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静岡県丸ごと異世界転移  作者: さば缶
第2章 戸惑いと決断
5/15

動揺と情報の行き違い

 夕方に差しかかり、太陽の光が斜めから照らすようになる。

 街の中心部ではまだ余震のような振動を訴える人が多く、地盤が不安定になっているのではないかと住民たちが怯えていた。

 一方で県庁の広場は、衝撃的な報告でさらに混乱している。

「県境あたりに謎の獣がいるって本当か?

 しかも羽根が生えていたって話も……」

 誰かの問いかけに、職員が曖昧な返答しかできない。


「上から具体的な指示が下りてこない」

 職員の一人がため息まじりに答え、手元の書類をめくっている。

「どうやら道路網の先は別の世界なんじゃないかって話も出てる。

 でもそんな馬鹿げたこと、信じられると思う?」

 職員同士での雑談が漏れ聞こえてきて、近くにいた三島梓は耳をそばだてる。

 周囲では数人の市民が真偽を確かめるようにそこへ寄ってくる。


「異世界かどうかはわからなくても、未知の土地であることは確かよね」

 梓は冷静そうに見えるが、内心は大きく揺れている。

 幻想小説やゲームの世界にしかないはずの生物が、本当に目の前に現れているのだから、無理もない。

 しかし、今は対策を考える余裕が必要だと頭では理解している。

「このままじゃ混乱する一方だし、私たちも何か協力できることを探さないと」

 自分自身に言い聞かせるようにつぶやくと、遠くから大吾の声が呼ぶ。


「梓、翔太と一緒にいたはずだが、あいつどこに行った?」

 大吾が立ち上がったところに、ちょうど翔太が気まずそうな顔でやってくる。

「えっと、ちょっと聞き込みをしてた。

 県境まで行って戻ってきた人がいるって話だったから」

 そう言うと、翔太は視線を落として唇をかむ。

「でも、誰も確かなことを知らないんだ。

 ただ、謎の生き物を見たって話ばかりで……」


 少し離れたところでは、携帯電話が繋がらず困った様子の人や、非常用の水を求めて職員に詰め寄る人たちが入り乱れ、場が騒然としている。

 大吾は頭をかきながらうなだれる。

「これじゃあ手がかりが得られそうにないな。

 公的機関の指示もまだ混乱してる。

 もしかしたら俺たちが直接見て回らなきゃならんかも」

 梓はメモ帳を握りしめたまま、大吾と翔太を順々に見つめる。


「地図だってまるで役に立たないかもしれない。

 でもどこかに手がかりがあるはず。

 この世界がどうなっているか確かめよう」

 そう言うと、翔太はまっすぐな瞳で大吾と梓を見上げる。

「俺、無鉄砲って言われるけど、同じところで足踏みしてる方が落ち着かない。

 それで突っ走って後悔したこともあるけど」

 言い終えると息を飲み、体をほぐすように肩を回す。


 梓は何か言いかけたが、やがてわずかに笑ってから小さくうなずいた。

 大吾は「しょうがねえな」とばかりに肩をすくめる。

 今の状況は誰のせいでもないし、誰かが探りを入れるしかない。

 通行止めになっている県境のいくつかを回って、事実を確かめよう。

 そう心に決めると、三人は一旦、夕闇が迫る前に必要な物を準備するため、いったん解散して時間を調整することを約束した。

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