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前世は総理でしたが、今世は王家の犬(フェンリル)として働いております。  作者: タツダノキイチ


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20/28

総理、社交の場に立つ01

戦場から戻って来て十日。

王に呼ばれ久しぶりに昼食をともにする。

そこには王妃のエリザベス殿や王太子のノルディアスの姿もあった。

和やかに食事を進めながら、

「そろそろ社交の時期になります。ソーリ様にもいくつかの集まりに出ていただきたいのですが、かまいませんか?」

と打診されたので、快く受けた。

しかし、それを聞いていたローズ嬢があからさまに嫌そうな顔をする。

「どうした。社交界は苦手か?」

と少しからかうような感じで言うとローズ嬢は軽くため息を吐き、

「ええ。なんだか避けられているような気がいたしますから」

と言ってきた。

一瞬、

(いじめか?)

と思うが、すぐ、そんなことはないと否定する。

なにしろ一国の姫であるローズ嬢をはぶって得をすることなどない。

それどころか、権力者のもとには必ずすり寄ってくるものが現れるものだ。

それが避けられているというのはどういう状況なのだろう? と思っていると、そこに王が、

「ローズは年上の男性にはけっこう人気があるんですよ。でも、同年代にはなぜか距離を取られていますね。おそらく怖さ半分、憧れ半分といったところでしょう」

と苦笑いで状況を説明してくれた。

「なるほど。目立つ存在は自然と人の輪を作るものだが、ローズ嬢の場合は王女という地位が邪魔をしているということか」

「私はみなさんと仲良くなりたいのですけどね……」

「ははは。おそらくだが、貴族独特の常識に苦労しているといったところか? 世の令嬢とは考えが合わないと思っているのではないかな?」

「ええ。まったくその通りです。服や装飾品の話だけならまだしも誰それと誰それが仲がいいとか悪いとかそういう話は苦手中の苦手ですの」

「なるほど。それは苦労しているようだな。しかし、為政者にはそういう話が付き物だ。そこで清濁併せ吞むという度量が求められる。せっかくの機会なんだから、そういうのを学ぶ場としてしっかり生かすといい」

「……本当にソーリ様はおじい様みたいなことをおっしゃるのね」

「はっはっは。そうかもしれんな。応援しているから頑張ってみなさい」

と話して和やかに食事を終える。

そして、数日の時が過ぎ、いよいよ社交の季節が始まった。

まずはエリザベス王妃主催のお茶会に出席する。

なんでもこの国の慣例として大きな舞踏会や晩餐会の前には夫人が集まってお茶会を開くのが通例なのだそうだ。

きらびやかなドレスに身を包んだご婦人たちの集団の中で一人のんびりお茶を飲む。

(居心地は悪い。しかし、こういう時こそ堂々として愛想よくしておくものだ)

と自分に言い聞かせ、王国南部の主要都市を領有するという公爵夫人の話に耳を傾けた。

スコティエル公爵領のミレニエットと名乗ったその夫人が王妃にしきりに礼を言っている。

どうやらハンカチの贈り物をしたらしい。

ハンカチ程度かと思いきやそれがどうも友好の印らしく、王妃が手ずから刺繍をしたものを渡したのだとか。

「末代までの家宝にいたしますわ」

「いえ。あのようなものでよければ毎年お送りいたしますので、どうぞ普段からお使いくださいませ」

というやり取りがお定まりの文句らしい。

なんとも言えない女性同士の緊張感を見て、

(そうそう。こういう感じだと言っていたな)

と思い出す。

生涯独身だった私はしょうがなく党の女性議員に頼んでそういう場所に顔を出してもらっていたが、もし、私が結婚していたら嫁にこういう苦労をさせたのだろうと想像しながら話を聞いていると、不意に私に話が向けられた。

「カレーを考えてくださったのは神獣様だと伺いました。あれはうちの晩餐会でも出しましたが、評判がよく、すぐに城下に広まりましたのよ。残念ながらお米と一緒に食べるという正式なお作法は再現しようがありませんでしたが、そのうちいただいてみたいと思っておりますの」

「そうであったか。いや、カレーには米でなければならないという法はない。むしろパンでもなんでもすべてを美味しくしてしまうのがカレーの一番の魅力だ。それぞれの土地に合った食べ方で美味しく食べるのが一番だろう」

「さすがは神獣様です。お心が広くていらっしゃいますわね。いつかぜひとも我が領に足をお運びくださいませ」

「うむ。その機会があったらぜひそうさせていただこう。なにしろそちらには海がある。きっと魚も美味しいことだろうと想像しておるがいかがかな?」

「ええ。我が領の自慢の一つが美味しいお魚ですの。干物は王都にも運びますが、やはり魚は新鮮なものが一番ですから、ぜひ神獣様にも召し上がっていただきたいですわ」

「やはりそうか。して、ご当地では魚はどのようにして食べるのかな?」

「一般的香辛料と一緒に焼くか煮るかですわね。本当にいろんな種類のお料理があるんですのよ」

「なるほど。生食はしないのかな?」

「生ですか? いえ、寡聞にしてそのような食べ方は……」

「そうか。いや、新鮮な魚を生のまま薄く切って食べるというのもまた乙なものだ。それにはどうしても醤油とワサビの存在が欠かせないが、機会があれば一度試してみるといい」

「かしこまりました。神獣様のおっしゃられることであれば信じて試してみましょう」

「ははは。無理は禁物だ。だが、度胸試しだと思って一度食べてみるといい。いきなり生が難しければ酢で締めてもよいぞ。あれはあれで美味しいものだからな」

「なるほど。神獣様は博識でいらっしゃいますのね」

「そうでもないさ」

と話したのをきっかけに侯爵、伯爵といった高位貴族の夫人たちと言葉を交わし始める。

話はどれも儀礼的で堅苦しいものだったが、それでもなんとかその場を乗り切った。

やがて、広い部屋の隅で縮こまるようにしてお茶を飲んでいる一団の方に自ら歩み寄る。

どうやら下位の貴族たちらしい。

ドレスもどれも質素で地味だからきっと北部の貴族たちなのだろうと思っているとそのうちの一人が、

「し、神獣様におかれましては、北部の危機をお救いいただき、誠にありがとうございます。北部一同を代表してお礼を申し上げます」

と独りの中年女性が、緊張で顔を青ざめさせながらそんな言葉を掛けてきた。

「そうか。北部の方々であったか。あの地が守られて本当にほっとした。なにしろあの地は米の産地だからな」

と微笑みながら答える。

その言葉にその女性はほっとしたような表情を浮かべ、深々と頭を下げてきた。

それに連なるご婦人たちも一斉に頭を下げてくる。

どうやら、貴族的にはこの一言を言うのにも順序や時間などの決まりごとがあるようで、北部のご婦人たちはそれ以上口を開こうとしなかった。

それを見て、なんとなくいたたまれない気持ちになり、

「米もそうだが、醤油と味噌はいい産品になる。さらなる品質向上が図られればきっと販路も広がるだろう。なにしろ神獣様のお墨付きだからな」

と冗談を言って軽くウィンクをし、場を和ませる。

北部のご婦人たちはその言葉にほっとしたようで、代表者がまた、

「もったいなきお言葉にございます。北部の者一同、これからも力を合わせて頑張ってまいります」

と感激しながらそう話してくれたので私も少しだけほっとしてそのお茶会を無事に終えた。

翌日は、いよいよ晩餐会かと思っていたら、一日空くのでローズ嬢がお茶会を開くという。

なんでも、この一日が子女たちの交流の機会となっているらしく、ノルディアスもお茶会を開くということだった。

男性は王太子の元に、女性は王女の元に集まるのが、通例らしく、私はまた華やかな女性たちに囲まれることになる。

しかし、さすがは子女が集まる場ということで、先日のお茶会よりどこかきゃぴきゃぴとした雰囲気をしていると感じた。

その場で、ローズ嬢はまず筆頭侯爵家の次女であるという、エリシエル・フォン・デュプランという少女から挨拶を受ける。

どちらも見るからに緊張した様子で会話がぎこちない。

ローズ嬢はどこかツンケンしたような受け答えになっているし、エリシエル嬢はどこかおずおずとしたしゃべり方をしていた。

(ああ、なるほど。これが恐れているか憧れているかのどちらかという状況なのか。エリシエル嬢を見る限り、どうやら憧れの方が強いように思うのが、果たしてどうかな?)

と思いつつローズ嬢の横でゆっくりお茶を飲む。

しかし二人は、無難に今日着ている服を褒め合ったところで、会話が終えてしまった。

(こりゃいかん)

と思い軽く助け船を出す。

「エリシエル嬢と言ったか。ご趣味はなにかな? やはり淑女らしく刺繍などをするのだろうか? それともローズ嬢のように剣を嗜まれるのかな?」

と優しく声を掛けるとエリシエル嬢はどこかほっとしたような感じで、

「私は、本を読むのが好きで、物語を読んでおります。両親からは子供っぽいからと叱られるのですが、それが面白いものですから、つい……」

といかにも少女らしいかわいい趣味を披露してくれた。

「そうか。それはよいご趣味だ。ローズ嬢も本は好きだったな」

「あ、え、ええ。そうですわね。実用書しか読みませんが……」

「でも小さい頃は物語も読んでいたのでは?」

「そうですわね。小さい頃はよく冒険小説を読んでおりました」

とそこまで話を引き出したところで、エリシエル嬢に軽く目配せをする。

すると、エリシエル嬢は意を決したように、

「あの、よろしければ、どのような物語を読んでいたのかお教え願いますか?」

と自ら話を切り出してくれた。


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