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前世は総理でしたが、今世は王家の犬(フェンリル)として働いております。  作者: タツダノキイチ


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総理、夜を駆ける02

調理開始から二十分ほど。

少し濁りはあるが、十分に美味そうなスープに適当に刻んだ野菜と腸詰が入ったりっぱなポトフができあがる。

(フランス大使館に招かれて食ったポトフほど美味しくはなかろうが、野営にしては十分だ。こいつぁいいぞ)

と思い、ゆっくりスープを口に含むと、驚くほど豊かなうま味が広がった。

(これ! これだよ! うま味の爆弾。今、俺の口の中、いろんなうま味で大洪水。ここにこんがり焼いたバゲットがあればそれで十分だ)

と思いながら鞄からバゲットを取り出し適当にスライスして魔法で軽く炙る。

(これで気分はおフランス)

とバカな感想をいいつつ食べるなんちゃってポトフは、なんだかんだで孤独な私の心とお腹をふっくらぽかぽかにしてくれた。

ゆっくり眠り、朝日に照らされ目を覚ます。

なんとも爽快な気分で泉の水を飲み、少し喉を潤すと私はまた森の奥を目指して進んでいった。

適当なところで、また魔力を使って探知するという作業に取り掛かる。

今度は索敵範囲を広げて半径二キロにしてみた。

前回よりも少し魔力の消費が多いか? という感覚を持ったので、

(あまり広範囲に設定すると、かなり消耗しそうだな)

という実感を得る。

そしてまた適当に走り回っては探知を繰り返すということをしていると、少し離れたところにわずかな気配を感じた。

さっそく向かってみる。

するとそこは急峻な山の斜面で、なにやら中腹に穴が開いているのが見えた。

(洞窟か)

と思いさっそく行ってみる。

そして軽く気合を入れ魔力を放出してみると、中から、

「ギャオォ!」

という声が聞こえてきた。

「えっと、照明弾みたいな魔法はあるか?」

という問いに画面が、

「もちろんですぜ、旦那!」

とふざけた答えを返してくるのに構わず照明弾の魔法を撃ち込む。

すると、しばらくして中から大きなコウモリというか翼竜のような怪物が飛び出してきた。

「うおっ!」

と思わず声を出して避ける。

その魔獣はあっという間に飛び去り上空高く舞い上がってしまった。

(あちゃぁ、逃げられたか)

と思い、仕方なく諦めることにする。

しかし、そんな私の思いとは裏腹にその魔獣は私めがけてものすごい速度で突っ込んできた。

「マジか!」

と思わず若者っぽい言葉を発し、防御壁をイメージした魔法を即席で展開する。

すると私の目の前でその化け物は見えない壁にぶつかって、力無くくずおれてしまった。

「えっと、こいつは?」

という問いに、

「ワイバーンっす。兄さん」

というふざけた返事が返ってくる。

私はいい加減慣れてきたその返答に軽くため息を吐いたものの、ツッコミを入れることなく、

「なるほど。これが高いのか」

と思ってその翼竜の化け物を見下ろした。

(たしか、皮膜と魔石だったな。……どうやって分別したものか)

と思っていると、

「全部まとめて鞄に入れちゃいなよ!」

という画面が出てくる。

私は、「なるほど」と思う反面、どうやったって鞄の口に入りそうにないワイバーンの巨体を見た。

「念じれば入りまっせ、旦那」

と言われちょっとカチンときながらも、

「入れ」

と念じる。

するとそこにあったはずのワイバーンの巨体がパッと消えてなくなった。

(便利なもんだ)

と思いつつも、

(こりゃ、私以外に使わせてはいかんな)

と思って、

「この鞄、私専用なんだろうな?」

と聞く。

「そういうことにもできやすぜ」

という返答が画面に表示された。

すぐさま、

「そういうことにしろ」

と命じる。

すると鞄がふんわりと青白く光り、じっとみつめてみると、

「魔法鞄・ソーリ専用」

という文字が出てきた。

少し安心して帰路に就く。

そして何日か掛けてゆっくり森を散歩しながら帰っていくと、ちょうどローズ嬢たちが村についたところだった。

さっそく状況を報告する。

その報告を聞いたローズ嬢はしばらくなにか考えるような素振りをしたが、すぐ、側にいた隊長級らしき人物たちに指示をだすと、

「明日から進軍します」

と明言した。

(決断が早いのはいいことだ。しかし、焦って仕損じるなよ)

と老婆心的なことを思い、その日はゆっくり休ませてもらう。

そして翌日。

私は騎士団に混じって森の中へ入っていった。

ゆっくり進む騎士団の一行が最初の目標であるゴブリンの集団のもとに到着する。

私は後方に控えて戦況を見守ることにした。

(さてローズ嬢はどんな指揮をとるのだろうか?)

と初めて目にする人間の戦いに興味津々でいると、あろうことかローズ嬢は先頭をきって群れに突っ込んでいった。

(いや、それでは……)

と思うが、ローズ嬢の剣が美しい弧を描く度、ゴブリンの首が飛んでいく。

そして、ある程度密集されたところには青白い炎の矢を雨のように降らせ、一撃で敵を殲滅していった。

騎士たちが、

「うおぉぉっ!」

という歓声を上げる。

私はそこで初めて、ローズ嬢の英雄性というものに気が付いた。

(なるほど。そういう指揮の取り方というか士気の上げ方もあるのか。しかし、それはあまりにも危うい。戦場の英雄になりたいのならいいが、為政者のやることではないだろう)

と思い少し複雑な気持ちを抱える。

それでもローズ嬢は戦場の真ん中でキラキラと輝き、まるで我が国お得意の漫画やアニメに出てくる勇者のように巧みに剣を振るローズ嬢を見て、私は、

(若いというのはいいものだ)

と少し眩いものを見るような感じで目を細めた。

やがて戦闘が終わり、ローズ嬢がこちらに戻ってくる。

「いかがでして?」

とややドヤ顔のローズ嬢に、

「ああ。よかったよ」

と言いつつも、苦笑いで、

「英雄の役割と指揮官のそれは違うものだということは認識しておいた方がいい」

とほんのちょっとの苦言を呈する。

そんな言葉にローズ嬢は一瞬きょとんとしたが、すぐに苦笑いを浮かべ、

「近衛騎士団団長のカーニエルと同じことを言いますのね」

と言ってきた。

「なるほど。同じ考えの持ち主もいたか。そういう進言は積極的に聞くべきだろうな。いい部下を持っているじゃないか」

と告げる。

するとローズ嬢はクスッと笑い、

「やっぱりソーリ様はおじい様のようですわ」

と言った。

そのあどけない顔になんとなくこちらもつられて笑うが、同時に、

(この子はしっかり見ておかないと危ない)

という思いも湧いてくる。

私はひそかにそんなことを思いながら、屈託なく笑うローズ嬢を見つめた。

やがて転戦が始まる。

ローズ嬢は相変わらずいきいきとして前線で剣を振り、兵士の士気を高め続けていた。

ローズ嬢の剣には迷いがない。

まるで自分に斬れないものはないと思っているようだった。

たしかにその斬撃に込められた魔力は高く、他の兵士を圧倒している。

それに身体強化を使って身長三メートルはあろうかというオークの頭を飛び越したりもするのだから、人間としてはすでに規格外の力を持っているということが言えそうだ。

それでも、私は、

(この先、さらなる困難に直面したとき、この子はどう対処するつもりなのだろうか? 早くあまり高くない壁に突き当たってくれればいいが……)

と思いつつ、ローズ嬢の戦いを静かに見守った。

長い戦いが終わる。

二十日以上かかった戦闘が終わる頃にはみんなもうへとへとになっているようだった。

「あと少しよ! みんな頑張りましょう!」

とローズ嬢が声を掛けるが、なんとなく反応が鈍い。

私はそこでふと例のブイヨンもどきのことを思い出した。

調理番のところに向かう。

調理番曰く、その日も適当に野菜と肉を煮込むだけの簡単な料理ということだったので、

「これを使えば料理が格段に美味しくなるぞ」

と言い調理番にブイヨンもどきを託した。

その日の夜、ちょっとしたざわめきが起こったことは言うまでもないだろう。

「美味いっ。なんだこれ?」

「おいおい。シェフでも連れてきたのか?」

「こりゃいい。おい、お代わりをくれ!」

という声を聞きひとり悦に入る。

ローズ嬢もみんなと同じものを食べ、

「なんですの、これ!?」

と驚きの声を上げていた。

そこで、ローズ嬢に種明かしをする。

するとローズ嬢は困ったような顔で笑い、

「兵站に革命が起きますわね」

と言った。

ゆっくりと更けていく夜空に満天の星が浮かんでいる。

それを見て私は素直に美しいと思った。

この世界は厳しい。

だからこそ、純朴に生きている人たちの生が輝いてみえるのだろう。

夜空が暗ければ暗いほど星は輝いて見えるというなんともいえない皮肉な言葉を思い出した。

美味しそうにスープを食べるローズ嬢の笑顔を見る。

私は単純に、その笑顔を守ってやりたいと思った。

微笑ましい気持ちでゆっくりとした気持ちでローズ嬢の隣に寝そべる。

そんな私をローズ嬢が撫で、

「ふわふわで気持ちいいですわ」

と笑顔を見せた。

夜空に微笑みが溶けていく。

私は静かに目を閉じ、この世界に幸あれ、と願った。


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