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前世は総理でしたが、今世は王家の犬(フェンリル)として働いております。  作者: タツダノキイチ


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2/2

総理、犬になる(ただし、フェンリル)。02

空を駆けること一日。

おそらくもう少しで人里にたどり着くだろうというところで日が暮れ始める。

(別に疲れてはいないが、方向が読みづらいし、休むか)

と思いつつ適当な場所に降り立つと、私はとりあえず眠る場所を探し、その辺を適当に散策し始めた。

(夕暮れの森っていうのはどうにも不気味なもんだな)

と思いつつ、適当に開けた場所を探して歩く。

すると遠くに小さな灯りが見えた。

(人! 人なのか!)

嬉しくなって思わず走る。

しかし途中で、

(おっと、そう言えば俺でっかい犬だったな。このままではびっくりさせてしまうかもしれん。何事も最初が肝心だ。にこやかに挨拶を交わさねば)

と思い、すんでのところで立ち止まった。

そこへなにかが飛んでくる。

それは私の体に当たったように見えたが、痛みもかゆみも感じなかった。

「ん?」

と思っていると、またなにかが飛んでくる。

よくよく見てみると、どうやらそれは光る矢のようだった。

(え? なんだこれ?)

と思いゆっくりそれが飛んできた方に近寄っていくとそこには弓を構えた少女と盾を構えた少年、そして剣を握った少年がいた。

なんとも風変わりというか、まるで我が国お得意の漫画やアニメに出てきそうな格好に驚くが、私は努めて冷静に、まずは相手に威圧感を与えないよう、ゆっくり、

「こほん」

と咳払いをする。

しかし、その瞬間なぜか若者たちが尻餅をついてしまった。

見れば顔面が蒼白となっている。

腰も抜けているようだし、なにしろ汗がひどい。

私はつい心配になり、

「大丈夫か?」

と声を掛けた。

「ひぃっ!」

少女が悲鳴を上げる。

その姿を見て、私は、

(ああ、怖がられているのか)

と悟り、長年鍛えた外交スマイルのスキルを発動し、

「大丈夫だ。怖いおじさんじゃないぞ」

とゆっくり語り掛けた。

「ブンッ」と音がしてまた画面が現れる。

「生まれ持った威圧感の抑制に成功したよ!」

という一文を見て、

(なるほど。おそらくだが、人にとってかなり脅威となる存在だったんだろう。いや、神獣と言っていたからもしかして畏怖の対象と言った方がいいのか? とにかく、今のでその問題は解決したらしいな)

そう思って、再び、

「こんばんは。驚かせてすまないね。大丈夫、怖い存在じゃないぞ。ちょっと道を尋ねたかっただけなんだ」

とまるで視察に訪れ小学校で児童に話しかけるようなつもりで声を掛けた。

「あ、ああ、ば、ばけ……」

一番先に正気を取り戻したらしい盾を持った少年が、なにやら言葉を発しようとする。

私は、

(ん? もしかしてあのミノタウロスみたいな化け物だと思われているのか? それはいかん。ここはひとつ安心してもらおう。こういう時はまず相手の話をじっくり聞くものだ。でないと、相手が余計萎縮してしまうからな)

と思い、その場にゆっくり腰を下ろし、目線を下げて、

「うん。大丈夫だから、お話してみなさい」

と優しく声を掛けた。

その言葉に、盾を持った少年が汗をだらだら流しつつ、

「あの、えっと、もしかして、神獣様でしょうか?」

とまるで初めて報告書をもってきたペーペー官僚のような感じでおずおずと聞いてくる。

私はまたゆっくりと微笑みながら、

「ああ。フェンリルだ」

と正直に答えた。

それを聞いた若者たちが、驚きに満ちた表情を浮かべ、なにやら慌ただしく頭を下げ、両手を握って頭の上に掲げる姿勢を取る。

どうやら祈りの格好をしているようだ。

私は内心、

(まいったな。ある程度の威厳は必要だが、それが威圧になれば支持率が下がってしまう。ここはある程度の威厳を保ちつつ、なるべくフレンドリーにいかねば)

と考え、

「よいよい。そう緊張するな。私は見ての通り、善良なフェンリルだ。人に仇なすつもりはないから、安心して顔を上げてくれ」

と言い恐る恐る顔を上げた三人に向かって軽くウィンクをしてみせた。

(これ、女性とか子供の層にけっこうきくんだよな)

と思っていると、どこかほっとした様子で先ほど口をきいてくれた盾の少年が、

「偉大なるフェンリル様とはつゆ知らず、大変失礼いたしました。どうぞ、ひらにご容赦ください」

と言いまた頭を下げる。

(このままじゃ話がなかなか進まんだろうな)

と思った私は、

「気にするでない。それより私は人間の生活に興味があってな。こうして出会ったのもなにかの縁だ。ひとつ話を聞かせてくれ。とりあえず、そうだな。自己紹介をしよう」

と言ったが、そこで、

(あ、俺、名前なんだっけ? えっと本名名乗る?)

と思い、少し詰まってしまった。

そこへ盾の少年が、すっくと立ちあがり、敬礼のようなかっこうで、

「王立騎士団、第二部隊、三等歩兵、ノッツと申します!」

と勢いよく名を名乗る。

すると他の二人も続き、

「同じく王立騎士団、第二部隊、三等弓士のカンナです!」

「王立騎士団、第二部隊、三等剣士、リックっす!」

とややたどたどしい軍隊式に自己紹介をしてくれた。

(なるほど。王立ということはここはどこかの王国で、騎士団があるということだが、剣、弓、盾という装備を見ると軍事力という軍事力は保持していないのだろう。おそらく中世レベルか? とにかく、なんらかの権威が存在し、人が統治されている程度の文明社会であることはわかったな。よし、これならなんとかなるぞ)

と瞬時に情報を分析しつつ、

(さて、あちらが自己紹介したんだから、こっちもだよな……)

と考え、とりあえず、

「あー、そうだな。私のことはとりあえず総理と呼んでくれ。それが一番しっくりくるからな」

と苦笑いで自己紹介する。

すると三人は、バッと敬礼の姿勢をさらに正し、

「「「はっ! かしこまりました、ソーリ様!」」」

と言った。

(あ、いや、ソーリって名前じゃないんだが……)

と思いつつも、

(ああ、いや。考えてみればみんなの名前に響きが似てるし、これはこれでいいかもしれん)

と思い直し、

「ああ。ソーリだ。よろしくな」

と告げる。

そして、まだかしこまっている三人に向かい、

「楽にして構わんぞ」

とまた優しく声を掛けた。

「ところで三人はどうしてこんなところに? 軍、じゃなかった騎士団の訓練かなにかか?」

「あ。いえ。周辺警護の仕事中です」

「おお。そうだったのか。仕事中に声を掛けてすまんかったな。で、その周辺警護とは?」

「はい。現在この近くにある辺境の開拓村を王と第三王女様が訪問なさっておりますので、魔獣を警戒しておりました」

「なるほど。偉い人の公式訪問があるから、周辺の治安維持業務に当たっているというわけだな。王や第三王女とはどんな人物なのかな?」

「えっと、私たちは直接お会いしたことがないのですが、王は立派なお方だと伺っております」

「第三王女については?」

「えっと、その……」

「言いづらいか?」

「え? ああ、いえその、なんというか……」

「ん?」

「あ、はい。その、お転婆なところがあるというふうに聞いております」

「はっはっは! そうか、そうか。お転婆姫か。それは是非会ってみたいな。して、魔獣というのは、例えばミノタウロスとかそういうやつのことか?」

「え? あ、はい。ミノタウロスは国家災害級のやつですから、滅多なことでは出てきませんが、この辺りはゴブリンとかオークが出る可能性があるので、哨戒任務にあたっていたところです」

「なるほど。そうか。ミノタウロスは国家災害級なのか。で、ここから人里までは近いのかな?」

「はい。歩いて一日ほどかと思われます」

「そうか。では明日行ってみることにしよう。ああ、そうだ。できれば案内と紹介を頼みたいんだが、いいだろうか?」

「はっ! 問題ございません! 謹んで拝命いたします!」

という会話でリックからある程度の情報を引き出す。

(王がいるというのは手っ取り早い。さて、どんな王が出てくることやら。外交は最初のはったりが重要だ。舐められればあとがまずい。ここは気合を入れていかねばな)

と思い、少し気を引き締める。

すると、カンナが、

「ひぃっ!」

とまた悲鳴を上げた。

(何事だ!?)

と思い、

(状況を報告しろ!)

と念じる。

すると、

「ブンッ」

と音がして、

「軽い威圧に成功したよ!」

と出てきた。

「ああ、すまん、すまん。どうもこの威圧っていうのを抑えるのが難しくてな。なんらかが漏れてしまったようだ。怒っていないから安心してくれ」

と言ってまた外交スマイルを浮かべると、カンナはほっとした様子で、

「ありがとうございます」

と頭を下げる。

私はそれにほっとしつつも、

(無駄な威圧は反発のもとだ。舐められてもいけないが怖がらせてもいけない。明日は慎重に行こう)

と思い直し、軽く深呼吸をして気持ちを落ち着けた。


やがてやってきた夜。

なにか固形のバーケーキのようなものを食べ、三人が食事をすませる。

私も食べるかと聞かれたが、一応遠慮しておいた。

軽く目を閉じ、ゆっくりと寝た翌朝。

いよいよ人里に向け出発する。

私はまるで政治家として初めての演説に臨んだ時のように緊張しながらも、どこか遠足に行くような楽しさも同時に感じ、ドキドキワクワクといった感じで、ゆっくりと歩く三人についていった。


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