表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
顔も知らない美少女に告白されたけれど、展開が何か思ってたのと違う。  作者: true177
Chapter5 『』の捜索

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

51/53

File51:Invitation

 刹那の生をあずかったセミたちが、幹にへばりついて鳴き声をあげている。整然と並んだ街路樹で、少ないすみかを争ってわめき合戦をしているのだ。

 なわとびを取られた子供が、行きどころのない怒りをその木にぶつけていた。青々とした葉のカーテンに守られている子は、いじめっ子か何かなのだろうか。

 大人げを見せる役割であるはずの高校生たちは、道路をはさんで通学カバンのキャッチボールをしている。駅へとつづく幹線で、よくもまあ対岸までミスなく届ける腕力があったものだ。


(……もう、夏も真っ盛りのシーズンか……)


 絶望を胸にとびこんだ桜の木は、誇りを捨てて有象無象の木々に紛れてしまっている。散る青葉は走る子どもたちに押しやられ、溝に掃き捨てられている。

 にぎやかしいのは、学業から放たれた人間たちのおたけびだ。勉強を話題にする者は見つからず、路地からも大通りからも遊びの約束が飛び交っている。


 予定もなく駅へと向かう足取りに、待ったをかけられた。


「……龍太郎くん。ちょっと、時間いいかな?」


 小石を蹴飛ばしてやってきたのは、陽を浴びてさらに輝く少女だった。肩にかかる髪は、太陽のコーティングを受けて数十カラットの宝石になっている。


「……どうかしたか? 連絡手段なら、電話を使って……」


 カバンに忍ばせてある携帯電話を取り出そうとした。


「亜希から聞いてない……? 旅行のチケットが懸賞で当たった、って!」

「旅行くらい亜希も行く……、運まで味方につけたのか……」


 全能力がオール5の人間に運までついてしまっては、立ち向かう術がない。おすそ分けしてもらえるよう、今からでも家に突撃してしまおうか。


 ただ、チケットが当たったといっても、二名様が相場の範囲。三人なら喜んで入るが、中途半端すぎる数字だ。亜希と美紀、ふたりなら彼女も羽をのばせる。


「……テーマパークで、二泊三日。二泊三日、だよ? あとひとりが埋まらないから、龍太郎くんはどうか、って……」

「亜希と、いま一番触れてるのは美紀だろ? いっしょに行ってきてやりなよ」

「……どういうこと……? 龍太郎くん、都合でも悪いかな……。テーマパーク、嫌い?」


 遊園地は、久しくおとずれたことがない。乗り物を『動く機械』だと認識してしまってから、入場料にばかり目がいくようになってしまった。生粋のダメ人間だった。


 昔にタイムスリップして、現在を何もかも忘れてしまうのも悪くない。悪くないが、亜希と弾けられるのは美紀だろう。


「夏休みの予定は空っぽ、だから行きたい。……けど、俺は亜希とだったらいつでも遊べる。美紀が行くべきだと……」

「美紀、こんなヤツと行くくらいだったら、日程ズラせない? ……いや、固定なのは知ってるけど」


 聞き覚えのある、切り込み隊長のよく通る声。認知度の低い龍太郎を『ヤツ』扱いできる、稀な無礼者だった。地の果てまで覆いつくす地獄耳だ。

 首に据えられた手刀は、頸動脈スレスレに当てられている。合図ひとつで、龍太郎の意識は吹き飛ぶ。


「……成瀬ちゃん、『部活まみれで時間取れないー!』って頭かかえてたよね……。ボールがないのに、ドリブルしてて……」

「おっと美紀、そこから先は言わないで。……龍太郎クン、へりくだるのも大概にしないと……」


 流れにおいつけない。冷水シャワーで転げまわっている間に、彼女らは飛びこみ台からスタートしてしまっている。


 美紀の身を立てた自覚はあるが、いきすぎたものではない。亜希のとなりに誰が座れば丸くおさまるか、人間関係を取りもつことが得意な成瀬なら導けるはずなのだが。


 我らが女王様の眼光に、龍太郎は首を斬られた。ため息をつかれても、おかしな点は見当たらない。


「亜希と、美紀と、成瀬……だったんだけど、行けなくなっちゃったから。寛大な心で龍太郎クンに譲ろうとしてるのに……」

「……あれ、三人も……?」

「珍しいやつらしいよ。三人分も無料とか……、亜希が裏で糸を引いてるとしか思えない……」


 陰謀論を唱えはじめた成瀬は棚に上げておいて、トリプルとは見慣れない設定である。おおむね子連れの家族に絞る意味はあったのだろうか。


 美紀に見つめられて、彼女が抱く疑問にたどりついた。


「……そういうことだったら、いっしょに行かせてほしい。楽しくなりそう、だな……」


 宝話を持ってきた少女に申しわけない。成瀬も龍太郎も行かないとなって、いらぬ悲しみを与えてしまった。


 アキミキとの行動は、いつぞやの配信お泊りぶり。まだ知らない美紀の姿が見られると思うと、モチベーションも高まってくる。

 亜希のちょっかいを、美紀は受けられる。ブーメランにして、投げ返すかもしれない。不確定さが増えて、龍太郎も予測できない。


(……飛行機か、新幹線か……)


 テーマパークとなると、大都市まで移動することになる。流線形のハコでも、羽ばたかない翼でも、文明の利器すら持たなかった美紀には魔法の乗り物だ。知見にあふれて、倒れてしまってもおかしくない。


「……龍太郎くん、端に寄ろう? ここらへん、危ないから……」


 言われるがまま壁へと寄った龍太郎のそばを、立ち漕ぎの自転車が通りすぎていった。校則も交通法規も守らないヤンチャ児である。


 美紀の感性を研ぎ澄まさせるには、この街はあまりにも薄汚れている。装備を外して羽を休める彼女を、空を飛ぶハゲタカがいつも狙っているのだ。


(……旅行、かぁ……。会話術、身につけてこなくちゃだな……)


 だんまり行動のクセで、移動する最中に話題が降りてこない。鍛え直さなくてはいけない。


「それじゃ、決まりだね! ……出発はあさってらしいから、五時には集合ってことで」


 予定がないとは言ったが、話が急すぎる。


 かと言って、リズムに乗って体が揺れ動く少女を制止しようとは思えず。


「……美紀が、電車でこっちの駅まで来てほしい……」

「……そっちのほうがいい? だったら……、そんな時間に走ってたっけ?」


 その言葉、そっくりそのまま返させてもらう。


 三人のわちゃわちゃが、日差しの照り付けをいっそう強くしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ