1話 灰色の世界へ
こんなんになるなら地獄が良かった、、、
行く当てがなく途方に暮れ、人目のない路地裏でとりあえず寝床を探していた。
「兄ちゃん、金もってねえか?」
俺の名前は佐藤直斗、少し治安が悪い高校に通っているということ以外いたって普通の高校1年生だ。
珍しくその日は帰りが夜中だった。じゃんけんで負けて強制的にやらされた文化祭委員長の仕事の愚痴をボヤキながら下校していると、黒いフードを被った怪しい人と肩がぶつかった、しかし明らかに違和感があるお腹辺りに激痛が走ったのだ。
「痛ってええええ!」
おそらく通り魔殺人に刺されたのだろう、何回か刺されたのか同じ激痛が何回も走り体全体に伝わる、フード野郎はその後走り去っていった、
待てということも119呼ぶことも叶わずその場にうずくまってしまった。ああ、これで俺の人生は終わりなのか?せめて死に方くらいは選ばせて貰いたいものだ、、そして体の力が抜けて瞼を開けることすら難しくなりその場に倒れた。
もう人生終わった、、、
そう思ったが天国的な場所で神話に出てきそうな人間が来た、いかにも私が神ですと言いたげなオーラを放ちこちらに話しかけてきた。
「今回死んでしまったのは残念じゃった。君にはもう一度やり直す権利がある。もう一度やり直したいか?」
その言葉に俺は目を輝かせた
俺がずっと求めていた言葉だ、ラノベとか漫画でしょっちゅう見た展開だ、これから無敵スキルと富と名声を手に入れてハーレムを作るんだ!
俺は間髪入れず神に言った
「もちろんです!もう一度人生をやり直したいです!」
「本来貴様は地獄行きの人生だった、しかし今回死んだのはこちらの不手際だ、だからもう一度新しい命をやる、今度こそ満足の行く人生を送るのじゃぞ」
いや待て、なんで俺地獄行きになってるの?まあ確かに俺は堕落して生きてきた、毎朝ギリギリまで寝て登校する遅刻常習犯であり授業中によく寝る睡眠常習犯だ、そのくせ帰宅は異様に早い、早歩きで毎日帰宅RTAをしていた。その後はアニメ見るかゲームをするか、ただの陰キャだ。
そんなことを考えているうちに俺は眩しい光に包まれた
は?いや待てや、それだけ?俺だけのスキルとか武器とかないの?
「あの、待っ、、、」
全く酷い神だ、あれはきっと邪神だろう。そして俺は気づいたら乗り物に乗っていた、おそらくバスだろう、本当に俺は転生したのだ、ふと自分の服装に目をやると嫌というほど見てきた俺の高校の制服だ。鞄の中身を見るとその日の教科書やら水筒があった、あの日の俺の鞄の中身と一緒だ。
そして今は何時かと思いスマホの電源を入れた。2:30だ、少し期待していたものの当然圏外でwifiスポットも探しても無かった。ちくしょう、ネット出来ないなんて俺に死ねと言っているのか?
てかなんだこれ、普通こういうのって剣と魔法の世界に転生するんじゃないのかよ、これじゃあ少し前の時代に来ただけじゃねえか。
ふと周りに目をやる、しかしこのバス、俺の記憶にあるものとは全く違う、椅子は硬く内装も質素だ。
窓から外の景色を覗いてみる、5~6階建てのヨーロッパ風のアパートが並ぶ、装飾とか建築様式はとても美しい、芸術作品と言っても過言ではないだろう
しかし道にふと目をやるとゴミが散乱して至る所でホームレスが物乞いをしていた、建物はいいのにもったいない。
まあ長居する必要もないので俺はバスを降りた、財布の中身を見たら空っぽだったからな、先払いシステムのバスで助かったぜ、さてこれからどうしよう
とりあえず街を歩き回ってわかったことがある。まず言語の心配はない、日本語こそ通じないもののこの国の言語が脳に記憶されており読み書きも問題なくできた、あの神もしかして口下手なだけでちゃんと仕事してくれていた、邪神と言ったのは取り消そう。
ともあれとりあえず仕事を探すことにした。最も前世では社会の歯車になることを毛嫌いし生活保護か親のすねかじりをするつもりだったがこの世界に社会保障がある保障なんてどこにもない、仕事の募集のポスターを色々見た、俺ができる仕事はほとんどが工場労働者の仕事だった。まさに社会の歯車その物じゃないか。
それにまさに雇用条件がなめ腐っている、遅刻をしたら1/4減給だの12時間労働で休憩は30分だのそれに給料だって詳しく物価を知っているわけではないが衣食住分払ったら残らないじゃないか、わざわざ転生してまで社畜をする運命になるのかよ俺
途方に暮れいろんなとこを回っていると夜になっていた、まあそりゃそうだうまい話なんてそう転がってるわけがない、この世界の現実にぶち当たった絶望とこれからの不安にまみれ、休める場所がないか路地裏を歩き回っていた、
「にしても寒いな、、、」
日中はあれだけ暖かかったのに夜は冷える、冬用の制服とはいえ裾から冷たい風が入りこんできており生身に沁みる
かけ布団として新聞くらいほしいなと思っていたら4人組の男たちと会った
「兄ちゃん、俺たち最近の恐慌で失業したんだ、少し恵んではくれねえか?富の再分配だよ、な?」
DQNみたいな恰好の4人組は俺にカツアゲしてきた。正直怖い、こんな路地裏じゃ助けなんて来ないだろう。
「お金なんて一円も持ってませんよ」
「はあ?え、円?んなんだか知らねけど兄ちゃん痛い目見たいようだな」
「バカだなあ金持ちがこんなとこで何してるんだ」
そういってDQNは俺の鞄を奪おうとした、俺は全力で抵抗したが当然叶うわけもなく二人に取り押さえられ鞄を奪われてしまった。彼らは鞄を漁り金目のものが無いと分かったら顔を真っ赤にしてこちらに向かって汚い唾を吐きながら怒鳴った
「おいてめえ!なんで金ねえんだよ!」
「ちくしょう、今日は飯にありつけると思ったのに!」
「そもそも俺らが失業したのはてめえら移民が来るからだろうが!」
そういって俺は顔面にパンチを食らった、当然痛い、通り魔殺人に刺された時とは違うベクトルの痛さだ。抵抗しようにもできない
俺は奴らの感情の捌け口として何発かグーパンを喰らった
「うああああああ!!痛ってえええ!やめろ!」
とにかく叫んだ、なんでこう立て続けに痛い目に合うんだ、最悪だ
しかしこれ以上落ちることは無いだろうという考えが頭で回った時、その考えを深く後悔することになる。
「それにしてもこいつの眼球、インプラントじゃなくて本物じゃねえか?スモッグ汚染もされてないし物好きが買ってくれそうだ、臓器なら痕がつくけど眼球なら綺麗にいけるだろ、おい、スプーンをよこせ」
あら全く、脳が筋肉でできている人でもユーモア溢れる冗談を言うものなんですね。
「おう、悪く思うなよ田舎もん、金を持ってないとこうなるんだぜ、高い勉強代と思いな」
は?いやえ?うそだろ?ほら、はやく冗談だと笑って殴ってくれよ、しかし奴ら顔がガチだ。
全力でもがき顔をグラングランと回し抵抗した、しかし4対1だ勝てるわけがない、顔を3人がかりで抑えられ、必死に瞼を閉じても無理やり開けられ、ニタニタと笑う男の顔と悪魔のスプーンが左目と近づいてきた
「嫌だ!嫌だ!やめてくれ!ぎゃああああああ!!!」
そんな抵抗むなしく左目をえぐり取られた。またもや激痛が走った、手足をひっくり返った虫みたいにぐらぐらと揺らした、もう最悪だ、そして一人が言った
「てめえらサツだ!逃げろ」
そういって奴らは一目散へ路地裏の闇へと逃げて行った
そうして俺は警察へ腕を伸ばして助けてを求めた、しかし警察は助けるどころかこちらに見向きもせずに4人組を追いかけて行った。
嘘だろ、やっぱこの世界に社会保障どころか国家としてまともに機能してねえんじゃねえか?
俺は現状に再び絶望して目から血を流しその場に倒れ泣いた。痛い、体もそうだが目がとにかく痛い。
俺は、俺は転生して魔王を倒して、ハーレムを、、、
それから俺は意識を失った。