#74 囚世:乖離虚域 part18
前話の描写をちょっと加えました
【天理融活の踏】
足で踏みつけモーションを行うと、足が触った物体の速度or速度ベクトルと自分の速度or速度ベクトルが統合される(任意選択)。足場が動いても動いていなくても使えるが、足での接触が必須。
なので、「自分に向かってくる足場を踏み、反対の速度ベクトルを統合することで打ち消しあって減速」とか「動かない壁で跳躍して速度維持」などが出来る。あくまで跳躍の延長のスキル。
AGIではなく速度が統合されるので、初速が速ければ速いほどその効力が強くなる。
速度が統合され場合、そのあとの進行方向はジャンプの踏み切りによって決まる。普通に真上に踏み切れば上に飛ぶし、明後日の方向に踏み切れば明後日の方向に行く。
足に触れた1物体が足場となるので、足が触れてから離れる瞬間までその物体の座標が固定される。
幻龍と交戦していたシーア。突如、真上から到来した一筋の光が幻龍を貫く。
そこに訪れた衝撃の波が、彼の思考を一瞬停止させる。
目前を通過した弾丸の様な挙動のそれ。目の前を通過して始めて音を知覚したことに対する驚き。「マジか!」と驚愕の声が洩れるのも不思議では無い。
そして何より、空中で軌道が折れ曲がった事実。
初見で音速を制御出来るものなのか!と、Uの持つその実力を熟知していても溢れ出る驚きと笑い。
「なっ───更に速くなるの!?………はは、巻き込まれないように離れておこうかな」
そして止まらない加速。恐ろしい加速度で指数関数的に伸び続ける速度により、跳ね回るスーパーボールのような挙動と共に幻獣達を翻弄しているUを見てそう零す。
一時的に闘技場は、彼の独壇場と化していた。
◇
一撃目が幻龍を貫き、今の俺はその真下。地面へ頭突き(不本意)をかまそうとしているその瞬間。しかし、果たして地面のシミになることは無い。
【天理融活の踏】は『跳躍』から進化したスキル。それ故に、効果は大きく異なるものの発動形式が同じ。
つまりは、一定時間に効果が及ぶということ。
2度目の効果発動、今度はシュヴィを足場にして前方へジャンプ。屠龍のリザルト《生死》を確認する暇はない。シュヴィは恐らく文句を言っているだろうが、その音が俺に届くことはない。
速度が統合されスピードは2倍、再び伸びる世界。加速する度に溢れ出す全能感に、俺はもう慣れ始めている。
もはや視界で世界を認識することが不可能となった今、俺は勘頼りの境地へと到達。背中から【光喚】を翼の様に展開し、出来るだけ大きく広げ減速を試みるが、減ることの無いスピード。
考える前に動く身体、そして歪なステータスビルドの上に積み上げられた技量値が、細かな制御を補助している。
狙うは幻象の足、貰うぜ2本目!
足がシュヴィを踏み、跳躍した瞬間から『アクセルストライク』を発動、大幅にある距離が刹那縮まり、振るタイミングと接敵がちょうど噛み合う。
全動作において極精密な動きが必要なこの状況下、不幸中の幸いであったのは深斧とシュヴィ以外の武器を全部ロストしていること。取り出すのが非常に楽だよクソッタレ。
「─────!!」
斧が太い支柱を断ち切る感覚。1本───いや、2本行ったな。
象が2度目に地に堕ちるのを、目で見えずとも感じる。更に加速を重ね、もう自分でも何が何だか分からない。
投擲で斧を壁に刺し、着地し足場にして跳躍。上に投げたシュヴィが落ちるタイミングで着地して跳躍。ジャンプの方向を精密に操作し、ベクトル変更を行う。
地表スレスレで跳び龍を切り裂き、往復し象を蹴り飛ばす。
跳ね返り、天と地を踏み、毎度加速していくその果て。刹那の間に、闘技場が俺の軌道で埋まる。余波で幻獣の体表を削り、かかるGを『立体機動』のスキルでなんとか軽減するもHPが低下。
しかし止まることなく、いや止まれずに、俺は見えない世界を駆け巡る。
周囲の壁が割れ、地表が割れ、装備が割れ。
──────重ねる加速。伸びる世界。重ねる加速。
スキル効果が終わるまであと1秒。
0.1秒経過、その僅かな間に跳ねるように闘技場を何度も往復する。翼により起きる空気抵抗が常時身体を叩きつける。
0.3秒経過、シュヴィと深斧を交互に足場とし、円形闘技場を周回しながらモンスタードロップを落とし、途中で逆方向に切り返して踏み台にし、逆向きのエネルギーで相殺していく。
0.5秒経過、反射による移動途中に置いたものの、意図的に使わなかった斧を踏み台に上空へと踏み切る。
1秒経過、効果が切れた俺は今、上空へと飛び立った。
「どうやって止まろう!?!?」
問題が生じた。
◆
「どうやって止まるつもりなんだよあいつは」
闘技場の隅っこに避難したシーア。傍から見ると、より鮮明になったその挙動、規格化なそれが対価無しである訳がない。煌光の一筋が、反射を繰り返し視界を埋め尽くした。
加速を重ね───いや、加速をしなければ死ぬ状況だったUに加速の制限が訪れた今、残された選択は死のみである。
何とか最後の踏み込みで真上に打ち出されたらしいU。もう地表からでは見えない高度まで達している。
「!!起きるのか!硬いな本当に!」
再び揺らりと飛行を再開する幻龍に瞠目する。あれを喰らって、まだ飛べるのか、と。
だが好都合かもしれない。少なくとも幻象が起きてこないのであれば──────
「───良かったんだけど、お前も起きるのかよ。足、1本だぞ?どうやって……」
それが伝説であるが故の意地か。
幾度となく立ち上がる2体。非常に消耗しているのが見て取れるが、命を燃やし動いている。
「Uはもう頼りに出来ない。俺1人で幻獣2体、やれるか?いややるしかないか。」
プロの手腕の見せ時か──────
◆
「どうしよう!?死ぬ!?死にそう!!」
『マスター、おち、落ち着いて下さいマスター。この私は絶滅危惧種で、貴重なアレですどうか私だけは何とかすることを要請しますマスター』
「お前も落ち着け!」
未だ高度は上がり続けるものの、速度は著しく低下しているのが分かる。緩やかになる速度、落下死はすぐそこだ。こんな頑張ったのに、落下死なんてしてたまるかよ!何か手は!?
『この際、私を足蹴にしたのは容認しましょう、だがマスター!もしも私が死んだら必ず貴方を呪縛───』
「ええいうるさい!今考えてんだよォ!!」
スキルはほとんどクールタイム、【光喚】で羽ばたこうにも既に光の大半が消滅して弱まっている。
【天ノ叛逆】なら───いや、時間内に速度を落とせねぇ。
『まままままマスター、落下開始を観測!マスター!』
「分かってる!お前もなんか案出せよ!?」
『それは命令ですか!?』
無用な問答をしている時間にも既に加速は始まっている。衝突への直行便だ。てかシュヴィはインベントリの中入れば何とかなるだろ!?案出させる為に出したのに全く使えねぇじゃねぇか!
「命令だ!」
『──────ふぅ。命令容認。マスター、私の行使を推奨します』
「はァ!?この期に及んで何言ってやがる!撃てねぇだろ!?」
迫る地表、あと数秒で死が訪れる。
回る思考がシュヴィの妄言に止まった。
『いえ、強行します。少し命を貰いますが』
自信がある、という感じのシュヴィ。
なら俺はそれを信じるか。
「………ああ、分かったよ!どうせ他に手は無いしな!なる様になれだ!頼むぜ!?」
どうせ死ぬのは俺だけ、覚悟担当の役割を果たしてやるよ!
『エンコード開始』
シュヴィらしい声では無い、システム的な無機質音声へと変わる。そして紡いでいくのは、その工程。
『|物質具現化《Materialization》ソース:【光喚】【天ノ叛逆】』
『移行───砲撃形態』
『使用許諾要請───〘認証〙』
『起動完了』
銃身のその先端に、光が集まっていく。
眩い光を放つそれは、ある種の神々しさと「技術」の集合としての威容を内包していた。
銃身に紋様が浮かび上がる。準備は整ったらしい。
地面まであと数十メートル。機が到達する。
『|御命令を《As You Wish》』
俺はトリガーを引いた。
「撃てシュヴィ!!!」
『|承諾《Order Accepted》』
その銃から放たれるは、大河の如き溢れ出す光の奔流。
その鉾先は幻象へと向かう。
あまりの眩さに、目がくらむような心地。
その瞬間、視界の全てを煌光が呑み込む。
そして世界は白一色に染まりあがった。
やっとシュヴィ撃てた!
本当は6話くらいに撃つつもりだったんだけどなぁ!!
いやぁ長かった!
いつも感想ありがとうございますモチベになってます
今日も下さい(感想乞食)




