動かし始めた。

自然と輪になって踊り出す。

その様子は盆踊りや世界各地に残る伝統舞踊を連想させるもので、私はとても素朴でいいものだと思った。

そこにふと曲が鳴り始める。

「まぁ。北部の方がいらっしゃるのかしら?」

と誰かが言ったからおそらく北部の曲がかかったのだろう。

みんなが笑顔で輪を作り、楽しい輪舞が始まる。

そして最後は、

「ヤー!」

という可愛らしいと勇ましいを足して二で割ったような掛け声で踊りが終わった。

「パチパチパチ」と拍手が送られてくる。

「なんだか楽しそうな踊りですわね」

「北部の伝統なのかしら?」

「あれなら俺にもできそうだ」

「うふふ。とってもかわいい踊りでしたわね」

という声が聞こえるから特にひんしゅくを買ったというわけではないのだろうと思いつつ、

「いい踊りだった。楽しかったよ」

と言い、みんなと握手を交わす。

それを機に、またみんながダンスを再開して舞踏会は大いに盛り上がった。

更ける夜の空気を吸いにバルコニーに出る。

遠くに見える町灯りを見て、そこに息づく人たちの生活を想った。

華やかな世界があれば、泥臭い世界もある。

それが混然一体となってこの世界は形作られているのだということを改めて思い、

(それぞれが楽しければいいが……)

と少し世の中を憂えた。

ホールの中から漏れ聞こえてくる音楽はどこまでも明るく華やいでいる。

暗い夜空にその華やかな音が溶けていく様に、なんとも言えない無常を感じた。

ただ、

(明日もいい日になればよいな)

と思って月を見上げる。

金色に輝く満月があった。

月はただ悠然として美しく光っている。

私はその光があまねく広がり、この世界の全てを照らしてくれることを単純に願った。

音楽が止む。

どうやらそろそろお開きの時間のようだ。

私は「ふっ」と少しシニカルな笑みを浮かべつつ、ホールの中へと戻っていく。

そして、また世界が華やかな色に満ち溢れているのを見て、

(これはこれで大変な世界なんだよな)

と思いまたシニカルな笑みを浮かべた。


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