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顔も知らない美少女に告白されたけれど、展開が何か思ってたのと違う。  作者: true177
Chapter3 内からの蝕み

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File25:トキメキ

 自らの空間で体の緊張をほぐす今の彼女は、とても節約を強制されていた二日前の美紀と同一人物に見えない。一直線に目的地へ向かわず、道草を食べながらのんびり歩いている。誤解の無いよう言い換えると、寄り道をしている。


(お腹いっぱいそうだな……)


 リモコンで倍速にした動きで、『食欲』の支配から脱却していた。

 今の光景を継続させるために、今日がある。食べ物で困窮する少女は、二度と見たくない。


「なーにボケっとしてるの? 持ち逃げは許さないからね?」


 わざとらしいほほ笑みには、きちんと光が含まれていた。冗談上手とはよく彼女を表したものである。

 任務遂行に必須な携帯品を、龍太郎はすっかり失念していた。


 衝撃を加えないよう、ゆっくりと黒ザッグを床に下ろす。『配信者セット』と亜希が豪語している、高価な精密機器のオンパレードが入っている。


「……なあに、それ? 結構重そうだけど……」


 美紀は童心に返ったかのキラキラした目で、魔法の黒ザッグをみつめている。彼女しか備えていない、『正直さ』の一つだ。


「龍太郎に背負わせたら、こんなもの背負ってないのと一緒! だよね、龍太郎?」

「帰りはもう持たなくてもいいか?」


 しっかり体の軸へ食い込んでいた。亜希もよく独力で自宅から運んできたものだ。ジョークへの軽いたしなめより感心が勝ってしまった。


 慣れた手つきで、中学生からどっぷり浸かっていた女子がザッグから用具を取り出していく。ノートパソコン、折り畳み式モニター、マイク……。龍太郎も目にしたことがある程度のランクのようだ。

 配信者と言えば、デバイスの性能が一種の生命線。重くてアバターがロボットダンスをしていては、捕まえられる視聴者も離れていってしまう。


(……大丈夫か、このセットで……)


 素人の龍太郎が怪訝な目線をする隣で、美紀は興奮ゲージがカンストしっぱなし。細かく跳ねては、長髪が断続的に浮き上がっている。


 彼女の家では、電波が僅かに入るだけ。電子機器は殆どなく、使用する隙間も存在しなかった。連絡手段は、電話線に繋がった黒電話。ザ・昭和時代の少女である。


(……美紀にとってみたら、全部が新しいのか……)


 風の噂でパソコンは聞いていたにせよ、それ以外の道具は初耳。鼓膜が疲労で破れてしまわないか心配になる。


「……これで全部。設営は龍太郎、キミに任せた……って言いたいけど、美紀にも手伝ってもらおうかな」


 亜希直々に指名が入った。指示されなくとも手の届く範囲内で行動するつもりであったのだが。

 設営と大層に表現しても、机に置くに過ぎない。アプリその他諸々の操作は、亜希一人の専攻領域である。


 ノートパソコンが開かれ、画面が立ち上がった。初お披露目に、パソコン入門者の美紀が呼吸も忘れて息をのむ。


(……あれ、あなた亜希の家で野球ゲームしてたじゃないですか……)


 何事も、例外はつきもの。何度か招待されているだろうから、ゲームの味は知っていてもおかしくない。


 天才配信者亜希がアプリを表示した。


「……今日美紀に着てもらう『キャラクター』は、これ!」


 平面空間の中で、零れ落ちそうな目をした架空少女が笑顔で腕を振っていた。

 現実での美紀の特徴を捉えつつ、所々で改変されたアバター。高校内でインタビューしても、身バレの心配は無いだろう。

 流石に2Dモデルだったが、完成度は恐ろしく高い。細部まで塗り残しなく、髪の毛の一束まで追われていた。業者の為せる業である。


 被るカタチが用意されているのは喜ばしいこと。これと準備するまでに費やした金額はまた別物だ。美紀の底力が取り戻せれば、費用対効果など度外視してもいい、ということなのだろうか。


(……その金額で別のことが出来たんじゃないか……?)


 アプリのタブを見る限り、もう一体のアバターがいる。亜希本人が元から持っているであろうものだ。こちらを使うという手段は講じられなかったか微妙なところである。

 まさかお金に無頓着ではないだろうが、金銭は比重が大きい。ちょっとやそっとではひっくり返らないパワーを持っている。


「……どれくらいかかったの、これ……。絵師さん? っていう人たちに頼まなきゃいけない……んじゃなかったっけ……」


 水を差すか龍太郎が迷っていたところに、当事者直々のお尋ねがあった。基本的な知識は備えていたらしい。


 黙々と配信の画面を整える亜希は、目でコミュニケーションを取ろうともしない。


「……それじゃあ、問題にしてあげよう。クイズ、何円かかったでしょうか?」


 柔らかく優しい声のテンションは保たれたままだった。


(亜希のこの感じは、まあそういうことか……)


 龍太郎に、この問題の行く末が見えた。解答権を放棄して、『なんで』『どうして』状態の少女に全てを任せる。


 僅かな躊躇の後、先端の曲がった声が出てきた。


「……三万円くらい? ……そんな、私のためにしな……」

「ぜろえん。何度だって言うよ、ぜろえん。……大丈夫、負担はなにもかかってない」


 予想した答えが返ってきた。美紀に不安材料を残す選択肢を、彼女は取らない。

 亜希が、わざとらしくポカンとした少女の瞳を見つめた。湧いて出てきた不純物を、絹のハンカチでやさしく取り払うかのように。


「誰が作ったと思う、このアバター。……もう分かるよね、美紀?」

「……亜希……? こんなに絵が上手かったっけ……?」

「それは心外だなぁ……。年賀状に書いてある干支の動物、あれも本当は全部私の手書きだし……」

「印刷じゃなかったの!? ……本当に何でもできるんだ……」

「いや、あれはプリントアウト。変な所で嘘を吹き込むな」


 郵便局で売っている年賀状のイラストが一人の手描きであってたまるか。各局が亜希を複製して所持しているなら話は変わってくる。


 亜希の告白を受けて、もう一度まじまじとアバターを確認してみる。光源元のブレも、誤魔化した跡も、失敗が何一つ見当たらない。

 亜希は何でもできる万能女子。美紀の感想に、完全合意する。


 ハイテクにとことん疎い少女が、ノートパソコンの画面を指した。なぁぜなぁぜは、一度で終わらなかった。

龍太郎の顔を注視されても、こちらも全くの初心者で配信アプリの名前も分からない。


「それで、配信って……、どうやって……?」


 注文を承ったシェフは何やら設定タブを弄り、カメラを光らせた。録画が開始されている。年齢と動作がマッチしていない。


「やっほー! ……やまびこ、返ってこない……」

「それはカメラに映った映像だからな……。……デジタル機器、本当に触ったこと無いんだな……」


 亜希宅のゲーム機は除く。生涯でカメラに馴染んだ経験も無いとは、家庭環境がますます不安になってくる。


「パソコンの画面は、確かにカメラそのままだけど……。モニターに接続してあげると、ほらこの通り!」


 左右に一枚ずつ設置されたモニターには、真っ青の画面と美紀のアバターがそれぞれ表示されていた。左端には、コメント欄らしきスペースがある。


 龍太郎も、配信者の実況を一時期食い入るように漁っていた。寝る間も惜しまず忍んで視聴し、禁止令が言い渡されたほどだ。


(……稼げるくらいの投げ銭、なんて来るのか……?)


 視聴していた配信者は、決して弱小とは分類されない登録者数がいた。それでも、色付きコメント、すなわち『投げ銭』の頻度はかなり低かった記憶がある。

 美紀の生活費は札一枚でどうにかできる水準にない。高額投げ銭の動画で感覚が麻痺している人には申し訳ないが、補填できる額にも限度はある。


「あー……、あー……。マイクは大丈夫そう」


 マイクに口を近づけ、音響の確認をする亜希。音質は、一昔前の生配信クラスだ。昭和にまでは戻らない。


 美紀がパソコン画面の前ではしゃぐのを横目に、龍太郎は金策計画の言い出しっぺを呼び寄せた。内容は、勿論実現可能性について。


「……投げ銭なんか、低頻度だろ……? どうやっても焼け石に水……」

「龍太郎、パソコンの端をよーく見てみて? 私が何を言いたいか分かるよ」


 促されるがまま、興奮する少女に割り込んで画面を確認した。


『ちゃんねる! 登録者数三十万人』


 一朝一夕では手に入らない数字が、そこに並んでいた。


 ネーミングセンスはどうにかならなかったのか。チャンネル名が『ちゃんねる!』と言い、成瀬の『ハヤナルちゃん』といい、名づけ方面で彼女の実力は発揮されないようだ。


 亜希はにんまりとして、腰を抜かすであろう龍太郎を待ち構えていた。はい、腰を抜かしました。


「どういうことなんだよ、あれ……。……さては乗っ取られた……?」

「乗っ取られた……? ……そういうことなら、抱きしめてみる?」


 能動と受け身の違いを汲み取った彼女に、下からボディーブローを決められた。頭の回転が速く、不意打ちしてもお返しされるのでは勝ち目がない。


「それは置いといて……。美紀には、チャンネルの新メンバーになってもらうよ」


 龍太郎は、深く頷いた。


 複数メンバーで構成されているのなら、登録者数の多寡☆☆☆も納得の範疇にある。人を一人増やしたとしても、亜希が全責任を負うという前提の下では影響を少なくできる。

 それでいて、収益は人数分け。なんとも考えられた制度だ。


「……他のメンバーに、許可は……?」

「ピントがズレてる、龍太郎。美紀が加入した後は、二人で運営。美紀と、わたし」


 筋肉一つ動かせなくなった。何を言っているのだ、この幼馴染は。


 彼女を全面的に肯定してみよう。中学生で配信に興味を持ち、チャンネルを立ち上げ、たった一人で成長させた……。小学生の妄想日記を現実にしたような話だ。

 あり得ない、と否定するのは簡単。


(……亜希なら、意外とやってのけそうな気がする……)


 超常現象を何度も引き起こしてきた彼女なら、水と油でも混ぜられそうだ。


「……その顔は、まだ完全に信じられてなさそうだねぇ……。配信サイトが有名じゃないから、ライバルも少なかった。それだけ」


 同業者のいない大陸に出向き、新天地を開拓する。商業の基本戦術で、中学時代の彼女は既に習得していた。まだまだ進化の余地がある、末恐ろしい親友だ。


(……あれ、論理がおかしいような……)


 シマが小さいことは、視聴者の絶対数が小さいことに繋がる。取り合うパイが少なく、かき集めても雀の涙にしかならない。成し遂げた事を過小評価させようとして、逆効果になってしまっている。

 それでも、戦略を持って単騎飛び出しをする彼女のことだ、策という策が張り巡らされていると信じるしかない。


 練習中の少女に、パソコンの端をチラッと確認した亜希の腕が伸びた。


「……さ、時間的にそろそろだよー。さあ美紀、スタンバイ、スタンバイ」

「まだ何も教えてもらって……」

「アバターが動かせれば、今日のところはそれで十分。思う存分、好きなようにやってみて?」


 なんとも強引な仕事っぷりである。だからこそ、引っ込みがちな美紀を表へと引きずり出す効果を発揮するのだろうが。

 龍太郎より面積の狭いその背中は、頼もしく見ていられた。彼女なら、彼女の力があれば、失敗も成功に転じさせられる、と。


 つかの間の静寂が、家屋に引き締めを与える。機械のごとく最終確認が行われる様に、二人の男女が食い入っている。


 始まりの合図、ピストルの号砲。


「さん、にー、いち、スタート!」

現在ストックはあるのですが、ストックが切れています。正確には、


『ストック文章』(謎の空白)『ストック文章』


……と言う風に、一つ一つの話が宙ぶらりん状態になってしまっています。

つなぎ合わせる作業(と諸事情による時間欠乏)により時間がかかり、投稿が遅れてしまった事を申し訳なく思います。

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