#6 Hello World!
急に明るくなる。
目を開けると、そこには
切り立った崖が広がっていた。上から覗き込むと、ギリギリ地表が見えるか見えないかという高さ。
え?
こっからどうすんの?
UIを開いてマップを見る。
うわ、詰んだかこれ
ここから1番近い街【始まりの街】は崖の向こう側だし、その他の街は始まりの街のさらに向こう側だ。
とすると、リス地更新が出来ない。
でもリス地設定せずに死んだら、またフィールドに放り出されるのか?
それとも街に転送されたり?
デスして試してみてもいい。別にデスペナルティも初期状態じゃ大したことないだろう。だがまぁせっかくなら、ね。
ノーデス縛りで頑張ろっかな。
さて
初めて10秒もせずに行き止まったな。
……取り敢えず街に向かうか。リス地更新しない事にはどうにもならない。だが、崖を降りていく訳にも行かない。
確実に地面と融合コースだ。
…とりまステータス確認すっか。
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PN:U
Lv:1
職業:〘流離人〙
所持金:5000モネ
称号:無し
SP:0
体力(HP):20
魔力(MP):15
筋力(STR):15
持久(STM):15
防御(VIT):10
俊敏(AGI):20+10
器用(DEX):15
技量(TEC):20+10
幸運(LUC):15
心核:速技
装備
右手:初心の刀
左手:なし
頭:なし
胴:初心の衣
腰:初心のベルト
脚:初心のズボン
足:初心の靴
アクセサリー:無し
所持スキル
・『乱斬』
・『穿刃』
・『弐抜断』
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ふーん。まぁそんな感じか。スキルは最初からあるのが3つだけか。たぶんジョブ関係のものだろう。この弐抜断とかいう奴は、字面からして刀が2本装備できるようになってからだから実質2つだけか。
スキルの確認さえすればあとは見るもんそんなにないな。事前に少し調べたところによると、SPはステータスポイントの略で、スキル関係は任意で取得することは出来ないようだ。
今あるジョブスキルは、レベルが上がったり、ジョブチェンジによって上がったりするようだ。
その他通常スキルは、経験蓄積で入手するらしく、たとえば、走ることに関するスキルはたくさん走れば入手出来るらしい。そこは要検証だな。
さて、どうするか。
飛び降りでもするか?街があるのは崖の方向なんだよな。
てかそもそもなんでこんなとこに湧くんだよ…。
マップ的に後ろは山なんだよな……どしよ……
登ってみるか。
どうせここで立ち止まっててもどうにもならんし、せっかくのゲームだ。進んでみよう。
崖の端に立っていた俺は後ろに振り返る。途端に目に入るのは真っ白な山肌。そして白い衣を纏う樹海。肌寒さは少し感じていたが、まさか背後が銀世界とは思ってもいなかった。
「よし!気合い入れて楽しんでくか!」
そう意気込み、俺は森の中に足を踏み入れた。
〘エリア『月環樹の頂』に入場しました〙
UIにエリア入場アナウンスが現れる。序盤に入るエリアになさそうな名前だが気にしない。エリアに入場した事により、マップが更新され、新しい情報が追加された。
このエリアは、丘のような構造をしていてなだらかだが、この山脈の山々のうちの一つを丸々含んだ割と大きなエリアらしい。この丘の麓の山頂に近い側に更にもうひとつ、大きな丘‐この大きさなら山と呼んでもいいかもしれない-がある。
さっきも丘と形容したように、険しさはない山で、規模が大きくなった丘のようだ。中央のエリアは木が生えておらず、その周りの斜面が樹林に覆われているようだ。
俺は麓にいるのだろうが、向かうところがないので、とりあえず中央に行こう。
まぁそこまで離れていないはずだ。
………
……
…
15分程進んでる間に幾つかスキルを獲得した。
というのも、移動の間にスキル獲得についての検証をいくつかしようとした所、思っていたよりも遥かに楽に獲得してしまったのだ。
全てのスキルがこの調子で獲得できてしまうと、インフレ状態になってしまう。
なので、恐らく獲得するのに必要な熟練度がスキルによって大幅に違うのだろう。
この数分の移動の間で俺が獲得したスキルは3つ。
1つ目は、「軽業」。これは、わざわざ木に登って、忍者のように枝から枝へ飛んだり跳ねたりをやった結果だ。
最初は難しかったものの、慣れてくればそれなりのスピードは出てくる。
スキルを取ったあとは楽で、常時発動スキルである「軽業」のシステム補助により、普通に走るのと同等以上のスピードが出るようになった。
このようなパッシブスキルは、体が勝手に動くとかではなく、思考に「こうすれば上手く着地できるよ!」と直接訴えるみたいな感じで補助が入る。
邪魔にならなくていいね。
2つ目は、「呼吸法」だ。ネットでよく見る、鼻から吸って口から吐くとか腹式呼吸とか、みたいなのをやっていたら獲得出来た。
決まった呼吸法をやると、攻撃と俊敏にバフが乗るらしく、動きに合わせて呼吸することで、より強まるらしい。
3つ目はっ……と、これは……
俺の耳と目が、進行方向に異常を発見した。この白一色の世界の中で、雄々しい勢いで向かってくるものがある。
初めての戦闘かな?
いや、どうだろうか。進行方向である、丘の上から雪の粉塵を上げながら走ってきているのが見える。あれは多分…鹿?かな。
通常MOBには、モンスター以外にも野生生物はしっかり居るらしいので、野生生物を倒すのは戦闘に入らないかもしれない。いや、あれはモンスターか。激しく存在を主張する金色の角が見える。普通では無さそうだ。
ふむ…あれは、鹿か?純白の皮と深紅の瞳。なによりも、雄々しく黄金に光るその角が最大の特徴。原生種とは思えないし、モンスターで間違いないだろう。しかしあれはどういう原理で光ってるんだ?まぁそういうものか。
まぁいい。初の狩りだ。
猛突進してくる金の角を持つ白い鹿を見据えながら、刀を構える。
どうやって対処しようか。下手にやると、攻撃を喰らったり、逃げられたりしてしまう。初期の武器は、刀2本だ。装備は1つしか出来ない。
そうだ、投げるか。
思い付いたら即実行。どうせ後では使えん。しかしただ投げるだけでは意味が無い。
とある目的をもって、俺は刀を鹿にではなく、上へ投げる。そして直ぐに装備を切り替え、2本目を装備する。
走ってきている鹿の速度は、尋常ではない。普通に正面から見合えば即潰されるだろうし、かと言って避ければ攻撃が当たらない。
じゃあどうするか?減速させればいい。さっき投げた刀が、たくさんの葉をつけた枝を複数本切り落とし、枝が落下する。
あの速度では、急な進路切り替えはこの木々の中では、もっと命取りであろうし、そのまま突っ込むしかない。そうすればこちらのものだ。
進路を塞ぐように落とした枝に足を取られ、少し転びかけるも、体勢を立て直す鹿。しかし、こちらの想定通り、だいぶスピードが落ちた。
「さぁ、スキルの試運転に協力してくれっ…!」
『穿刃』ッ
俺の体が刺突モーションに入る。
さっきまでの速さだと、スキル発動中に角が届いてしまう。
だがこの速度なら、その金色の角が俺に届く前にこちらの攻撃をぶつけられる!
喰らえ
俺の刀と角がぶつかり合い、鹿は大きく仰け反る。
最良のタイミングと角度で相手の攻撃に自身の攻撃を合わせた時に発生する、攻撃力やスピードに関わらず、自身の攻撃が優先されて相手の攻撃が跳ね返されるシステム、所謂弾き判定が出たようだ。
完全に勢いが止まれば、こちらが一方的にダメージを与えられる。
仰け反った隙に2撃。硬直から復帰した鹿の、角の振り上げを身を反らして避け、足に一撃。
そして、突進準備モーションに入り少し止まったところを、角を掴んで背中側に躍りでる。
そしてスキル発動
『乱斬』
スキルによる高速の斬撃が、急所である首を襲う。1、2、3、4、5!!
多くの攻撃を受け、思わず俺を振り払おうとするが、そんなことは構わず、角を掴みながら首に斬撃を浴びせる。
振り払いモーションによって落とそうとするも、上手く乗りこなしながら、少しずつ攻撃を与えていく。
そうしているうちに、もうこいつの命は尽きるだろう。
尽きる、尽き、え、しぶとくね。
………………
…………
……
そして斬り続けること約30分。
「はぁ…はぁ…やっと……やっと死んだか…」
ようやく最後の一撃をあびせ、金の鹿は首からポリゴンになって散った。
そういえばまだ俺のレベルは1しかない。上手くはめ技を使えたとはいえ、俺の攻撃力ではHPを削るのでさえ精一杯だったようだ。ずっともがきモーションのままで助かった。
〘レアモンスター【天光角の白鹿】を討伐しました〙
〘レベルアップしました〙
〘スキル【天ノ叛逆】を獲得しました〙
〘アイテム【終ノ光刀】を獲得しました〙
〘称号【超成長の器】を獲得しました〙
ふぅ……別に大変じゃなかったけど、メンタルが疲れる初試合だったな。
さて!戦利品確認の時間だぜ!
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PN:U
Lv:17
職業:〘流離人〙
所持金:5000モネ
称号:【超成長の器】
SP:105
体力(HP):20
魔力(MP):15
筋力(STR):15
持久(STM):15
防御(VIT):10
俊敏(AGI):20+10
器用(DEX):15
技量(TEC):20+10
幸運(LUC):15
心核:速技
装備
右手:初心の刀
左手:なし
頭:なし
胴:初心の衣
腰:初心のベルト
脚:初心のズボン
足:初心の靴
アクセサリー:無し
所持スキル
・『乱斬』
・『穿刃』
・『弐抜断』
・【天ノ叛逆Lv1】
・「軽業Lv3」
・「呼吸法Lv2」
・「走行Lv3」
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うおっ
めちゃくちゃレベル上がってる
そんなに経験値もらっていいんか。
というか、すごい大層な名前してんのな。コイツ。
貰えたスキルとアイテムもすごい名前だし。
よし。ステータスポイント割り振るか。というかこんないっぱい貰えるんだな。ラッキー。
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SP:105→0
体力(HP):20
魔力(MP):15
筋力(STR):15→35
持久(STM):15→25
防御(VIT):10
俊敏(AGI):20→60
器用(DEX):15
技量(TEC):20→55
幸運(LUC):15
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正直ステ割は適当だ。ステータスについても多少調べたが、唯一あまりよく分からなかったのは技量だけ。公式によると、自分の体の制御がしやすくなるらしい。まぁ振っといて損はないだろう。
装備の為に筋力、1人で継続戦闘する時の安全性のために持久、そしてプレイスタイル的に俊敏と、適当に技量。って感じだな。
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称号:【超成長の器】
効果:レベルアップ時に獲得するステータスポイントが1増える
備考:最初のレベルアップで15レベル以上レベルアップした貴方は超成長型です。将来の成長が楽しみですね。
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んぇつんよ
めちゃくちゃアドバンテージじゃないすか。相当ラッキーだなこれ。
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アイテム:【終ノ光刀】
効果:特定のモンスターに対する特攻及び夜行性のMOBへのゲージ性の特攻。
備考:自身の誇りを傷つけたこのエリアの王に反逆するため、王の弱点である日光のエネルギーを己の角に結晶化させた、反逆の化身の角から造られた刀。
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おお?特定のモンスターへの特攻?備考欄から見ると、エリアボスに対しての有効打になりうる武器ってことか。
このゲームにおいて、エリアボスとは次のエリアに進むのを阻む門番的な機能として存在するらしい。そう考えると、割といいアイテムなのかな。
【天ノ叛逆】は……ふむふむ……そういう感じね
よし!確認も済んだし、また進むか。
返信には長すぎるかつ設定に関連する部分を追記
実はこのエリアには、日光の力を貯める天光角の白鹿の他に、月の光を貯める種もいます。
エリア「月環樹の頂き」は、月のエネルギーを源とする種が食物連鎖の頂点に君臨していて、マップ全体が月光エネルギーを吸収及び再放出しています。
ですが、そもそも月光エネルギーや日光エネルギーの概念(本質的には少し違いますが)が発生したのが、時間の流れの中のとあるワンポイントであり、それ以前は、日光の鹿と月光の鹿は同一種でした。
この月光エネルギーが漂うエリアに適合したのが、月光エネルギーを結晶化する種。適合した方が生存が楽なので母数が多いです。
そして日光エネルギーを結晶化する種は、適合を拒むどころか、真逆の環境への適応を行った特異な種です。
そのような種のことを反環境種と呼び、エリアボスへの対抗権を持ちます。
どのエリアにもこのような種が発生する確率が存在しており、なんならエリアボスに成り上がった反環境種もいます。
ですが勿論、環境に適合しなかった種であるので生存の難易度が上がり、絶対数は非常に少ないです。
主人公が首チョンパした鹿も、限られた日光をせっせと集めて結晶化した角を持っていました。
月光エネルギーの環境なので、日光エネルギーを集める難易度は高いです。
憐れですね。