世界でいちばん奇妙な宴
村全体が焚き火の灯りで照らされていた。
即席のテーブルが広場に並べられ、焼きたてのパン、素朴なシチュー、大きなビールのジョッキが温かな香りを辺りに満たしていた。
村長が杯を掲げた。
「旅の者よ、今夜はお前に乾杯しよう。お前と……その仲間たちが、この村を救ってくれたのだ。」
村人たちは拍手を送った。
だが、その目にはまだ感謝と恐れが入り混じっていた。
タクミはぎこちなく笑い、
「僕は……何もしてないよ。全部、あいつらがやったんだ。」
ゴールキーパーはすでに頬を焼肉で膨らませていた。
「監督ぅ〜!これがホントの決勝戦っすよ!チャンピオンの晩餐ってやつだ!」
脂でテカテカのグローブを握りしめ、子羊の脚をまるでトロフィーのように高く掲げた。
アイドルはテーブルの上に飛び乗り、マイクを片手に叫んだ。
「レディース&ジェントルメーン!異世界での初ライブに来てくれてありがとうっ!」
村人たちは戸惑いながらも、なんとなく拍手を始めた。
彼女の歌が皿とジョッキの間を舞い、やがて一人の老人が手拍子を打ち始めた。
一方で、魔法少女は一口も食べず、タクミの隣にぴったりと座り、甘くも危うい笑みを浮かべてじっと彼を見つめていた。
「この騒がしさ……好きじゃない。みんな、あなたを見すぎてる。」
そして彼の手を、少し強すぎる力で握った。
「ねえ、約束したよね。私だけだって。」
タクミはごくりと唾を飲み込んだ。
「い、いや……そんな約束は……してないと思うけど……」
周囲の村人たちがひそひそと話していた。
「彼女は奥さんか?」
「いや、守護者みたいな感じじゃないか?」
「でもあんな“ハートビーム”で人を脅す守護者って、聞いたことあるか?」
ゴールキーパーは口いっぱいに肉を詰めたまま大笑いした。
「ハハハッ!いいじゃねぇか、愛ってのはチャンピオンにふさわしいんだよ!」
タクミは額に手を当て、ぐったりとため息をついた。
目の前には、野獣のように肉をむさぼるゴールキーパー、テーブルの上でライブを繰り広げるアイドル、そして自分を“独占”しようとするヤンデレ魔法少女。
――この宴は、もはやただの食事会ではなかった。
しかし、村人たちは徐々に恐怖を忘れ、その奇妙な存在たちを「救世主」として受け入れ始めていた。
タクミは静かにつぶやいた。
「……これ、宴じゃない。サーカスだろ……」
だが胸の奥で、何かが温かく揺れた。
どれだけおかしくても、どれだけ狂っていても――
今、自分は誰かに“祝福されて”いた。
それは、あまりにも久しぶりで……そして、奇妙なほど心地よい感覚だった。
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