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New Eternity Online -PSだけで往く新世界-  作者: Amane Rinne
古代の枷は楽園を衛り、抑えられた羽根は再び拓いた
76/79

#73 囚世:乖離虚域 part17

好きな数字は73


 象型エネミー。

 様々なゲームでちょくちょく見かけるコイツだが、物理法則完全再現なNEOにおいては、明確な弱点が存在する。

 

 重力再現があるこのゲーム。端的に言うと、重いエネミー(クソデブ)の最大の敵は、自重によるダメージだ。柱のように太く硬い四足で、何とか体を支えてはいるものの、その巨体の質量は、自身をも殺しうる。


 例えば象が横たわっている時。


 その間、巨大な質量がずっと腹部にかかり続ける。内蔵の負担は計り知れない。

 

 現実世界(リアル)の象ですら、それが死因と成りうるのだ、その数倍の巨体───数十倍の質量をもつ幻象ならば、自重で内臓が潰れる可能性もある。それで死んだら俺は笑う。

 

 だから、さっき倒れた時に相当ダメージが入っていてもおかしくは無いのだが…………そもそも、象ってあんな簡単に倒れるのか?リアル象を転ばせたことねぇし判断がつかない。しかも超巨大な象が思ったより呆気なく倒れたのは心底意外だ。

 

 もしや……見た目に反してあまり質量は無いのかもしれない。

 いや、思考は後回し。攻撃が先決!

 

 もちろん狙うは──────

 

「シーア!足だ!!」

 

「OK分かってる」

 

 奴の生命と行動の要たる(支柱)。高さは約25m程。

 それを削ぎ、二度と動かさせることなく、そのまま自重で死なせるのが最高効率。とても面白くないクソゲー(理不尽)だが、これも戦法というもの。相対するのは象だけでは無い、(理不尽)も居るのだ、卑怯とは言うまい。

 

 それに死んだら文句を言う口も無くなるしなァ!

 

「最低1本は貰うぜ!俺はコレを柱に家を建てる!!」

 

「なんとも悪趣味……

 伝承任意解釈(テリングインタプリト)───【不動なる是せる大地(スタヴァラ)】」

 

 【光喚】発動。

 煌光を圧縮し大剣に変形、象の足を切りつける。が、明らかにダメージが入っていない。斧と同時に切りつけても、ポリゴンが少し吹き出るのみ。


「チクショウ、光の強さが分からん!」

 

 最近思っていたのだが、俺、火力が足りていなさすぎるのではないだろうか?いや、でもアクセルストライクで倒せたぞ………。ブレがデカイのか?


「うおっ」


 揺れを感知。少し転けそうになったら体勢を整え、攻撃しながらも背後を見ると、シーアが地面に手をついている。


 それはさながら口寄せ(サモン)の様相。そして地面が揺らぎ、そしてそこから像───女神像らしきものが出現した。圧巻、神秘的なそれが腕を掲げた。


 その手中から現れるは一振の剣。巨大な像に見合った大きさ、巨大な象さえも切断しうるそれ。何製かはよく分からんが、明らかに強力。


「おぉ」


 轟音。

 その手に持っていた巨剣を薙いだ女神像、刹那象の足の膝から下が斬り落とされる。吹き飛んだ足がポリゴンとなって空気中に霧散する。


 ──────パォォォォォン!!!


 象が鳴く。痛みに悶えているのだろうか?俺の時はスタン入ったのに何故か今回は入らない。慣れたのかな。

 その役割を果たした後、女神像は地中へと消え去っていく。


「強いなぁ」


「特攻だからね、運が良かったよ象関連の神話ストックしといて」

 

「ほん?そういう感じなのか」


 どうやらスキルが象特攻だったから効きが良かったらしい。果たしてそれが強いのか?それ。まぁこの状況(シチュエーション)においては非常に有用だ。


「!?」


 少しの油断、気が逸れていた所に龍が突っ込んでくる。高くない精度、避けるのは容易だが──────


「───本気?」


「はァ?」


 避けている際の一瞬、俺とシーアの視界から幻象が消失した。意識外の存在になった。そしてその巨体が過ぎ去ったのち、目に入るのは驚愕の光景。

 一筋縄では行かないことは分かっていた、だがそれは無いだろ!と俺は言いたい。


「はは、なんで立てんのさ。俺、足切ったし龍に集中するつもりだったんだけど」


 そう零すシーア。俺達の気持ちは一致しているらしい。


「なんで足ねぇのに立ってんだよ!!!?」

 

 

 ◇

 

 闘技場内を疾走している俺の背後に、迫り来る象。巨体に似合わない───あるいは巨体であるからこその俊敏な走りに、肝を冷やしながら壁へとラン。

 

 着いて直ぐに【壁走り】を使用、数秒間壁の上を走り抜け象の上部まで到達する。

 

「──────!オラァ!!」

 

 【フラッシュリフレクト】と【アクセルストライク】を併用、薙ぐように振り上げられた象の巨大な鼻を強引にパリィする。


 勢いを殺しきれず壁に突っ込んだ象。その牙が壁に突き刺さる。引っかかり少しの時間スタンしたらしいその頭の上に乗り、斧を幾度となく振り下ろす。

 気分は炭鉱者だが、得られる手応えが少ない。


「ならもうちょいギアを上げるか」


 火力が足りてないことなんて、最初から分かって居ただろう。だから、今の俺に必要なのはそれじゃない。俺の役割はそれじゃない。


 結局は、龍と象を倒せれば良いのだ。


 火力が無いなら、俺は技術だけで殺してみせる。


 

「───」


 象の背から飛び降りる。

 およそ高さは40m、下手すれば即死。落下ダメージを防ぐため、斧を引っ掛け減速しながら象の後ろ足を滑り降りる。


 少し距離をとる。

 その間に、牙が壁から外れたらしい幻象が後ろを向く。


 恐ろしく巨大な質量故、足踏みをする事に地面が揺れてヒビが入る。正直、デカすぎてビビってはいるが、ドバドバ出るアドレナリンが何とかしてくれている。


 ………よし、行動のイメージは出来た。あとはそれを上手く実行するだけ。



「ふー」



 脱力。

 そしてタイミングを待つ。










「『跳躍』ァ!!」

 

 幻象が走り出した瞬間、後方上への跳躍により眼前へと飛び出す。

 俺を轢き殺さんと動き出した幻象のその速度は早い。


 まずはクールタイムが上がった『フラッシュリフレクト』を発動、『投擲』によって滅光の深斧を投げ、進んでくる幻象の牙に命中させる。


 1秒が経過。

 衝突寸前の所でパリィ判定が発生し、幻象の運動エネルギーが相殺。弾かれたように動きが止まった幻象だが、そんな状態でも俺を殺そうと、首を使い鼻を大きく動かす。


 象の鼻。力強さとしなやかさを兼ね備えたそれは、全身が筋肉が組成している。その威力は容易に人を吹き飛ばし、勢いが付けば現実の象でさえ軽自動車をも吹き飛ばす。

 その数十倍の質量と大きさ、筋肉量を誇る幻象のそれは、かするだけでもプレイヤーを即死させうる。

 遠心力を伴えば、その速度は恐ろしく早まる。





 ──────集中






 ──────集中










 俺の思考は今、極限まで集中している。迫り来る鼻を目の前に、見極めるのだ。その瞬間を。


「『サイド───」








 ─────────今!!!


「──────スライド』」


 鼻の先が足に触れる寸前、本当にギリギリの触れた瞬間。

 足が触れてからダメージを受けるまでの、刹那を上回る極微小の時間。

 

 そこに、『サイドスライド』を差し込む。


 1mを慣性無視(・・・・)で移動するこのスキル。その仕様の隙を付くのだ。慣性無視という効果を物理法則下で発生させる為には、運動エネルギーを一時的に消失させる必要がある。

 象の鼻が俺にぶつかった瞬間発生する撃力。それをスキルにより一時的に消失させるのだ。移動中にのみ消失する撃力。

 

 それにより、極微小時間のみ有効な特殊形態の無敵効果(スーパーアーマー)が実現する。

 

「───!!」

 

 ダメージは無効化した。だが俺の狙いはそこでは無い。

 本質は、1mを移動する点。その速さは然程ではないが、しかしそれによって可能になる現象がある。

 

 象の鼻と俺の相対速度が一時的に軽減された今、足と接触している鼻が「足場」と成りうる。

 そして『跳躍』は未だ効果時間中。 


 移動が終わり、再発生する撃力を技量ステータスにより無理矢理自身の運動エネルギーへと変換。

 高速の鼻に跳ね飛ばされ、高速移動と撃力と跳躍の効果が重複したことによって俺は。

 

 

「来たな衝撃波(ソニックブーム)!!!」



およそ音速(マッハ)に到達した。そこは前人未到の境地──────




その刹那、俺の視界にて世界が歪む。

あまりの高速、認識する前に全てが過ぎ去っていく。


音から解き放たれた無窮の地へと到来。あまりの速度に、世界が引き伸ばされていると脳が錯覚を起こす。


1つの物理的限界を突破したことで溢れ出す全能感、新しい人間に生まれ変わったかのような新鮮さ。その情報が五感を撫でるのと同時に俺の身体は動き出している。

 

インベントリを開けば、そこに居るのは滅光の深斧(相棒)。俺へと永久帰属するそれは、俺に伴って音速へと到達する。


取り出したそれをその場で()()()俺は、丁度進化しクールタイム(CT)が消失したそれを行使する。


「【天理融活の踏(ロジックマニピレイト)】」


跳躍がLv10へと到達した事により、進化したスキル。極限状態下に進化することで生じる特殊な進化形態により大幅に生まれ変わったそれ。使用した瞬間発生する現象により、その能力(真価)を理解する。


慣性に投げ出された斧。空中で体を折り曲げ、足の裏で斧を蹴る。その瞬間、斧の速度が俺の速度へと()()()()()


その効果は、足場のエネルギーを自身へ移すというものらしい。


音速の斧のエネルギーを獲得、音速以上に速くなった俺が再び到達するのは更なる境地(マッハ2)。移動が知覚を超越する。


踏み込みによってベクトルを変更、マッハ2へと到達した俺が狙うは幻龍。


刹那にして頭上に到達した後にベクトルが下に向いたことにより、重力の神助が加わり

 

「『飛牙』ァ!!!!」

 

 波を伴う音速の貫手が龍を貫く。

 その手は屠龍となりうるか──────

 

 





 〘*ワールドアナウンス*全プレイヤーの皆様にお知らせします。〙

 

 〘*ワールドアナウンス*偉業達成!前人未到の境地へ到達したプレイヤーが現れました〙

 

 〘*ワールドアナウンス*プレイヤーネーム【U】〙

 

 〘*ワールドアナウンス*称号【遙か無音の果て】を贈呈します〙

いえーい音速やぁ技巧派だねぇ


ちょっとサイドスライドに関する作者の理解度が不足していたので補足


元々このスキルは移動中のダメージ無効化(ローリング的な)がありますが、移動中に攻撃を受けると、慣性無視を保つ為に攻撃の際受ける運動エネルギーも消失します。

しかし、運動エネルギーを受けてからダメージ反映までの極小時間に差し込むと、運動エネルギーを消失させることはないままダメージのみを無効化出来ます。


発動前に外から受けた運動エネルギーは移動終了後に再び発生します。しかしダメージは既に消失しているので、受けるのは莫大なエネルギーのみ。それが足1点に集約されます


それを象の鼻先が生む遠心力と跳躍の力を合わせて、技量ステータスの効果によって最大限速度に変換すると音速突破が出来ます。


まぁとはいえ初速に過ぎないので、空気抵抗でそれなりに減速しますが


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― 新着の感想 ―
[気になる点] え?いや、えぇ?スキル補正無しで音速を認識して貫手ぇ?すっげぇ(語彙力) [一言] 音速の領域なら死ぬか
[気になる点] え?いや、えぇ?スキル補正無しで音速を認識して貫手ぇ?すっげぇ(語彙力) [一言] 音速の領域なら死ぬか
[一言] か、かっこいい... スキル名もモーションも... 人間離れした動きは読んでて楽しいです! それはそれとして膝下ないのに立ってる象イメージしたらめっちゃ面白かった。
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