始まりはヤマト村で 5
「つまり……みーさんは元いた世界で死んでしまい、魂の状態のような感じの時に何処からともなく魔王を倒してくれと言われて今に至る……と、そういう事なのですね?」
一通り説明してみた。この世界へ来て、出会って1日でこんな話をする事になるとは思ってもなかったが都合良く何かイベント的な事が起きてくれるとは限らないのでここは自分から動くべきと判断したのだ。
正直この話がタブーだったりして聞いた人にまで危険が及ぶとかあったら後味悪いので極力黙ってようとも思ったが、よく考えたら漫画やゲームでは無い以上自分でちゃんと行くとこ行かないと上手く事が運ぶとは思えなかったのだ。生前そういうところを上手くやれてたとは思えないのでその辺ちゃんとしようと思う
「すいませんね、俺自身も昨日この世界に来たばかりなので話せる事はそれしか無いんですよ。元いた世界がどういう所かという話は出来ますが、魔法なんて存在して無かったので多分あまり意味はない気が……するのかなぁ?」
「よろしければお聞かせ下さい」
元居た世界の話、それは他愛の無い話をした訳だが思ったより食い付きが良くて助かった。
これはなんとなく本能的に分かってる事だけど俺の元居た世界に行ける事は俺を含めこの世界の人達もまずありえないと思う。
一度死んでから来てるのでまた戻るなんて事は不可能という話だ。俺自身もそこは本能としか言いようがないがそういうものだと理解してる感がある。なので俺の居た元の世界の話を聞いたところで何か参考になる……なるのか?もしかしたら元の世界のノウハウがいいネタになるかも知れない…そう考えるとあるいは巨万の富を手に入れる事だって……というのはさておき、基本的には元いた世界の話は意味の無い事だと思われる
「とまあそんな感じです。一つお聞きしたいのですが、言葉や文字が全く違和感ないのは凄い偶然とかだったりします?」
「それはちゃんと理由がありますぞ」
どうやら大昔の賢人が世界のほぼすべての範囲に言語等が共通化する魔法を仕掛けたとからしい
「てことは、俺はとりあえずその王都から来る使者に連れられて魔王を討伐しに行くっていうのが今後の流れになるのか」
「そういう事に……なるとは思うんじゃが、一度死んだ後に人生をやり直してる状態…きっと何かしらの意味というか使命はあるのかも知れませんな。しかし変に気張らず好きに生きるのも手かと思いますじゃよ」
村長さんだけあって中々深い事言いなさる
「とりあえずその迎えが来るまでは修行とかしてみてはどうか?魔法が使えそうですしね。それと流石に魔王討伐ともなると今のまま流れでってわけにはいかないでしょう。幸いにしてここは達人の村、修行するには色々うってつけですぞ」
心強い、けどハードそう
「ありがとうございます。自分でもこの魔法とか色々試したりしたいのでまずは自分で何かやってみますよ」
「何かあったらいつでも相談して下され」
「ありがとうございます。色々話聞いてくれて教えてくれただけでも既に大きな恩を頂いてますからね、今は無理でもいずれ何かしらの形で恩はお返し出来たらと思います」
「かかか、気にする事無いのですじゃよ。我々も魔王を倒す勇者の誕生に立ち会えたと、楽しめたのでな」
それは中々プレッシャーがありまするなぁ
「村長、それはプレッシャー与えてますよ。いいんですよ、こちらの世界で良い人生を送れたら」
いいおばさんだ、元年齢から見てもおばさんだけどありがたや
「そうじゃったな、スマンスマン。みーさんのこれからのこの世界での人生に幸あれ」
「ありがとうございます」
話も終わりまた一斉に飛び立つかと思いきや先日とは打って変わって誰もルーラ的な物を使わずダラダラとした姿を見て、しれっとやって格好つけるという習わしは皆やるもんなんだと認識した。俺も用は済んだので小屋に戻ろうとすると…マッサンが改まって声をかけてきた。マッサンとはまゆもの父でまつさんからのマッサンだ
「つかぬことをお伺いしてもよろしいですか?」
「なんでしょう?改まって」
ここで何故この村の人達は俺の言う事をこうもアッサリ聞いてるのかと言うと、魔法にあたってたというのもあるがこの役場の会議室的な所には嘘発見器のような物がある。その名も魔道具うそぴょんくん。元いた世界でも通じそうなネーミングだがどうやら嘘を付くと光って上に付いてる傘のようなものがぴょんと跳ねる動きを見せる事からこの名前になったそうな。この嘘ぴょんくんの信頼性は抜群でそれが反応してないので皆信じているという事だ
「生前は……話してる感じとか色々な所作、文化的な違い等はあると思いますけど、もしかして年齢は結構行ってたりしたんですか?」
おおおい、このおっさんは何言ってるんだろう
「え?いやいや何を言ってるんですかおじさん、僕は今も前も17才」
ぴょん
即光ってぴょんしやがった
「……突拍子も無い話をずっとしてた中、今初めてうそぴょんくんが発動しましたね。という事は結構お年を重ねてらしたのでしょう?まさか私より歳上……私は今39歳ですけどもしや」
「いやいや、無いで」
ぴょん
この道具マジうぜー
「や、やはり……ということはもしかしてもしかすると村長よりも?」
「それはない!あの、色々恩はあるのでアレですけど止めてもらっていいですか?僕はれっきとした17歳で生前は確かに多少は歳行ってましたけど」
ぴょんぴょんハネまくってる
「ええ?幾つだったんだい?ほら、言ってごらんよ」
さっきまで凄い良い感じのおばさんだと思ってた人がここぞとばかりにグイグイ来やがる
「ええっと……4……2歳ですぅぅぅ」
「やはり歳上でしたか」
「いや、今はもう17歳ですぅ!なので皆さん大人で歳上ですから、この世界でって言うならなんならまだ0歳ですから!これから青春時代を歩んで行くんですからね、余計な事は言わないで欲しいですぅぅ」
この世界で初めて必死な訴えをする俺
「そうだねそうだね、せっかく若返ったという形ならそれはもうその通りですね。羨ましい限りです。あ、でも死んてるから一概にそうとも言えないか、これは失礼しました」
何人かのおっさんとおばさんはさっきまでのどこか威厳ある場にて格式張ったオーラを纏う出来る人達みたいな感じだったのが一転してニヤニヤしながらこちらを見てくる人達へと変わった
「そういうことならみーさんよ、今夜はせっかくだから飲みにでも行こうじゃないか。色々聞かせてくれよ」
うぐっ、このおっさんは最初に仕事を紹介すると言っていた人だ。アテにしようとしてた以上断り難い
「あまり強く無いのでそこんとこよろしく」
こうして俺はこの日の夜、体調はすっかり良くなってたのもありマッサン率いるおじさんおばさん集団と飲みに行った。この人達は皆生前の俺とほぼ同年代だった。なんなら生前の年齢で言うと俺が一番年上だったりして弄られたりもしたがなんやかんやと打ち解けていった。生前の俺から考えると素で打ち解けるのは珍しい事であり楽しかったりもした訳だが
「本当に秘密だからね。俺はどうであれこれから17歳から生きてくので、実年齢がとか言われると青春が崩壊する可能性がどーのこーの」
「わあってるって、同じ位の年数生きたおれらはその気持ち、よぉーくわあってるからよ、きにすんなって」
この酔っぱらいは本当にわかってるのだろうか
「でもあれだよ、万が一あたひらの子供と出来ちゃったりしたらみーさんが、義理の息子……それはそれで面白そうだねぇ〜」
何言ってるのこのおばはん
「むすめはやらんぞ!」
「無いから、それは気まずいから!こんな話しした人の子供と出来るとか。だいたいおれは年上のお姉さんをどーのこーのするのがあれよ」
「歳上好きか!?それはどっち?今の歳から歳上なのか生前からの歳上なの?」
「それは……必ずしも歳上っていうよりはお姉さんって感じ?だったりでも絶対年上でなくてはってわけでもなく」
「いわんとしてることはわかるぞぉ」
そんなこんなで飲み会をしてた訳だが、ちゃんと覚えててくれてるならある約束事が取り決められた。それは今いるメンバーというか30超えてる人達以外の前で俺は17歳である事を徹底する事と、20代以下の人の前では俺も30代以上の人は大人相手として接する事だった。大丈夫なのだろうか