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前世は総理でしたが、今世は王家の犬(フェンリル)として働いております。  作者: タツダノキイチ


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総理、夜遊びをする02

人でにぎわう昼時の商店街を歩く。

やはり私は注目の的になったが、にこやかに手を振りながら歩いていると、小さな子達が手を振り返してくれたりした。

(いつの時代もの子供は無邪気なものよ)

と微笑ましく思い、ふと道の脇の露店に目を止める。

そこでは美味しそうな串焼きが焼かれ、一本小銀貨二枚と書かれていた。

「一本もらおうか、小金貨しかないんだが、お釣りは大丈夫か?」

「へ、へい! えっと、ありやす! 大銀貨四枚と、小銀貨九枚っすね」

と言われ、

(小金貨一枚が大銀貨五枚。大銀貨一枚が小銀貨十枚ということか。串焼き一本の値段なら百円から三百円の間という感じだろうから、なんとなく計算できるな)

と理解する。

そしてさっそく渡された串を器用に受け取り、

「ありがとう。いただくよ」

と言ってその場でひと口に食べた。

カリッと焼けて香ばしい肉になにやら甘いタレがかかっている。

肉質はお世辞にもいいとは言えなかったが、そのやや筋張った肉の食感がいかにも肉にかじりついているという感じがして、それはそれで美味しいものだと思った。

「うん。美味いな。これからも頑張って商売に励んでくれ」

と笑顔で告げ、次の店を物色する。

その後もいろんな店を回り、果物やパンに腸詰を挟んだだけのホットドッグに近いものを食べたりして商店街を満喫させてもらった。

やがて、小さな広場があったので、そこで一休みする。

そろそろ夕暮れ時かという感じの時間だったので、各所からは夕飯の支度をしているのであろういい匂いが漂ってきていた。

そこに小さな子供がトテトテと歩いてくる。

どうやら一人のようだ。

「わんわ!」

とまだ拙い言葉を話しているから、きっと三、四歳だろう。

「ははは。おっきなわんわんだぞ」

と言って笑顔を見せてやると、その子はきゃっきゃと笑う。

その様子に安心はしたが、しかし、親の姿が見えない。

私は、

(もしかして、私が珍しいものだから親の目を離れて見に来てしまったんだろうか?)

と察し周りの様子を見た。

道行く人はどこか忙しなく、いかにも夕方の慌ただしさを醸し出している。

「こりゃいかんな」

と思い、その子を器用に抱きかかえると、なんとか二本足でとことこと進み、

「この子の親はおらんか?」

と少しだけ大きな声でそう呼びかけた。

私の腕の中で子供がちょっとぐずる。

私は、

「あー、よしよし。ちょっと大きな声でびっくりさせたな。ごめん、ごめん」

とあやしながら、再び、

「迷子の子供がおるぞー」

となるべく優しい声でそう呼びかけた。

ほどなくして泣きそうな顔の母親らしき人物が名乗り出てくる。

「ありがとうございます。フェンリル様」

と跪くようにして礼を言う母親に、

「いや。なにごともなくてよかった。これからも親子仲良くな」

と声を掛けると、子供がニパッと笑い、また、

「わんわ!」

と言って楽しそうに私に手を振ってきた。

私も手を振り返し笑顔で別れる。

そして私は夕暮れで混雑する商店街を縫うように歩き、冒険者ギルドへと向かっていた。

雑踏を抜け、冒険者ギルドにつくと、入り口からひょいと中を覗く。

するとすでに幾人かの冒険者らしき者たちがジョッキを持って楽しそうに話しているのが見えた。

(うむ。いい感じだな)

と思いつつ、中に入る。

驚いたような店員が、それでも、ニコッと笑って、

「いらっしゃいませ!」

と言ってくれたので、こちらもニコッと笑い、

「ビールはあるか?」

と聞いた。

「はい。少々お待ちください。えっと、席は……」

「その辺の隅でいいぞ。適当に座るからな」

と答え、適当なテーブルの脇に座る。

やがてやってきた木製のジョッキになみなみと注がれたビールを見て、

(そうそう。これこれ)

と思いつつ、一気にごくりと飲み干した。

「ぷっはぁ……」

と思わず息を漏らす。

(久しぶりだと美味いな。しかし温いのはいただけない)

そんなことを思い、

「すまん。もう一杯くれ!」

と勢いよくジョッキを掲げて見せる。

その様子を見ていた、周りの連中が、

「すげぇ、本当にしゃべってる。ていうか、ビール飲んでるよ」

「思ったよりいい人、犬? なのかもね」

「ああ。しかし、オークロードの魔石を持ってきたってきいたぜ?」

「マジで? ならかなり強いってことじゃん」

と話しているのを聞き、そちらに向かってニッコリと微笑んでみせる。

すると話していた連中の一人が、なんとなく笑い、

「ちーっす」

と言って軽くジョッキを上げてくれた。

「はっはっは」

と笑って手を上げてやる。

するとその他の連中も安心したのか、

「ちーっす」

と言ってジョッキを掲げて見せた。

そこにおかわりのビールがやってきたので、こちらも、

「乾杯」

と小さく言ってジョッキを掲げて見せる。

それで一気に安心感が広がったのか、ひとりの少女が、

「あの。フェンリル様ってすっごく強いって噂本当ですか?」

と話しかけてきた。

「ああ。おそらく強いぞ。ミノタウロスくらいならなんとでもなる」

「マジっすか!?」

「ああ。一度対戦したことがあるからな」

「どんな感じだったんですか?」

「うーん。適当に相手をしたらなぜか勝ってしまった感じだな」

「すっげー……。最強っすね!」

「ははは。そうかもしれんな」

「で、今はお城の兵隊さんなんですか?」

「いや。違うな。城にはいるが軍事にはかかわっておらん」

「っていうと?」

「まぁ、いってみれば気楽なペット生活だな」

「え? それマジっすか?」

「ああ。マジだ」

「王家すげぇ」

「ははは。考えようによってはそうかもしれんな。まぁ、いい友達みたいなもんだ」

そんな話で盛り上がる。

すると徐々に私の周りに人が集まってきて、いつのまにかけっこうな酒盛りになった。

なんだか楽しくなってきた私は、

「ちょうどいい。オークロードの魔石を売って想像以上にお金をもらってしまったものだからどうしようか迷っていたんだ。ここに金貨が十枚ある。これで好きなだけ飲んでくれ!」

と言ってテーブルに金貨をどんと置く。

すると周りから大歓声があがり、そこからはなぜか人が増え、大宴会になってしまった。

きっと氷魔法でビールを樽ごと冷やしてやったのがウケたのだろう。

ものすごい勢いでビールが消費されていく。

私も久しぶりにキリッとしたのど越しの酒を飲み、いい感じに楽しくなっていった。

みんなが歌い、誰かが踊る。

その場はやんややんやの大騒ぎになり、気が付けば夜はとっぷり暮れていた。

やがてみんなが酔いつぶれたところで、店員に礼を言い酒場を後にする。

私は浮かれ気分で、ぽんと飛び上がると、王都の夜空を軽く駆けた。

白い月の光に照らされた美しい街並みを見て、あらためてここが異世界であることを思う。

(しかし、人の営みというのは世界を越えても変わらんものだな)

と思うとなんだか嬉しくなった。

調子に乗って、王都の空を駆けまわり、夜の散歩を楽しむ。

遠くに見える王城が煌めく星を背景に輝いているのを見てそれは素直に美しいものだと感じたが、それ以上に月明かりに照らされた小さな家々からこぼれる窓の明かりの織りなす地上の星たちの方がもっと美しいとも感じた。

町の中心にある時計塔の上で、軽く、

「わおーん」

と吠える。

やはりそこは犬の習性というものが影響しているのだろう。

そう吠えると、妙に体がすっきりするような気がした。

キラキラと輝く魔力の光が波紋のように広がっていく。

「この町に幸あれ」

と願ったからきっと悪いことは起こっていないはずだと思いつつ、しばし町を眺める。

そして、美しい夜が美しいままそこにあるのをみて、私はまた夜空を蹴り、王城へと帰っていった。


翌日。

午後のお茶の時間。

「聖魔法を使われたそうですわね」

とローズ嬢から言われ、

(なんのことやら?)

と思う。

きょとんとした顔をしている私にローズ嬢はふと微笑むと、

「町が少し綺麗になったようで助かりましたわ」

と言い、なんだか困ったような、しかして、嬉しそうな顔を見せてきた。

「ははは。問題無かったならよかった。少々飲み過ぎてご機嫌になってしまってなぁ」

と返すと、

「これからは、ほどほどになさってくださいましね」

と軽く注意を受ける。

私はちょっとしたバツの悪さを感じつつ、

「ああ。しかし、このくらいのお茶目は多めに見てくれ」

と答え、軽くウィンクを返した。

「うふふ。困った方ですわ」

と言いつつもローズ嬢がどこか楽しげに微笑む。

私はその笑顔を見て、

(君にも幸あれ)

と思いつつ、ゆっくりとお茶を飲んだ。

ゆるやかな初夏の風がふんわりとカーテンを揺らす。

そのたおやかさに心癒されながら、私は今日ものんびりした午後の陽だまりに寝転んだ。


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