8話 大きな仕事1
あの日の後、連絡の為に電話を置いてもらった、初めて見た時びっくりした、電話線が無くてボタンどころか昔見たクルクル回す方式でもないのだ、試しにニックスへ電話をかけてみると女性の声がした
「こんにちは、こちら電話交換手です、お名前とご住所をどうぞ」
「えーえとニックスで、住所は、、」
分からない、当然あそこの倉庫の住所を言うわけにも行かないし俺はそっと電話を切った、いたずら電話に思われたかもしれないが仕方ない
まさか電話技術がそこまで古いものとは、こりゃ俺が生きてる間にはネットはできないな、軽く鬱になりそうだ
そして決行の日、夕方あたり電話が来たのでビルから降りてロビーから出るとロータリーに真っ黒に染まった異質な車がある、俺たちが乗る装甲車だ、俺は車の後ろに乗り現場へと向かった
緊張で手を震わせてる時、ジェリーが話始めた
「いやー、この仕事でなら死ねるな」
「死ねるって、そんなこと言って良いんですか?」
「ふっ、お前みたいなぺーぺーには分かんねえよ」
ニックスが言う
「俺たちみたいな奴らには伝統があるんだよ」
「伝統って?」
「名を残すような英雄になりたい奴は壮絶な死を遂げるっていう伝統があるんだ」
とんでもない伝統だ、どうやら犯罪者や軍人など関係なしに命のやり取りをする職に就く人たちの共通の伝統らしい、大物と戦って死ぬ、100対1で戦って死ぬ、そういうのが誇りらしい。生き残って寿命で死ぬというのはただの凡人なだけだと言う
確かに、ジェリーは強い、彼はなんでもできる、銃だけじゃなくて解錠、破壊、車の整備だってできるし彼が言うには飛行機の免許ももってるらしい、彼を言い表すなら「便利屋」だ、確かに彼ならどこのパーティーでも上手くやっていけるだろうし、伝説に名を残したって不思議ではない
「ニックスとリヴィアもそういうのに憧れるの?」
そういうと二人はハッとした顔で俯き何も言わなかった、そりゃそうだ、誇りの為に命を賭けれる人間なんてそう多くないもんな
そんななかリオンが言う
「あんたはそこのバカみたいなのを目指しちゃだめよ」
「なんで?」
「なんでって、そ、そりゃあんたはまだガキだからよ、大した事を残せそうな人でもなさそうし、それに親が悲しむじゃない」
「ひっでぇ、俺だって何かしらの手柄は上げれるぜ!」
俺はリオンに笑顔でそういう、彼女は不服そうな顔をしながら窓の方へと視線を変えてしまった
前世なら唾を吐いてくだらないと笑う伝統だろう、でもいまなら不思議とくだらない物とは思えない、これはある意味の保険なのだ
死と隣り合わせの生活を送っていると当然、まともな人間とはおさらばなわけだ、大きな山場であるほど死ぬ確率ってのは当然上がる、だから死んでも皆の記憶の中で生き続けるという保険が欲しいのだろう
ジェリーが現場の廃墟の庭に車を止めて言う
「着いたぜ、だがまだ日は落ちてねえし早かったな」
「まあ、仕方ねえ!少し待とう」
リオンが車から出る。俺も意味は無いが車から出て寄りかかり空を見る。ぼーっとしてるとリオンがタバコに火を付ける、俺はタバコが大の苦手だ、あの煙を吸うと死が早まる感触がしてどうしても好きになれない。俺が嫌そうな顔をしているとリオンがこっちにタバコの吸い口を向けて言う
「あんたも吸ってみる?」
「吸わないよ、未成年だし」
「なあに、そんなの気にするタイプじゃないでしょ?」
「いやでも」
「ならいいや、つまんなーい」
彼女がそういってそっぽ向いたとき、俺は彼女の手を掴んでタバコを奪って思いっきり吸う、間接とはいえキスできるチャンスなんてそうそうない、逃したらもったいないぜ!
「ゲホッ!ゲホッ!グゲー!」
「ハッ!そんな一気に吸ったらそうなるわ」
そういって彼女はむせる俺の背中をさすって笑う
彼女いない歴=年齢の俺のファーストキスは灰の味、リオンのタバコと間接キスだった
一生残る記憶だろう、悪い意味で
日は落ちて月が見え始めたころ、工場は歓声で賑わっていた、これはだいぶ飲んでそうだ
「よし、そろそろやるぞ」
そういって皆で車に乗る
「んじゃ、皆頑張ってね」
「ああ、そっちもヘマすんなよ!」
短く別れを告げたあと、車を道に出す、工場まで一直線の場所まで来て体制を整える、千里眼で中を見る。やはり数は多い、30はいるだろう、緊張で手を少し震わせながらも銃のセーフティを解除し気を引き締める
「皆!掴まってろ!ヒャッッホウ!」
どんどんスピードは上がる、敵が工場の真ん中で酒盛りをしている男たちは迫ってくる車に気づいて皆逃げるも数人が手遅れになった
そのまま工場を突き抜けコンテナが並ぶ駐車場で車を横にして止めた
「全員出ろ!行くぞ!」
ニックスがそう叫ぶと車から出て装甲車を盾にして皆が銃を撃つ
奴らは何があったのかわかってないのかただ茫然としていたものの、すぐに状況を理解して銃を取った
さて、ドンパチの開始だ