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前世は総理でしたが、今世は王家の犬(フェンリル)として働いております。  作者: タツダノキイチ


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総理、北方視察(遠足)に向かう01

テリマヨピザに続き、ツナマヨおにぎりを完成させ、かなり充実した日々を送る。

私は台所という居場所ができたのを皮切りに、図書館や王族の衣装を管理する被服部、騎士団の訓練所など、様々な場所に顔を出すようになった。

そのおかげか、王宮内で私を怖がるものはほとんどいなくなり、今では、

「ソーリ様。おはようございます。今日はどちらにお出かけですか?」

「うむ。庭で日向ぼっこをしようかと思っておるぞ」

「あら。じゃあ後でお菓子を差し入れますね」

「おお。すまんのう」

というような自然な会話をすれ違った顔見知りのメイドと交わすまでになっていた。

その日は日がな一日庭で花を愛でながらのんびりとして過ごす。

私の横ではアンナとセリナが楽しそうに編み物をしていた。

「なにを編んでいるんだ?」

「マフラーとカーディガンですね。冬に向けて何着か作っておきたいですから。みんなの分も編んであげるんですよ」

「なるほど、そういうのはみんな手作りするのがほとんどなのか?」

「ええ。ご家庭の主婦のみなさんはたいていそうですね。商家の奥さんたちは仕立て屋さんで買う事の方が多いそうですけど」

「なるほど。どちらにしろ手仕事なんだな」

「ええ。主婦のたしなみというやつですわ」

と呑気に話しながらゆっくりとお茶を飲む。

(思えばずいぶん打ち解けたものだ)

と思っていると、そこに珍しく王がやってきた。

「ごきげんよう。ソーリ様。少しお時間をよろしいですかな?」

「もちろんだ。しかし、なんだかんだで久しいのう、イクセリウス殿」

「ええ。テリマヨピザの一件以来でしょうか。あれ以来ノルディアスがマヨネーズにはまってしまいましてね。少し困っているところです」

「ははは。あれは食い過ぎると太るから注意しろよ」

「ええ。ご忠告通りそうきつく言い渡しまして、五日に一度にしろと自戒を込めて命じたところです」

「ふっ。それは厳しいな。しかし、そのくらいがちょうどいいかもしれん」

「はい」

と和やかに挨拶を交わした後、イクセリウス殿が、

「近々騎士団が北部の森で軽い実戦訓練を行うんですが、視察に行かれませんか? 今回はローズに指揮官として随行するよう命じておりますので」

と提案してくる。

断る理由がないどころか、米や醤油、味噌などがある北部と聞き、

「それは是非とも行ってみたい!」

と前のめりに応じた。

出発の日。

鎧に身を包んだローズ嬢と共に出発式に臨む。

騎士団は総勢五十名ほどで、若手を中心に選抜しているということだった。

訓練の内容は野営と行軍の訓練が主で、森に入って魔獣がいれば戦うという軽いものだという。

北部は魔獣の被害もあるが、それ以上に自然環境が厳しいらしく、移動訓練を兼ね騎士団の若手に経験を積ませるには絶好の機会だということだった。

チラリと見ると、ノッツ、カンナ、リックの三人の姿もある。

他の顔ぶれを見ても半分以上は若者で構成されているようだった。

(楽しいピクニックになりそうだな)

と軽い気持ちで式典を終える。

騎士団の訓練場を出て町に出るが、町行く人たちは慣れたもののようで、軽い注目を集めた程度だった。

さっさと下町を抜け、街道に出る。

私は久しぶりの外出にワクワクしながら、ローズの乗る馬車の後をついて行った。

そこから三日ほどは北にまっすぐ伸びているという街道を順調に進む。

しかし四日目になって最初の難所だという長い峠道に差し掛かった。

だらだらと続く坂道に段々悲鳴を上げる者が出てくる。

その度に指導役らしい上官から「がんばれ」とか「しっかりしろ」というような声がかかるようになってきた。

途中に大休止を挟み、再び行軍を開始する。

しかし、その日は峠の中腹にようやくたどりついたくらいのところで野営となった。

どうもこの峠があるせいで北部との流通は厳しくなっているらしい。

(前世ならバンバン税金を投入してトンネルでも掘らせるところだろうが、この世界ではそうもいかんのだろうな)

と思っていると、唐突に例の画面が現れ、

「その気になればできるんじゃ?」

と言ってきた。

(せんわ!)

と心の中で突っ込むと画面が消える。

(まったく。あの神らしきやつはなにを考えておるのやら)

と思って軽くため息を吐いていると、

「あら。お疲れになって?」

とローズ嬢が声を掛けてきた。

「いや。少し考え事をしていただけだ」

「あら。なにを考えてらしたの?」

「ちょっと流通のことをな」

「この峠を迂回する道でも作れればいいのでしょうけど、地理的にそれは不可能ですわ。せいぜい道幅を広げたり、途中に野営できそうな場所を整備したりするくらいでしょう」

「そうだな。大型の馬車が通れるようになればそれだけでも違うということか?」

「ええ。この道幅では中型の荷馬車がせいぜいですもの。いざという時の支援にも支障をきたすのは間違いないでしょうね」

「そうか。災害支援が絡むのであれば整備を急いだほうがいいな」

「それはわかっておりますが、どうもこの辺りの諸侯は財政的に厳しいところが多いですから」

「なるほど。公共投資に力を注ごうにも余力がないということか」

「残念ながら、そうですわね」

「なるほど。しかし、地方の活性化は国の繁栄の基礎だ。王都がもっと繁栄するためにももっと地方に目を配らねばならんぞ」

「おっしゃる通りです。しかし、それもまた政治の難しいところで、なぜあちらばかり優先するんだという声がないわけでもありません」

「なるほどな。王家はその財政的な支援の均衡に配慮しているということか」

「そうです。私はもっと積極的に支援してもいいと思っているのですが、こればっかりは王をはじめとする有力諸侯たちの総意で決まるものですから」

「ふっ。王とは強力なようでそうでもないものなのだな」

「時に板挟みにもなっておられます」

「苦しいものよのう」

そんな話をしながら若手騎士が淹れてくれたお茶を飲み、夕暮れに染まる山並みを眺める。

(いつの時代、どの世界でも、人をまとめるというのは難しいものよ)

と思いながら飲むお茶はいつもよりかなり苦い味がした。


翌日。

やっとの思いで峠を越え、下りの道に入る。

夕方になって麓の町に到着した時、若者たちの目に安堵の色があるのを見て、心の中でそっと、

(おつかれさん)

という言葉を送った。

翌日からはまたしばらく順調な旅が始まる。

どこまでも広がる田園風景を見ているとそこまで厳しい環境には思えなかったが、ローズ嬢曰く、

「こんなに長閑なのはこの辺りまでですわよ」

ということだった。

再び短い峠を越え、麓にある小さな村の一画を借りて野営になる。

そこはいわゆる中山間地といった風情の村で、急な斜面に広がる段々畑が前世の故郷を思い起こさせた。

さらに厳しい道を進み、最北の男爵領に到着する。

そこは山間にある小さな村落で、男爵の屋敷も貴族家というより村長宅という方がよいと感じた。

「このような山深いところまでようこそおいでいただきました。たいしたおもてなしも出来ませんが、どうぞおくつろぎください」

と言われ屋敷に入れてもらう。

狭い玄関をなんとかくぐり入った屋敷の部屋は王城の被服室よりよっぽど狭かった。

そこで淹れてもらった薄い紅茶を飲み、軽くひと息吐く。

もちろん疲れてはいなかったが、想像した以上に発展から取り残されている北部の状況を見て、私は、

(これは本格的なテコ入れが必要だろうな)

と考え始めた。

「どのようにお感じになられまして?」

「想像以上の取り残されようだな」

「この国では北に行けば行くほど発展から取り残されているのが現状ですわね」

「米や醤油、味噌意外に産物は?」

「林業関係が少し。しかし、西や東の辺境ほどではありませんわね」

「交通の問題か」

「ええ」

「となると、普通は軽くて商品価値の高いものを開発するのが王道だな」

「しかし、そのような産物がすぐに見つかるはずもなく、苦労しておりますの」

と言われ、なんとなく、

「織物はどうだ?」

とつぶやいてみる。

するとローズ嬢は目をぱちくりと開き、

「織物ですか?」

と聞いてきた。


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