#71 囚世:乖離虚域 part15
つかれたん。
聖女が過去を語っている最中、その死闘の熱量はさらなる盛り上がりを見せていた。
「土精霊!壁!」
灼熱を纏った幻鳥。その突進を、幾つもの壁を出すことで対抗する。一つ一つは脆い土の障害物だが、重ねることで意味のある壁へと変わる。
易々と嘴がその壁を貫いたが、若干速度が下がりパリィが可能となった。
「【須臾引延】!!!」
スキル効果により、パリィ判定の有効時間が延長される。
風を纏い速度を増した短刀により、嘴を上に弾く。
何とか攻撃を凌ぎ続ける。少しづつ回復をし、生命を繋いでいく。
「!!」
背後から、古兵が大剣を振り下ろしてくる。
身を翻し、寸前で避ける。
その硬直を狙い、胸の紅玉に手を伸ばすが──────
『──────Pyooooo』
「っ!?あぶっ!」
空から聞こえた鳴き声に、反射的に身を引くと、そこに灼熱の焔が降り注いだ。元はその嘴、火炎放射により古兵の大剣が熱されたチョコレートのようにドロリと溶解する。
離れていても届く熱波に少し体力が削れる。
(でも今がチャンス!!)
「【神髄解放】───【緑】!!」
風の効力を圧倒的に強め、炎を切り裂く。
手が通るだけの穴が空く。そこに手を突っ込み──────
ガッッ、と胸の紅玉を掴み、抉りとる。
幻鳥によって弱った所を突くのが、最適解なのだ。
「よしっ、コレで!」
──────ピコン
(2/2)という表示。何度も死にかけ、古兵は何度も全滅した。その末、幾度と無い極限の上にこの結果が成り立っている。
ようやく、奉納をクリアした。
システムUIが更新される。『幻核を奉納する(2/2)』という表示が『光の元に立ち儀式を開始する』へと変化する。
(フィールド中央の光か!?)
心当たり。迷っている暇は無い、終わりはすぐそこなのだ。死が迫っている状況下をなるべく早く抜け出したい。
空中から再び迫り、その鉤爪で掴み取ろうとしてくる幻鳥を転がり避け、中央の光の元へ転がり込む。
その光の範囲の身体がスッポリと収まった瞬間、筒状の結界がAliceを包囲した。
突っ込もうとした幻鳥が何度も結界に阻まれ、跳ね返される。システムによる強制力が働いている。
「はは、アハハハっ!!やっっと終わったぁ!!!ザマー見やがれ鳥ヤロー!この私を手こずらせやがって!!セルフ焼き鳥メーカー風情が人間様を火傷させようとしてんじゃないわよ、バーカ!!」
システム由来の絶対的な安全圏内に入り、Aliceの緊張の糸が切れた。
煽る。
自分が安全であるから、惜しげなく煽る。
そこに悪意は無い。極限を乗り越え苦労が終わり、純粋な素が出た。ただ鬱憤を吹き飛ばさんとするように。
ジュゴン:Aliceさんがおかしくなった
美琴:純粋な少女設定なのに、めっちゃ言うじゃんw
「みんなぁ、やっとクリア出来たよ!!あのクソ鳥を乗り越えた私の勇姿、見てた!?あっ──────」
キャラを超越して素が出過ぎてしまった感覚。はしゃぎ過ぎてしまった、「やっちゃった」思う。自己を省み、何だか急に恥ずかしい気分になった彼女は顔を赤らめた。
「ちがっ、今のは違くてぇっ」
匣錬:前から怪しいとは思っていたけど……w
卍ガーZ:化けの皮剥がれとって草
完全に安心しているからこそ、彼女は気を抜いていた。
だからこそ、それが完全に予想外であった。
〘エリア内に障害物が存在するため儀式を中断します〙
「───え?」
蜜柑:え?
オミミミクロン:ん?
Alice様の奴隷:え?
築偢:あ
Aliceを囲っていた結界が消える。
「ッッス」
再び幻鳥と対面。それを阻む壁は無くなった。彼女の安全保障は喪失、幻鳥にとっては煽り厨征伐の好機。
視聴者とAliceの思考がシンクロする。
すなわち、「「「終わった」」」ということである。
残りHPはミリ。回復をしようにもMPは欠乏。精霊は殆ど消耗しているため、既に召喚を解除している。
逃げようと及び腰になったAliceは、躓いて転んだ。
急いで起きあがろうとするも、身体が動かない。UIを見れば、〘一時的制御不可〙──────つまり腰を抜かしたという異常状態表示。
うずくまったAliceにのっしのっしと巨体の幻鳥が歩んでくる。
トドメをさそうと、足を上げた。
──────轟音。瞬間、世界が裂ける。
幻鳥が消し飛ぶ。
その衝撃が消えた後、残っていたのは一抹の火種だけ。
◇
「本ッッッッ当に、無礼な人間ですね、貴女はッ!」
「殺せない………か、コレなら行けると思ったのだけど」
少し時間は遡り、場面はブチ切れた聖女と独り言を呟くLilyへと移る。
一応やってみようという思考で行われた試み。これが、スナイパーと対物砲を【神殿】と【図書館】の中央に配置した理由である。
対物ライフルにて窓を破壊し、軌道を空けてスナイピング。
検証の意味も含まれた【図書館】外からの一撃は、その柔肌に弾かれて無効化された。
どうやら、攻撃の主体がLilyによるものであれば尽く無効化されてしまうらしい。
既に検証と選別は完了した。更に思考を誘導する。
「フ、フフフ、私を殺せなくて残念でしたね」
「………まぁいいわ。ついでだもの。」
「───ついで?」
「そんなことより、アリスさんがギミック条件を達成した見たいね。クリア目前ってところかしら」
「させる訳ないでしょう、幻鳥が直ぐに殺す───って何処に」
聖女の言葉に耳を傾けることなく、窓の方に歩き出したLily。そこから見える奥には、光の柱が立ち上がった【神殿】が。
Lilyは、そちらを見据える。そうして数秒の静寂を経て、彼女は口を開いた。
スっと右腕を神殿の方に向け、指がスラリと上がる。
「『我が両腕を贄とし、我は世界を撃滅しめんと欲す』」
紡がれるのは、特殊な魔法詠唱。
「『偉大なる原初より滲み出すは天衝の意、轟く空を穿つは槍』」
窓の外に、巨大な槍が生成。赤と黒が混ざりあったような禍々しい色は、見たものの五感に忌避感を与える。
「『覗きし憤怒を乗せ、我は終焉を告げる』」
「【第三涜神】───【神怒】」
指が降りる。
その瞬間Lilyの両腕が吹き飛び──────空間をも裂く怒りを乗せた槍が幻鳥を貫いた。
「なッッッッ!?」
聖女がその瞬間に覚えたのは、怒りと恐怖と安堵の感情。何故その力が使えるのかという疑問、何故その力を使ったのかという疑問。
それを撃ったLilyは、冷静な顔で再び席に着く。
スナイパーで聖女を狙ったのは、本当についでのようなものだった。彼女は最初から、窓を破壊して魔法による遠距離攻撃を行うことを考えていたのだ。そしてそれはブラフでもある。
形勢が再び変わる。一気にLily有利の状況となる。
しかしその両腕はもう無い。仲間や砲台に対する命令が出来なくなった。
両腕でアリスさんを温存できるならば安いものだという思考なのだろう。しかしデメリットはあまりにも大きい。
「こうなったらどうすればいいの?もう命令が出来ないのだけど」
白々しい顔でそういうLilyに、聖女の怒りが更に募る。しかしゲームの進行はギミックには必須。
「ならば音声入力の使用に変更します。公平性を保つ為に両者が音声入力としましょう。どうせ、2人とも互いの命令は理解していたのですし、これくらいなら変化はないでしょう」
少し呆れたように言う聖女。
しかしLilyあくまで冷静だ。
(!やっとU達がギミックエリアに入った)
戦場は、LilyとAliceだけのものではない。
戦況はさらなる変化を見せる。
【涜神】シリーズ
特殊ジョブ【涜神者】になると使えるようになる魔法。とてもつよい。が、捧げる対価に応じた効力を発揮するので、両腕のみだと空間が裂ける程度の威力しかでません。
ちなみにMPは全消費してるどころか、MPを最大容量以上に貯めるスキルを使って蓄えた最上位プレイヤー300人分くらいのMPを全て食ってます。それを貯めるのに相当量のポーションと時間をかけてます。
つまりこの魔法、もともとあまり使用を想定されてない魔法です
ちなみにLilyのジョブは【涜神者】ではないので、ちょっと工夫して発動してます




