ep2.わたし耐え抜いたぞ、恥辱の日々を
■後神暦 1306年 / 春の月 / 星の日 am 09:00
「マぁマ、おなぁ、ふぃーた、まんま」
「あらぁ~アレクシアちゃ~ん、お腹空いたの~?」
この拙い発音でも言葉を聞き取るどころか意図を汲み取れるのね。
流石と言いたいところだが流石だわ、ママ。
「アレクシアは本当に凄いな! もうこんなに喋れるなんて」
そう、確かに凄い。何が凄いって赤ちゃんの吸収力だ。
生後一か月過ぎる頃には二人の会話の内容が理解できた、知らない単語も前後を繋げて大体の意味を予想できる。
子供の理解の早さを「乾いたスポンジ」と表現した人は実に的を射ている。
もし、わたしが前世でこの吸収力があれば有名大学にゲームをしながらでも合格出来ていたかもしれない。
ただ…前世の「わたし」を覚えているからこその弊害もあった。
思い返してもそれはそれは辛い体験だったわ…
今では第二の母親だと思えるけど、見知らぬ女性の胸にむしゃぶりつかないと生きていけないなんて思わなかったわ。
それにトイレ…分かっていてもどうにも出来ないなんて、恥ずか死してしまうかと思ったほどよ。
今では前歯も生えて離乳食、トイレだって自力で行けるようになったわ。
わたしは耐え抜いたのよ、あの恥辱にまみれた日々を…
「さぁ~アレクシア~パン粥だよ~、パパが食べさせてあげようね~」
「や~!!」
頼むパパン、「あーん」は止めて、わたしをあの日々に戻さないで!
「そんな! アレクシア! パパを嫌わないでくれーっ!!」
「大丈夫よモリス、アレクシアは自分でやりたいだけよ」
そう!それ!やっぱりママは解ってらっしゃる。
流石と言いたいところだが流石だわ。
この身体はまだ上手く力が入らないときがある、とにかく自分で出来ることはやっていかないと上達しない。
「凄いよアレクシア! こんなに上手にスプーンを使えるなんて! リタ、うちの子はやっぱり天才で間違いない! あぁ産んでくれてありがとう!!」
間違ってはいないけど、その言葉はどちらかと言えば子供が親に言う言葉では?
でも、ゲームのモリスは何を言っても肯定だけしてプレイヤーを混乱させる原因だったけど、家族として見れば過保護だけど妻も娘も愛する良い父親よね、温かくて恵まれた家庭だと思うわ。
―ねぇゲームのわたし、貴女もそう思ってたのよね?
だからこそ、わたしは早くこの身体を上手に動かして外のことを知らなきゃいけない。だって、いつその時がきたのか分からないけどゲーム開始時点でママは病が原因で死んだことになっていたから…
この世界が本当にゲームと同じ世界なのか分からない。
でも「アレクシア」に「モリス」、それに魔法。
ここがあのクソゲーの世界だって肯定する要素しか見当たらない。
だったら、ゲームで起きたことは、これから起きるものだと思って行動するべきだわ。
わたしの当面の目標は魔法を習得すること。
ゲーム内でアレクシアだけが使えて「神の奇跡」とまで言われた傷も病も全てを癒す魔法。それが使えばママを救うことができる。
わたしはゲーム通りに必ずあの力を手に入れて見せる。
ただ…ゲーム通りにはなって欲しくないこともある、攻略対象とは極力関わり合いたくない。何ならいないで欲しい。
ゲーム開始時期の高等学院へ入学前にアレクシアと接点があったとされる所謂、幼馴染の攻略対象は三人。
エラルド=ムスト
バレンティン=カルローネ
テオドール=グラッセ
もしゲーム通りだったとしても、こいつらには絶対に近づいてはいけない。
「そうだリタ、ムストさんの家の子も最近歩き始めたらしいよ」
…パパン、今ムストと申したか?
「エラルドくんね、聞いたわ。早くアレクシアとも一緒に遊べるようになると良いわね~」
「やっありあーーー!!」
わたしは渾身の力で叫んだ、しかしスカスカの歯では上手く発音できなかった。
この物語は別で書いている下記の小説のスピンオフになります。
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【ヒマを持て余した神々のアソビ】
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