冒険者はこの街で 4
冒険稼業デビュー前日、昼に美味しい魚を食べたいと思ったので俺達は海に向かっていた。
釣りの経験はこの世界に来る前まではほぼゼロだったが俺にとってはまだ魚が単純に貴重な食材なのでヤマト村に居た頃から自ずとそれなりにはやれるようになっていた。
この街は徒歩1時間弱で海が見えてくるが実はこの世界の海は結構怖い、てか命懸けの部分もある。
初めてクリスに連れられて海に行った時、最初に目の当たりにしたのは海から崖の上に居る俺達の目線くらいまで飛び跳ねて来た角の生えた…地球で言うところのイッカクだった。
あれって人食うよね?って聞いたら勿論と。何でも海水浴場やある程度の範囲は国からキチンと結界用の石などが置かれ安全らしいがそうでない箇所だと途端にあんなデカブツが平然と泳いでるらしいのだ。
小さい子に海に面してる道は1メートル以内に入っては駄目と最初に教えられるのがこの世界の習わしらしい、物騒にも程がある。
ただ、人を好んで襲うような魚類はそういないらしく案外大丈夫だったりするという見方もある。
事実、漁に出る時も結界石とか大型魚類なんかを避ける道具は必須っぽいが熟練度が高い漁師なんかはそんな物使わず小さい船でも平然と漁に行くのだそうだ。
海にも魔物は居るらしいが陸とは打って変わって少ないらしい
「今日もゴールデン鯛を釣るぞ〜唐揚げ、唐揚げ」
「それ作るの絶対俺だよな?」
「料理はキミに任せるよ!私は釣るの担当さ」
こんな調子のいい事言ってるが確かにクリスの方がよく釣る。
クリスは釣りなんてほぼ初めてで最初は一緒にドタバタやってた訳だがクリスは……多分そこそこ運が良い。
初めて行ったギャンブルもそうだが結果負けてはいるけどよく当てるし釣りもよく分からないままに釣ってるのだ。
さっき言ったゴールデン鯛は滅多に釣れない高級魚らしいが前回は普通に釣ってたのだ。
最も一匹は手がすべって逃がしちゃってるところがもうクリスって感じなのだが
「俺はカニとかタコとかも釣りたいな。なんならいつでも食べれるように家に生け簀……そうだ、クリスの家に生け簀作らないかい?」
「おお、それは名案…だけどばあちゃんが多分食べちゃうと思う」
くっ…やはり早く自分で住処をなんとかしなくては
「うーむ…悩ましいね。そう言えば初めて海に来た時に見たあのデカブツって食べれたりするの?」
「ツノザメでしょ?食べれるよ。あの魚が美味しい店であったお高いやつがツノザメだったと思うよ」
念の為万が一の事を考え我が魔法、ねばのーる君をロープ状にして岩に括り付けてる。これはもし落下したりしてもここに戻りやすくするようにだ。
その気になればよじ登れる位の高さだが多分思ったより大変そうなのでって理由で用意してある。
だがもしあの大物を釣るとなったら釣り糸では厳しいのでこのねばのーる君が役立つ可能性があるな
「今日の1発目は何が釣れるかなぁ、おっ!?やっと掛かった。これはそこそこ良さげな反応」
引きが結構強い、まさかゴールデン鯛なんてことも
「おお、みーくん来たね。今日はみーくんが先かな?」
慌てては行けない、こういう時こそ慎重に手堅く…引きが強いと言っても無茶なレベルではない
「よし、今だ。てい!おお、これは……白い…鯛か?」
「見せて見せて。おお、それは白鯛だよ、やるじゃないか!縁起が良いとされてる魚だよ、前回はアジが一番の収穫だったキミが1発目から大物とは。私も負けてられないね」
よし、これで調理係を理不尽に押し付けられる事への抗議は出来るぜ。
それにしても…本当に鯛か?俺は魚の種類なんて一般的なのしか知らないからもしかすると良さ気な魚は鯛って翻訳されてるだけで分類的には……いや、この辺の事は気にしても意味無いか
「クリスお姉さんのぉ、料理でぇ、食べるのですぅ」
「は?何言ってるのさ、調理はキミが担当だよ」
「いやいや、これで俺も釣りの成果を普通に出せてる訳だから五分五分でしょ。なのでクリスにも料理担当が回るんです」
「ふっ…まあいいさ、今はまだそう言ってるがいい。今日が終わる頃にはクリス様に調理なんてさせられないってレベルで大物を釣り上げてみせるんだからね」
俺も負けてはいられんな、終わった頃にはデカい口聞いてごめぼんって謝らせてやるのだ。と思ってたらクリスの方が大物の反応を
「来た来た……き……いや、ちょっと待って、これやばいかも……み、みーくん?ど、どーしよ……」
ヤバい引きです、これは釣れるとかの概念では無い気がするレベルの引きです
「お、落ち着け。俺も手伝うから。と、とりあえず…いやもう折れそうだ。最悪手離してしまうか折る覚悟を決めるしか」
「え、いや、でも……引きが強すぎ!みーくんも手伝って」
「よし来た、呼吸合わせるから指示くれ」
「うん、って……おっと、こっちに来たのかな?引きが無くな」
この瞬間、食い付いてたのはツノザメでそのツノザメはこちらの目線まで大ジャンプを決めて来た。そしてその目線の高さまで来た時
「しゅんぎりぃ」
クリスが特攻した。
何やってんの、この子って頭に過った時
「間違えたぁぁぁ!!!」
何がって思いつつ魚と一緒に海に落ちてくクリス。何故だろう、この瞬間がやたらスローに見えて、それでいて何とも滑稽で…ってクリスは確かこの技の後硬直するんだったよな?てことは
「みーくんっ助け」
「クリスーーー!!!」
慌てて海に飛び込みクリスを捕まえなんとかねばのーる君を掴もうとすると、ツノザメは辛うじて生きてるのかもがいていたがツノが危なっかしいので可哀想だがパンチでトドメを刺してやった
「うぅ……ぐすっ……怖かったよぅ……ありがとう、助かったよ」
半泣きになってるクリス、突っ込み所満載だが確かにあんなデカブツが泳いでるような海に飛び込んだんだからそりゃもう怖いだろう、泣きが入るのもやむ無しだ。何も突っ込まずにそっとしておこう
「全く、でも良かったよ。更にデカいのとか出て来て丸呑みたら流石に助けられないからね。そらにしても、初めて入ったけど思ったより俺の居た世界の海と同じで良かった」
「今、どんな時でも必殺技が出せるように修行してるんだけどその流れでついやっちゃったよ」
「修行の成果としては良いんだろうけど場所が悪かったな、とりあえずツノザメ……早速捌いちゃう?仕留めちゃったから血抜きから色々やっとかないと傷んじゃうし」
そう言うと打って変わって元気になるクリス
「そうだね、せっかくだしこのまま捌いちゃおうか、んで美味しく頂こう!でも量が多いから……保存もそんな効かないだろうし、どうしよ」
「ツノザメさんには悪い事しちゃったな。気にはなってたけど冷静に考えると消費できる量ではないし…勿体無いから極力持ち帰ったり保存は試みるけど残りは海に返して自然のどーのこーので行こう」
「うん、それで行こう。でもこのデカいの…まさか普通に捌けるのかい?」
「まさか、でも体の作りは普通の魚とそう変わらない筈」
そう言って二人で悪戦苦闘しつつ捌いてみた。服がズブぬれなのをいい事に遠慮なく捌けたのは大きい
「よーし、それなりには上手くやれた気がする。残りは海に返して海の生き物の糧となってくれ」
海にばら撒いたあと早速焼く準備をして食べる分が焼けるのを待つ。
服が濡れてるのでボチボチ寒くなって来たなと感じながら火にあたってると海の方からバシャバシャと激しい音がするのでそれとなく見に行った。
大方先程撒いたツノザメの残骸に魚達が群がるとかそんなだろうと思いながら見ると……そこにはおぞましい光景が
「何あれ?緑の…デカい魚の群れ?なんかキモいんだが」
「ああ、あれはエグシャチって言って海の食物連鎖でも上位のツワモノさ。ガチシャチよりは小さくて弱いんだけど大体の魚は捕食対象とかなんとか…でも安心して、シャチ類は基本人は襲わないから大丈」
って言った瞬間クリスの服をジャンプしてきたエグシャチさんが咥えてクリスと共に海に
「いやぁぁぁぁーみーく」
「くりすぅぅぅーー!!!」
ヤバい、こうなったらきゃいおうけんでエグシャチとやらを殲滅せねば
「きゃいおうけん」
そう言ってクリスの所に即飛び込んでシャチ達を蹴散らそうとしたが
「うわぁぁん……怖かったよぉぉー」
この子あれだ、いわゆるトラブルメーカー?って訳でもないんだろうけど運が良いんじゃなくてなんかこう通常特に何も無いけど無くはないみたいな事柄に対して事象が発生しやすいんだな。
上手く表現出来ないけど、1/100くらいの確率なら引きやすいみたいな
「なる程、人に危害は加えない…確かに臭いを嗅いでるっぽいな。きっとツノザメを捌いた血が気になったのだろう、無駄な殺生はしないで大丈夫そうだ」
「うぅ……それは良かったよぅ……ぐすっ」
こうして2度目のダイブを済ませた俺達は陸に上がり適度に焼けたツノザメを食べる事に。匂いからして超美味しそうだ
「美味しい、みーくんこれ凄く美味しいよ。これは苦労したかいがあったよ」
脂身も良い感じで濃厚な味わい…日本も含めて過去1美味しい魚類かも知れない、異世界侮りがたし




