第25話 『壁の偽ヒーロー』⑬
書き忘れがあったため編集しました。
「見てください、やはり私の考え通り人形が勝ちました。」
「チッ、俺はあっちに試したかったんだかな」
俺たちでなにか賭け事をしてたのがわかる事を言いながら片手に懐中時計を持ち、細身で若々しく優しそうな顔付きの男、治安維持担当が顎に手を当てながら立っていた。
その横には今は少し悔しそうな顔をしているが普段はきっと気のいいおっちゃんのような顔したガッチリ体型で治安維持担当よりも2回りは大きい男、財務担当が並ぶ。
何があってもいいように担当に気を配りながら周囲を見る。人形故に目が無いから視線で気付かれないのはありがたい。
(鎧を着た護衛が担当の傍に3人、他の道を塞ぐように1人づつ、護衛とは違う鎧を来てない身軽そうな人が屋根上に黒ずくめが2人……)
担当のそばに居る3人の中で1人だけ頭にフルプレートのヘルメットを被り装備がちょっと豪華になっている。きっとあれが護衛達のリーダーなのだろう。
護衛も屋根上のアサシンみたいな人も警戒はしているが明らかに俺の事を舐めてるのか素人でもわかる隙がある人がいる。実際今の俺は体力はほとんどないし体もボロボロ、気絶したオーウェンや捕縛したカルマーを考えると舐められるのも必然である。
「人形、依頼達成だな。たまたま私が近くを通りかかっていて良かった、依頼達成後直ぐに会えたのだからな。治安維持担当であるこの私が……」
話し始めた治安維持担当は心の全く籠っていない話し方で聞こえはいい内容をずっとベラベラと話続けている。
「故に、私達の依頼によってあなたたちにもたらした……」
長い、一言二言で終わる内容を何分も話している。財務担当なんかあくびしてるし。
「あーもうそんなのどうでもいいだろ。それより人形、それを渡しな。」
まだフィクサーの芸術話を聞いてる方がマシと思える長さ治安維持担当が話してると財務担当が痺れを切らしたのか話をぶった切って話し始めた。
「申し訳ございませんがそれはできません。今回の依頼は貴方様に指名依頼されたものですが事務所を持たない私は協会を経由して受諾しています。1度協会にて手続きをしなければ依頼主であっても直接お渡しできません」
「ハッ、最近の冒険者は融通が利きませんね。鼠よ」
治安維持担当が鼻で笑った後にゆっくりと右手を上げる。
なにか嫌な予感がして俺はカルマーを捕縛している糸状濁流で作られた球体状の檻の糸をより強固に絡める。
パサ…
ドゴッ!!
「!?」
次の瞬間何者かに糸が切られた感覚とともにカルマーを捕縛していた檻が細切れにされた糸くずとなって石畳の路地に散り、中にいたカルマーがドサッと石畳に落ちる。
そして糸の檻に意識が向いた一瞬の隙に俺の右足は膝から下を吹き飛ばされて石畳に転がり、俺は突然右足が無くなったことでバランスを崩し跪くように倒れた。
(今俺はやられたのか?……今の一瞬で檻の糸全部と右足を……!?)
その一瞬の中で俺は確かに見た。
屋根上の黒ずくめの1人が降りてきて持っていたナイフで一閃、いや多分俺が見えなかっただけできっと連続で中にいるカルマーに傷をつけることなく切り刻んだんだろう。
その流れで俺の右膝から下を蹴り飛ばして俺が認識した頃には屋根上に戻る。
さっき戦ったカルマーも強かったがこれはもう次元が違う。
「捨て駒とは言えこれに勝ったのですからどれほどの物かと思いましたが、脆いですね。」
治安維持担当が右足が無いせいで立てない俺の前に来て見下ろすように話し始める。
「人形、貴様はどこまで気づいた?」
「どこまで、とは?」
「私たちが貴様に依頼した理由、そして『壁の偽ヒーロー』を使ってやっていること。」
「わざと出している尻尾を掴まれている事を分からない程私達も愚かではありません。」
「ただまぁカチャカチャ派の奴らを見られるのは想定してなかったがな。」
「姿見せねぇように動けって言ったのにアイツらときたら……」
財務担当が後ろで愚痴をこぼす。あの時カチャカチャ派を見たのはかなり運が良かったのか、実際あれ以降カチャカチャ派は一回も見てないし……
「あれについては後で詰めましょう。ですがまずは……」
治安維持担当が懐中時計を少しいじった後にこちらに話しかける。
「人形、貴様に1つ質問をしよう。嘘をついた場合はこの懐中時計が光る、光った場合は即刻処刑とする。」
「人形、貴様は人形師が操る人形体か?」
「いえ、私は人形体ではありません。私はヒューマノイドです」
俺の回答に治安維持担当の持つ懐中時計は光る事は無かった。
「嘘は無いようですね。では親鼠、手筈通りに」
「了解しました。」
少し豪華な装飾の護衛、親鼠と呼ばれた者が何かの準備するのか少し後ろに下がっていつの間にか取り出した鞄から小さな瓶に入った何かを2つ、取り出しそれを財務担当が受け取る。
ゾァリ……
「!?」
瞬間、何時ぞや荷車の中で感じた物以上の悪寒が身体中に襲いかかる。
前は毒蛇が巻きついたような悪寒だったが今回のは様々な強烈な悪意を向けられるような悪寒というよりもはや恐怖。
そんな物を感じ取った俺はいつの間にか武器を手に取り、左手と右足から糸を出してオーウェンとカルマーを守るように構えていた。
「んぉ?人形、お前もしかしてこれに恐怖してるのか?」
財務担当は2つの瓶を片手に持ち俺に見せる。
1つは目玉のような物、だが生物のものではなく作られた眼球。何故か懐かしい気配をその眼球から感じるがそれどころでは無い。
もう1つの瓶。中にはドス黒いヘドロを無理やり星型に固めたような黒い星が入っており、少し離れたところから見ているはずなのに首を掴まれ、心臓にナイフを突き立てられているようなプレッシャーと恐怖を感じるのだ。
俺はさらに武器を強く握り、左手と右足を糸で拾ってくっつけて即座に動けるように立ち上がる。
「当たりみたいだな、しかもこっち。どうする?こいつ持って帰るか?」
「関係ありません。万が一脱走されこれらの事をばら撒かれたら目も当てられません。手筈通りお願いします。」
「あいあい分かったよ。親鼠、そいつを抑えとけ。」
その言葉と共に出していた糸は消し飛び、俺の視界はグリンッと変わりいつの間にか俺の背後にいた親鼠と呼ばれる者に地面に叩きつけられていた。
「グェッ!!」
突然地面に叩きつけられ受身を取ることも出来ず、身体しか押さえつけられてないため動かせる頭を動かして担当達の方を見る。
担当達は石畳に転がっているカルマーの前に行き、財務担当がカルマーを持ち上げた後2つの瓶の中身を取り出してカルマーの口の中に入れ、無理やり飲み込ませる。
飲み込んだのを確認した担当達はカルマーを少し開いている場所に投げ飛し、地面に落ちて少し経つとカルマーに変化が現れた。
「あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!!」
「なっ!?」
飲み込ませた物のせいか気絶していたカルマーが絶叫し石畳をのたうち回る。
ゴポ……
カルマーののたうち回る石畳の下から様々な色が見えるドス黒いヘドロのような物が湧き出てきて辺りを破壊し始める。
「担当ッ!!今何をした!!カルマーに何をした!!」
カルマーの絶叫を背景に俺は担当共に叫ぶ。本来こんな事を言う仲じゃ無いがカルマーに感じていた親近感などが叫ぶ理由を作った。
「カルマー、あの女そんな名前だったのか。本来なら不敬で即刻処刑だがいいだろう、答えてやる。」
「今あの女に飲ませたのはとある遺跡で見つけた遺物、名前は判明してないため私は『目』と呼んでいる物と『五濁悪世』と呼ばれる遺物の1つ」
「正確には『五濁悪世 劫濁』適性のある者に飲ませれば厄災の如し力を持たせる遺物、まああの女は適性が無かったのか全く力を出せずのたうち回っているがな。」
治安維持担当が俺前に来て説明する。その顔は新しい物を見つけて心を踊らせる子供のような無邪気な顔、そんな顔をしていた。
「『目』は俺の持ってる部隊が拾ってきた遺物だ。」
「遺物の奥にいた人型のヤツの額にあったやつを引っこ抜いてきたらしいが情報が全くない。」
「遺物にあった日記から身体に取り込んで使うってのはわかったんだがそれ以外さっぱり、酸で溶けねぇから生きてるやつに食わせて何んも起きなかったら腹切って取ればいいしな」
「本当は人形、お前で試したかったんだが賭けに負けちまったからな」
「……あんたらに罪悪感は無いのか?」
「地位ある者が下のものを使って事を調べることに、何か問題でも?」
「それにしてもあの反応、おそらく失敗でしょう。鼠、あの女…あー名前なんだったか?まあいいでしょう。あの女が死亡したら体内から遺物を回収しなさい。」
治安維持担当はそう答え、財務担当もその言葉に頷いていた。
カルマーと会話して、色んなものが彼女の身に巻きついているのを俺は知っている。記憶を失い、未知の地で俺と違い悪意を浴び続けてきた。進みたくない道を歩かされ、誰にも頼れなかった彼女の末路が使い捨てられて終わり。これじゃあまりにも
「救いが無いじゃないか……」
心の底から思った俺の声はカルマーの絶叫にかき消され、誰の耳にも届かなかった。
今の俺には何も出来ず、ただ眺める事しかできない光景が続いている夜の路地。だが変化は訪れた。
ピタッ
先程まで暴れていたドス黒いヘドロが突然動きを止める。
「…………」
カルマーの絶叫が突然ピタリと止まりさっきまでのたうち回っていたのにスッと立ち上がった。
そしてドス黒いヘドロはカルマーの足元に波紋のように波打つって集まった。
「これは……今までない反応…!」
「まさかあるのか、適応!!」
「………」
そのままヘドロは卵のようにカルマーを覆い、少しづつカルマーに吸収されるように大きさが小さくなっていく。
そしてそのままヘドロは全て無くなりカルマーは崩れ落ちるようにまた倒れた。
目の前で起こった今までと異なる現象に興奮する担当共と違い俺は静かにカルマーを見た。
カルマーが飲み込む前から感じていた懐かしさ、それが今一瞬、ヘドロが繭のように包む瞬間に強くなったのだ。
「ハハッ良いものを見たよ。鼠、さっきのは取り消しだ、こいつは絶対に持ち帰る。」
「あぁそれが良い!だがその前にやらなきゃ行けない事があるよな?」
カルマーの今までにない反応に興奮していた2人は落ち着いてきたのか俺の方を向く。
「この光景を見せてくれたこと感謝しよう。だがそれはそれでこれはこれだ、貴様らには死んでもらう。」
「ただこんなのを見せてもらってただ殺すのも面白くねぇ、だから人形、チャンスをやる」
その言葉と共に俺を抑えていた親鼠の拘束が解ける。
若干呆気にとられたがその場から飛び退き、オーウェンとカルマーを背負いグラディウスを構える。
「貴様が親鼠から生き延びたら逃がそう。どうせ受けるしかないだろうし私が開始の合図をしよう。」
対面した親鼠からはさっきまで感じなかった殺意を感じる。剣を鞘から抜いていないが親鼠の纏う気配からまともに戦っても勝ち目は無いのは明確。
逃げれる気配もしない。これは本格的にまずい、でもやるしか……
「………殺れ」
「………」
(来るッ!!)
その声と共に音もなく親鼠が動き出す。
かち合ったら確実に負けるため俺は全力で身体を捻り避けようとした。
(早ッ!!でもこれな ッ!?)
極限の中、アスリートなどがアドレナリンによって世界がゆっくりに見えるゾーンと呼ばれる現象がある。
死が目の前に居る俺はそのゾーンに近い状態となっていた。だからこと見えてしまったのだ。
急加速して想定の5倍以上早い親鼠の振るう鞘のついた剣、その剣にカルマーが出したような〇の印が3つ浮き出した事。
2人を背負った状態でその動きに対処出来ず剣はアウルのすぐ近くにまで迫りそして
バギャァッ!!!
胴体には当たらなかったが完全に避けることは出来ず直撃し、膝から下が木っ端微塵に粉砕された俺の右足だった。
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ステータス
名前:アウル ■■ ■■■
種族:ヒューマノイド
属性:水
称号:【巡る者】【第1の■】【閲覧不可】
所属:森林協会所属冒険者[種 2級]
魔法:低級
固有能力:耐性【完全防腐】
創出【素敵な糸】
能力:熱耐性IV
冷耐性Ⅲ
打撃抵抗Ⅲ
精神疲労抵抗Ⅰ
撥水Ⅰ




